その192

キルトログ、カボチャの面を被る

バンザイ! ピーター・パンプキン
誰がカボチャあたまのピーターなんか崇めるもんかって。
――XTC「ザ・バラッド・オブ・ピーター・パンプキンヘッド」(注1)

 ジュノのモグハウスで目覚めると、冒険局から通知が来ていた。「今夜はハロウィンなので、いつもと違う街が見れるかもしれませんよ」などと思わせぶりなことが書いてある。しかし外へ出ても別に変わった様子もないので、両手斧の訓練をしに、タロンギ大峡谷へ向かった。これからはそれが要求されるから是非練習しておいた方がいいと、先日組んだYoungに強く勧められたせいである。

 私が着ている鎧の一式は、バストゥークで百人隊長に配布されるものであるが、これは何も防具だけではなくて、片手剣や両手斧にも、百人隊長専用のものが存在する。どうせならと私はその斧を買った。これで百人隊長の格好をし、あまつさえガルカでありながら、実はウィンダス人という、バス国民が見たら噴飯ものの冒険者が出来上がった。

 主にダルメル相手に両手斧を振り回しているとLeeshaに伝えたら、彼女は「ハロウィンのイベントには参加しましたか」と言う。話によるとウィンダスでは、あらゆる店の売り子たちがお化けの扮装をしており、お菓子を渡すとカボチャのお面や、コウモリの杖をくれるという。街はこの二つで身を飾った冒険者たちで溢れかえっているらしい。道理でLeeshaから大量のお菓子がモグハウスに贈られてきたわけである。そんなに楽しそうなら是非参加せねばなるまいと私は駆け足で祖国へと急いだ。


 他の世界はどうだか知らないが、ヴァナ・ディールには「ハロウィン」の風習が存在する。10月31日にはあの世と現世の扉が大きく開き、死者の魂が蘇ると考えられていた。お化けの格好をするのは悪い霊を追い戻すためである。またお菓子を配るのは、家の外に食べ物を置いて悪霊を足止めした風習に由来するらしい。(注2)

 確かにウィンダスに到着すると、鮮やかなオレンジ色のカボチャを被った冒険者たちが往来している。近くの道具屋に入ってみれば、なるほどLeeshaの言う通りで、店員たちが骸骨の格好をして鎌を持っている。シナモンクッキーを一枚渡すとおありがとうと言って、トリックスタッフをくれた。これは杖頭の部分がコウモリの形をしていて、背負うとコウモリが肩口に飛んでいるように見える。


店員たちが骸骨に……

 店員にお菓子をどれだけ渡しても、どうも同じ人物から品物を貰えるのは、一日に一度きりらしい。私は森の区を北上した。ダルメル牧場の近くの薬屋でLeeshaに会った。彼女はとっくに面と杖を手に入れている。一方私は見かける売り子に片っ端からお菓子を渡すのだが、貰えるのはたいていクラッカーや東方伝来の花火ばかりだ。Leeshaの話によると、森の区はまだおとなしいが、水の区はお化けが徘徊していて大変な騒ぎだという。これはウィンダスに限らないらしく、例えばサンドリアでは、南サンドリアで同じ現象が起きているものらしい。

ゴーストの仕掛けが通過する

 水の区を練り歩いている化け物たちは、主催者が企画した魔法の仕掛けのようだ。私はふわふわと通りを漂うゴーストを追いかけていってお菓子を渡し、パンプキンヘッドを手に入れた。私はそこを離れたが、お化けについて回る冒険者たちが列をなし、一大行列を作っている。これらの仕掛けがトリック・モンスターというのは、「Trick, or Treat」(何かくれ、じゃなきゃ悪さをするぞ)というお菓子を貰う掛け声の洒落なのだろうか。

 私がカボチャを被って見せるとLeeshaは手を叩いて喜んだ。彼女のカボチャはちょうど帽子のように顔の上で止まっているのだが、ガルカの私は頭が小さいせいか、すっぽりと頭全体を覆ってしまった。カボチャは目、鼻、口をくり貫かれて、恐ろしい顔を作っているのだが、実は種族によって被り方も形も細かく違う。例えば完全な覆面となるのはガルカだけだし、ミスラのカボチャの口は、猫を模して鼻筋が割れ、口唇裂になっているのである。


 私たちは水の区の川を背に座り込んで、行列が周回するのを見守っていた。そのうちにどんどん人間が増え始めた。この頃になるとカボチャも杖も手に入れた人が大半だったようだ。久しぶりにIllvestとも会ったのだが、さすがに騒ぎが尋常でないので、もっと静かな落ち着いた場所に移動することにした。

 さて、鼻の院を提案したのはLeeshaだったろうか。生物研究所の裏は小さな庭園となっていて、水辺に夜光草が咲いている。冒険に何の役目を果たすわけではないので、あまり人が来ることがない。私はヴァナ・ディールのこういう無駄な部分が好きだ。

 私たちは車座を作って座った。郷愁など、時には真面目な話もしたのであるが、揃いも揃ってカボチャを被り、コウモリの杖を担いでいるので、傍目から見たらたいへん滑稽だったろう。その内にIllvestが去り、Sifが、Greenmarsがやって来た。辺りはしんしんと暮れていく。私がちょっとした痴態を見せたことはご愛嬌――何といっても、年に一度のお祭りの夜なのだから。


座り込んで雑談を

注1
 XTC(エックスティーシー)はイギリスのポップバンド。

注2
 ハロウィンは10月31日。あらゆる聖人を祝う万聖節の前日のお祭りです。古代ケルト人の暦によると大晦日にあたり、一年の収穫を感謝していたのがキリスト教に取り入れられたようです。カボチャの面などの由来は長くなるので割愛します。専用のサイト等を検索してご覧ください。


(03.11.10)
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