その200

キルトログ、リンクシェルを買う

 冒険者当局が、冒険者同士の結婚を、公的にサポートしていなかった時代。愛し合った二人が、自分たちで結婚式を開いたことがあった。

 新郎新婦は、新品のリンクシェルを購入した。そこから生まれるリンクパールを、二人が持つことにした。リンクパールは所属するグループを示すバッジのような役割を持つ。通常それは、会員数を拡大するのに広く配布されるのだが、彼らはリンクパールを二人だけのために使った。パールを身につけている限り、二人の愛は変わらないということを、かたちとして示したのだった。

 彼ら夫婦が誰であるか、今何をしているのか、私は知らない。しかし、こういう素敵なやり方で愛を誓った二人がいるということを、私は密かに心に留めていた。私はハロウィンのさい――Leeshaも列席していた――この逸話を皆に話した。当夜、ガルカには縁の薄い話だ、などと言って笑ったのだが、まさか自分が結婚の当事者になるなどとは思ってもみなかったので、場に居合わせたGreenmarsやIllvestらが、もし今夜の婚約のことを耳にしたら、「何を、舌の根も乾かぬうちに、ぬけぬけと」と思って、あきれ返るかもしれぬ。


 ウィンダス港には桟橋が突き出ていて、船が数隻停泊しており、それぞれが小商店として営業している。その武器屋と防具屋の間に、リンクシェルの商人がぽつんと立っている。私たちは彼女のもとを訪れた。このとき、どうやらApricotが同じエリアにいるらしいことが判って、私たちは――少なくとも私は――周囲に気を配って歩いた。Leeshaと一緒にいること自体は特に珍しくないのだが、リンクシェルを買っているとなると、釈明のしようがないのである。

 思えばこれは妙な話である。結婚は犯罪ではない。Apricotに見つかって悪い理由もない。それにいずれ知れることでもある。何もこそこそする必要はないのだが、自分が慣れぬ状況に落ち着いたことで、何だか照れくさいやら、恥ずかしいやらで、極端に人目を気にするようになっていたのだった。このような場合には(しょせんは自意識過剰に過ぎないのだが)、周囲の人間が、自分たちだけを見ているような気にさせられるものだ。

 一方Leeshaは落ち着いたものだった。商人と話して値段を確かめたら、8000ギルした。自分で払ってもよかったが、彼女が半分お金を出しましょう、というので、記念の品ということもあるし、二人で購入することにした。Leeshaは既に別のリンクパールを身に着けている。先日知ったのだが、これは誰かから貰ったものではなかった。彼女は自分でリンクシェルを買って、自分で装備していただけだった。もしリンクパールをつけていないと、うちのグループに入らないか、などと誘われたりすることが結構あるのだ。パール装備の有無は外部から簡単に判るので、彼女のようにしておけば、無理な勧誘を受けることがない。だがLeeshaはそれを外し、改めて私と二人だけのリンクシェル・グループを作るのだ。私の責任は重大だった。

 リンクシェルの開封者は、パールの色と、グループの名前を決めなければならない。これは私に一任されたので、何か二人にちなんだものを、と考えを巡らせた。色はすぐ決まるんですが、名前が難しいんですよね、とLeeshaが言う。私は彼女の故郷の色である、サンドリアの燃えるような赤にしようと思った。しかしそれを聞いたLeeshaは、意外なことを私に告げたのだった。

「丁度いい機会だから、ウィンダスへ移籍しようと思います」

 これには仰天した。彼女をそこまで束縛するわけにはいかぬ。だがLeeshaは頑として聞かない。こういう転機でもなければ、籍を移すことはないだろうというのだ。そこで私も諦めて、とにかくパールの色と名前の決定に注意を戻した。彼女が本気だとしたら、サンドリアの赤は主旨にそぐわなくなる。

 少し逡巡して、ようやく名前を「Starfall」、色を水色に決めた。それは思い出の星降る丘にちなんだもので、二人の一部始終を見ていた、青白く漂う灯火の色を模してある。


 二人で天の塔へ行く途中、私は改めて、これまで一人で自由に生きてきた彼女に、いろいろな制約を課すことになった事態を反省していた。国を移るのはただごとではない。サンドリアでは比較的知られる存在だったLeeshaも、ウィンダスに来たら、一から名声を築かなくてはならない。それに移籍には大金が伴うのだ。星の大樹の受付で話を聞いて、Leeshaがうっと唸った。何でも1万4000ギルもの料金を請求されたらしい。

 私と同じウィンダスに移るという彼女の選択は尊重するし、嬉しくもあった。それでも、Leeshaに犠牲を強いるのはためらわれた。幸いもう一度お金を払ったら、元の地位のまま、彼女はサンドリアへ戻ることが出来る。以上の事実がなかったら、私はもう少し慎重に決断するようにと、Leeshaと膝をつきあわせて、諭していたかもしれない。

 ともあれ、Leeshaと私は婚約し、彼女は晴れてウィンダス国民となった。私は、私の人生の転機が、たった一晩で訪れたことに、いまだ当惑を覚えたままだった。


(03.11.22)
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