その18

キルトログ、大人数でタロンギ大峡谷に赴く
タロンギ大峡谷(Tahrongi Canyon)
 かつて、この地を流れていた複雑な流域によって多く浸食された大渓谷。
 息をのむような雄大な景色は圧巻だが、渓谷を抜けて旅をしようと思う者にとっては、曲がりくねった川底を無防備に進むことは、非常に危険を伴う。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 ふとしたことから未知の領域に踏み込むことになった。東サルタ北部にあるタロンギ大峡谷である。

 6レベルの頃である。森の区に帰って店に寄ったりしていると、東の魔法塔に行くメンバーを募集する声がして、東の門の前に来てください、と言う。

 たいしてすることもないので出かけていった。時間が時間なのか、門前は冒険者でごった返している。こういうわかりやすい場所は待ち合わせに利用されるばかりか、商用の冒険者が自慢の品々を売ろうと集まってきたりするので、時間によっては余計に混みあったりする。

 メンバーを募集しているのは、私と同じレベルのタルタル数人であった。遺跡に行くのは初めてだ、と言っている。案の定というか何というかガルカは私ひとりである。このあたりでは冒険者たちが好き勝手に会話しているので、誰が誰に向けて何を話しているのかまったく判然としない。
 そこでしつこくパーティに加わって下さいと頼むタルタルが一人いた。


 私はすでに募集者のグループに入っていたのだが、そのタルタル氏は戦士が必要なのです、としつこく食い下がっている。どうも話が変だと思って尋ねていたら、募集者のグループとはまた別のパーティへの誘いなのだった。

 一度パーティに入ってしまったものを、と躊躇したが、どちらにより自分が重要かを考えた。募集者のグループは6レベルのタルタルが3人はいる。彼らは不安がっているが、戦力的には充分だと私は知っている。戦士が敢えて必要ということもないだろう、と踏んで、いささかためらわれたが、用事ができたから抜けますといって断った。まったく申し訳ないことをしたものだが、当然ながらこちらのタルタル氏にはたいへん喜ばれた。

 しかし私は彼らが何をするかも知らないのである。そう考えるといささか不安ではあった。


 タルタル氏のほかに3人の仲間が、少し離れて立っていた。タロンギ大峡谷へモンスターを狩りにいくのだという。メンバーは以下の通りである。

 リーダーの
Landsend(ランズエンド)。タルタルのモンク。レベル8。
 私をパーティに誘った
Ryudo(リュード)。赤魔道士でレベル6。
 唯一のヒューム、
Troia(トロイア)。黒魔道士が7レベルで、3レベルの赤魔道士をサポートジョブにつけている。
 白魔道士
Poporon(ポポロン)。レベル5.こちらもタルタル。

 なるほど戦士が必要なわけである。

 タロンギ大峡谷へは足を伸ばしたことがないから、少し私も楽しみであった。しかし道をよく知らない、という不幸な状況が、戦士としての役割を微妙に狂わせた。

 先導はリーダーのLandsendが行うのであるが、パーティに不慣れな者――私も含め――が何人かいて、東サルタバルタで少しはぐれそうになった。隊列が延びきった状態で戦闘に入るものだから、戦場につくのが遅れてしまう。東サルタの敵なんぞは、これだけの数いれば目を瞑っててもまず勝てる。練習のために飛びかかった敵が、私が斧を抜く頃にはなますにされていることがたびたびあった。当然経験値などは、文字通りすずめの涙しか入らないのであった。

 悪いことに、過剰な自信がついたようである。まだ見ぬタロンギでの敵に、みんなはいちように期待していた。

タロンギ タロンギ。
咲いているのはサボテンの花か

 タロンギは見渡す限り「赤土の壁」といった風情である。緑が枯渇しており、殺風景な場所だ。ほこりっぽい。地形が起伏に富んでいるので、一同は坂を上ったり、下りたりをしょっちゅう繰り返さねばならなかった。

 ここでの先導はTroiaが行った。このひとはサポートジョブをつけているだけあって、経験が豊富である。彼が「根っこ」と呼ぶ敵――たしかに地下茎らしきものがふよふよと漂っていた――は、2回攻撃を仕掛けてくるので危険だなど、モンスターの知識もじゅうぶんある。

 私は初めて集団戦闘で「挑発」をしかけ、魔道士にとっての好ましいタイミングを(少しだけだが)学んだ。はっきり言ってたいして経験は得られなかったが、こういう学習がのちのちの糧になればそれでよしとするべきだろう。


 我々にとって不幸なことに、タロンギはレベルアップをはかる先客でいっぱいであった。めぼしいのはみんな彼らに狩られてしまったものらしい。

 我々は
Seal(シール)Es(エス)という陽気な二人組に出会った。前者が6レベルのモンクに、3レベルの白魔道士をサポートにつけたタルタル、後者がヒュームの女性で8レベルのモンクである。パーティは6人までが人数の上限なので、既に5人組である私たちに彼らが加わることはできない。そこでまた会いましょうだの何だのと別れを惜しんでいると、誰かがアライアンスを組めば、ということを言い出して問題は解決した。

 アライアンスとはひらたく言うとパーティの集合体である。パーティが3隊まで隊列を組むことができる。ということは、最大18人までが組めるわけだ。今回は合わせても7人、通常パーティより1人多いだけなのだが、アライアンスはアライアンスに違いない。これで我々はついに「大集団」になったのだった。

 どんどん仲間を増やそう、なんて誰かが言ってたが、この時点で本来の目的は失われた。メンバーが増えれば増えるだけ、たしかに強力にはなるが、得られる経験は反比例して少なくなってしまう。それでも私は、野暮は言わないことにした。何しろここまで仲間が増えたのは初めてだったし、経験がすべてでもあるまい。ほとんどのメンバーは楽しんでいる。楽しければよし、というのもまた我々の真実であろう。


 ところが、再三言っているように、ヴァナ・ディールでは油断は禁物である。人数が多いということで、我々はやはり浮かれていたのであろう。

 鉄の鎧のようなものを着込んだゴブリンを見つけたので、みんなでかかってみることにした。7人もいるから簡単に勝てるだろうと思いきや、それは大きな間違いだった。

 パーティ戦闘で大事なのは、盾役である戦士の体力と防御力である。これを簡単に凌駕する敵は、どれだけ人数がいようがかなうものではない。あっという間にLandsendがやられた。私の挑発も間に合わなかったが、無駄だということはすぐわかった。敵の一撃、私の体力の減り具合からして、回復がおっつかないことは一目瞭然だったからだ。

 それでも私は最後まで踏ん張った。鎧を装備した戦士でこの状況であるから、魔道士にいたっては簡単にやられてしまうだろう。私は助からないまでも、呪文の詠唱の時間は稼げるやもしれぬ。案外それで倒せるかもしれない。

 私は戦闘の途中で地面に倒れた。周囲の確認はおぼつかなかったが、何人かは生き残って戦いを続けているようであった。しかしほどなく全てが終わった。辺りに仲間が死屍累々と横たわる……。
 7人のアライアンスはあっけなく全滅した。


 不幸なことに、友人同士であったSealとEsは、SealがジュノのHPに戻されたため、別れを経験しなくてはならなかった。8レベルの身で大公国はあまりに遠い。Sealは魂だけになりながら、Esをよろしく頼むと私たちに繰り返し述べ去っていった。

 私たちは東の門の前でひっそりと解散した。Esと友情の誓いをかわしたのち、私も東サルタに再び鍛錬に出たのだった。


解説

サポートジョブについて

 通常、冒険者はジョブを一つしか選択することはできませんが、一定レベルを超えてから、ある場所で受けられる特殊なクエストを攻略すると、別のジョブの特性を補足的に付け足すことができます。
 これをメインジョブに対して「サポートジョブ」(通称サポジョブ=SJ。サポと短縮することも)と呼びます。

 サポートジョブは、メインジョブのレベルの半分まで、とレベルの上限が定められていますが、戦士に魔道士のサポジョブをつけると、魔法を使える戦士ができたり、モンクをサポジョブにするとHPが大幅にアップしたり、と特典が多いので、クエストを受けられる冒険者はぜひ挑戦してみましょう。

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