その3

キルトログ、「星の大樹」を訪れる

 森の区をそぞろ歩いていると、見たこともない動物の姿が見えたのでそちらに足を伸ばした。

 森の区から北へいけば、
石の区へ通じる。その途中である。通路が土から敷板になって、足音がとん、とん、とんと弾み出した。木で出来ているのは、この道が崖からせり出しているからである。木製の柵がこしらえられていて、一段低くなったところに、首の長さだけでも私の背ほどはありそうな、オレンジ色の哺乳類が数体、のっそりのっそりとねり歩いている。

 耳と首が長く、おそろしく痩せている。顔は細長く、キリンかラクダを思わせる(冒険者の間で、そのものずばり「キリン」と呼ばれていることは、後で知った)。隣のヒュームの商人も、珍しさに感嘆していた。近くにいたミスラをつかまえて話を聞く。どうやらダルメルという種類の生き物らしい。見下ろしていてもずいぶん大きい! 何しろ背丈の点では、近くを生えている木を軽々と越すくらいなのである。

 ここはダルメルを飼育する牧場なのであった。確かに、三体が生活するのに困らないだけの広さは確保されている。脇に粗末な小屋が建っており、世話係のミスラが眉をくもらせていた。ダルメルのえさであるパパカ草が最近とれない、というのである。クロウラーという巨大な芋虫が増えていて、パパカ草を食いつくしてしまうのが原因らしい。そこでこれを退治してくれる勇敢な冒険者を探しているようなのである。

 そこまで話を聞いて、はてと思った。入国した折り、ナナー・ミーゴ嬢から、何か仕事が欲しかったら、ダルメル牧場に行ってみるとよい、というアドバイスを貰っていたことに思い至る。レクチャー料は法外だったが、なるほどあの泥棒猫さん、まったくの嘘をついたのではなかったわけだ。

 世話係のミスラは、クロウラーの落とす
絹糸を3巻き持ってきてくれれば、証拠とみとめて、成功報酬を出そう、という。私は快諾した。モンクなんで素手で虫を殴ることになるが、こういう市井の人々の頼みを無視していては、冒険者などをやっている意味はないからだ。

 私はミスラに別れを告げて北へ移動した。


 ウィンダスに来たからには、星の大樹をぜひ観ておかなくてはなるまい。こんなことを言うとまるっきり観光客のようだが、少なくともいち国民として、名所旧跡に関する見聞は深めておく必要がある。

 石の区中央に、巨大な樹が鎮座している。これが星の大樹である。その巨大さは途方もない。中は空洞で、3階以上の層に分かれており、ひとつひとつのフロアが運動場ほどの広さはある。幹の周囲を回るだけでもまず10分はかかる。その上に枝葉が、きのこのようにカサを広げているわけだから、威風は圧巻だ。晴れた日には他の区にいても星の大樹が見えるという。それほど巨大なのである。

 星の大樹はウィンダスの国旗にも描かれているが、実際には象徴以上の役割を持っている。大樹は別名
天の塔という。最上階には「星の神子」と呼ばれる預言者がいて、未来がうつる天文泉を覗き、天の啓示を伺うらしい。つまり祭政一致というわけだが、彼女の神託は方針に過ぎず、実際は政府の合議制で政策を決める。その会議場も同じ天の塔内にあるというから、この大樹が単なるシンボルに留まらないことを、お判り頂けると思う。

 天の塔の周りをぐるりと回り、中に入った。石造りの大広間である。中央に丸い泉が清水を湛えている。ふとい大樹の根が、壁面をところどころ豪快に貫いており、フロア全体が静謐な印象ながら、生命のあらあらしさを感じさせる。地下に向かって幅の広い石段が延びていたが、私はそれを無視して、泉の向こうにある両扉をくぐった。

 カウンターが部屋を横切り、その向こうに三人のタルタルが頭を並べている(彼らの頭身が低いからである)。ここは役所で、彼らは役人である。主に冒険者相手の受付をするのだ。ここではワールドパスという、しろうとの冒険者を優先して招待するパスワードが売られているが、私には特に用事がない。そこで礼だけ言って退出し、ちらちらと中を見て回ったあと、外へ出た。昼前に入った筈なのに、もう夕方を過ぎて、周囲はすっかり暗くなっている。
 
星の大樹 星の大樹。
天気がよければ他の区からでも見える

 川や池が堀のように大樹を取り囲んでいる。小さな島々が円周上に浮かび、互いに板で橋渡しをされているので、ぐるりと歩くことが出来る。島々に建っている一軒家には、それぞれ偉い学者たちが住んでいて、独自の研究を続けているという。大半は五院のもと院長であるそうだが、失礼ながらとてもそんなふうには見えない。

 ウィンダスには五つの
があって、それぞれが魔法の専門研究機関として機能している。院は政治的な役割も担っている。院長たちは優れた魔法使いであると同時に、政府の一員として国の方針を決めるのだ。だとしたら、もと院長というのはどれほどの大人物だろう、と期待しておかしくないと思うが、実際に私が会ったのは片っ端から変人ばかりであった。

 もと口(くち)の院(5つの院はこんなふうに人体から名をとっている)の院長、というタルタルの女性シャントットは、髪を両脇で束ねたまことに可愛らしい容姿ながら、絶えず誰かに見張られていると猜疑心旺盛で可愛げがない。あげくのはてにボムの灰骨くず2つを私に持って来いと命令してほくそ笑む。誰に復讐するつもりだか知らないが、閉口してさっさと逃げてきた。彼女が偉い学者だとはにわかには――今でも――信じがたい。

 何という名前か知らないが、ミスラの借金取りに押しかけられている学者の家もあった。マンドラゴラを研究して引きこもっているヨラン・オランもただものではないが、悲劇というか喜劇というか、カーディアンに連れ去られたまま戻ってこない学者というのもあった。

 おおよそ一つの道を極めるとある種の風格が伴うものだが、タルタルの場合容姿とのギャップが激しいためか、どうも威厳という点で説得力に欠ける。その点、天の塔のガードハウスは違った。ここで私は冒険者として国からミッション(使命)を受ける。隊長であるゾキマ・ロキマは部下を率いるにふさわしい風格を備えている。口の院で魔法実験を手伝え、というのがその内容だが、どうもシャントット嬢の後を継いだ現在の院長も、素行はろくなものではないらしい。


 とちゅう
競売所(オークションハウス)というのがあった。小さな窓が、5つ6つ並んで開いた建物で、あかるいオレンジ色ののぼりが立っている。どうやら冒険者は互いの不要な持ち物を、この施設を通じて売り買いできるらしい。現在は閉まっていて利用できないが、これからお世話になるかもしれない。

 競売所の前に、腹の出たヒュームが立ちんぼうをしている。彼は郵便局の役人だが、配達人がモンスターの襲撃を受け、一部の手紙が行方知れずになっているらしい。私は窮状を見かねて、自分に出来ることがあれば協力しましょう、と申し出てみる。

 東サルタバルタタロンギ大峡谷の間での事件らしい。まったく地理がわからないが、とりあえず合点はしておいた。タルタルたちの話によると、
サバンナダルメルという生き物は手紙を食ってしまうのだそうだ。ダルメルというと先刻の動物だが、なるほど紙でも食って生きてそうな面つきではある。いっぽう、サバンナララブは巣作りのために紙をためこんでおくらしい。ララブというのは、ウィンダス近隣に生息するウサギのことである。

 つまり、ダルメルは駄目だが、ウサギなら手紙を持っている(ことがある)というわけか。

 その情報を反芻し、要点を簡単にメモしてから、私は歩いて森の区へと戻った。


解説

クエストとミッションについて
ワールドおよびワールドパスについて

 

 FF11では、民間人からトラブルの解決を依頼されることがよくあります(具体的な内容例は本文を参照して下さい)。これをクエストと言います。クエストは一度に何種類でも引き受けることができ、成功のおりには金品が与えられるのが一般的なようです。
 ミッションは国から与えられるクエストと考えればいいでしょう。ほとんどはガードの詰め所であるゲートハウスで受けることができます。ミッションをこなしていくことは国での地位が上がることを意味し、高いミッションランクになれば、冒険者は顔役として認められ、入れなかったところに入ることができたり、要人と会うことを許されたり、シグネットその5を参照)の効果が長くなったりします。物語に深くかかわっていく道程で、ミッションの解決は欠かすことができない要素でしょう。

 ところでFF11には27のワールドが存在します。この考え方について説明しておきましょう。
 冒険者が旅するのはヴァナ・ディールという単一の世界です。しかし、膨大なプレイ人口が同一の世界に集まるのは通信環境的なリスクが大きいので、27個の同条件の「ヴァナ・ディール」を作り、冒険者一同を27に分散しているのです(手っ取りばやく言えば、27個のパラレルワールドが存在しているわけです)。
 これらはスクウェア・エニックスが27のサーバーを立てて管理しています。一つのサーバーは一つのワールドに相当します。サーバーには固有の番号と名称がつけられています。自分がどのワールドに所属しているのかは、ログインした時に最初に出る「welcome to____ 」という文章から知ることが出来ます(所属ワールドは、キーボードで[/serves」と打ち込んで確認することもできます)。

00 Vahamut(バハムート) 01 Shiva(シヴァ)
02 Titan(タイタン) 03 Ramuh(ラムウ)
04 Phoenix(フェニックス) 05 Carbuncle(カーバンクル)
06 Fenrir(フェンリル) 07 Sylph(シルフ)
08 Varfale(ヴァルファーレ) 09 Alexander(アレクサンダー)
10 Leviathan(リヴァイアサン) 11 Odin(オーディン)
12 Ifrit(イフリート) 13 Diabolos(ディアボロス)
14 Caitsith(ケットシー) 15 Quetzalcoatl(ケツァルクアトル)
16 Siren(セイレーン) 17 Unicorn(ユニコーン)
18 Gilgamesh(ギルガメッシュ) 19 Ragnarok(ラグナロク)
20 Pandemonium(パンデモニウム) 21 Garuda(ガルーダ)
22 Kerberos(ケルベロス) 23 Kujata(クジャタ)
24 Bismarck(ビスマルク) 25 Seraph(セラフ)
26 Laksmi(ラクシュミ) 27 Midgardsormr (ミドガルズオルム)
 Kiltrogが所属しているのは、フェニックスワールドです(ワールドは登録者の増加に伴って新設されることがあります)。
 

 ところで、キャラクターはワールドを越えて移動することはできません。「シヴァ」ワールドでプレイが始まってしまったら、ここで作ったキャラクターは、シヴァワールドのみに存在することになり、途中で例えば「フェニックス」ワールドに移動させることはできません。違うワールドに存在しているキャラクター同士は決して出会うことはないし、会話でやりとりすることもありません。これは我々がパラレルワールドを超越できないのと同じ理屈だと考えればいいでしょう。
 
 ワールドはゲームを始めるさいに基本的にランダムに決まります(その時点での所属人数の少ないワールドが優先される傾向にはあるようですが)。
 先に「違うワールドのキャラクター同士は会えない」と述べましたが、例えば現実世界の友人同士がヴァナ・ディールでパーティを組みたいときは、サーバーを何らかの方法であわせておく必要があります。
 上記のワールドパスは、プレイヤーを同一のワールドに招きよせるパスワードです。キャラクター作成時にこのパスワードを入力すると(入力欄があります)、新たに作られたキャラクターは、ワールドパスが購入されたワールドに優先的に配属されます。ただし先に述べたように、既に作成済みでいずれかのワールドに所属してしまったキャラクターを移動することはできません。あくまでも新しく作られたキャラクターのみが対象です。

 したがって友人同士でやりたいときは、いずれかが先にプレイし、ワールドパスを購入して、一緒にプレイしたい友だちに教えてあげなくてはなりません。ワールドパスの購入はゲーム内通貨「ギル」で支払います。一つのパスで数人を招き寄せることができますが、パスワードの有効期限は購入後1週間程度なので、手遅れにならないうちにキャラを作ってしまいましょう。
 もっとも所属ワールドはランダムで決まるのですから、望みのワールドに行き着くまでキャラクターを作っては消し、作っては消し……してもかまいません。ただし時間がどれだけかかるかはやってみないとわからないので根気の勝負となるでしょう。

 なお、文中のヒュームに関しては次で解説します。

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