その20

キルトログ、Kewellに出会う

 ある風曜日(注1)のことであった。一人の客人が、バストゥークから遠路はるばる魔法の国ウィンダスを訪れた。

 私が彼女の到着を知ったのはほんの偶然だった。港区にいる、というので驚いて挨拶に行った。ウィンダス四区の中でも港区ほど人を探しやすいところはない。というのは、店舗やギルドが集中している海側にいる確率がかなり高いからである。これが石の区になると、天の塔も頻繁に行くような場所ではないから、まず条件をしぼりきれない。ぐるりと塔をとりまく橋は各辺の行き来ができず、そのせいでお互いにすれ違う可能性だって高くなるのである。

 閑話休題。

 
Kewell(キューウェル)はエルヴァーンの女性だが、バストゥークに籍を置く冒険者である。10レベルのシーフをサポートに置いた20レベル戦士だ。彼女はよほど珍しかったのか、魔法屋と武器屋が軒を連ねる桟橋の入り口で、カーディアンをしげしげとながめていた。

「Kewellさん」

と私が話しかけたら、彼女はたいへんに驚いたようすであった。

 
 折りしもそこにRyudo
がやって来て私に挨拶をした。知り合いかと彼女が聞くので、このあいだ一緒にタロンギを旅し、全滅して戻ったのですと答えた。この方ははるばるバストゥークからいらしたのだ、とRyudoに紹介すると、タルタル氏はすごいですねとひとしきりに感心している。

 Ryudoに別れをつげて、私たちは場所をうつすことにした。どこか人のあまりいないところがいいのだが……。私が思いついたのは、全く意外なところであった。おそらくウィンダスにおいて、これ以上に理想的な場所はないに違いない。

 彼女が港区にいたのは幸いだった。私は彼女を
飛空会社の屋上へと招待した。


 飛空会社の屋上へ上る階段は、少し本通りからは見えづらい上に、たいして何があるわけでもないので、人が来ないことが多い。誰も寄り付かない場所などというと得てして殺風景なものだが、ここはたいへんに見晴らしがいいし、だいいち潮風が流れ込むから居心地がいい。

飛空会社 飛空会社を大通りから見たところ。
左端に小さく見える階段に注目
屋上の景色 屋上からの風景(本文では夜)。
塀の下に小さく見える広場に、飛空艇が着陸する

 海の遠くに見える魔法塔では、タルタルの放つ魔法が、噴火口のように赤い光を放っている。そして時間が来れば、人類の叡智の結晶である飛空艇が、軽やかなプロペラ音を立てて離着陸するのだ。

 ウィンダスは綺麗なところね、とKewellがお褒めを下さる。緑が多いでしょうと私は答えた。彼女はタロンギを抜けて来たんだそうだ。あそこはどうにも殺風景です、と感想を述べると、彼女はちょっと遠い目をして、それでもあのほこりっぽさはバストゥークを思わせるのだ、と言う。どうにもこれは失言だった。私は軽口を反省した。

 彼女がなぜウィンダスを訪れたのか、私には見当がついていた。すくなくとも高レベルの冒険者のこと、物見遊山の目的だけで来たのではあるまい。
「お国の用事ですか」と尋ねると、そうだと肯く。

 いきおい話は獣人のことにおよんだ。


 Kewellの語った内容は興味深いものであった。獣人同士は、各大陸で相関関係にあるのだと言う。

 我々の「愛すべき隣人」である鳥人ヤグードは、ウィンダス地方にしか生息していない。こういう地方獣人は各国にそれぞれある。彼女の本国バストゥークでは、
クゥダフという亀型の獣人が人々を襲い、忌み嫌われている。サンドリアにはオークがいる。ゴブリンは世界中のいたるところで見られるそうだ。ホルトト遺跡でもよく出会うから、案外太古の昔から生息していて、両大陸(注2)に勢力を拡大したものかもしれない。

 彼女はバストゥーク政府の密命を受けてやって来た。詳細はもちろん語ってはくれなかったが、ウィンダス政府にばれないように、ヤグードの戦力を削る、というのがミッションの内容のようだ。私は彼女にこの国の理想と現実の溝について話した。政府の建前とはうらはらに、彼らは容赦なく冒険者を襲う。実は私が手の院の次に受けたミッションは、ヤグードの本拠地
ギデアスに援助物資を届けろ、という、狂気の沙汰としか思えないような命令なのであった。

 もともと友好路線には国民も疑問を持っているのだ。私もヤグードをぶちのめすのに躊躇はしない、と言い切って、これはひと気のないここだけの話だから、政府にもれ聞かれてはたいへんだ、といって二人で大声で笑いあった。

 
 ウィンダスにはいつまでいるのかを尋ねた。彼女は案外長くなるかもしれないと言う。その次はサンドリアに行くのだそうだ。サンドリアはKewellの本当の生まれ故郷である。ガルカの私がウィンダスという異邦の地にありながら、この国と住んでいる人々に強い思い入れがあるように、エルヴァーンの彼女もまた、バストゥークを祖国と認めて、いっしんに愛を注いでいるようだ。

 私たちは似た境遇にあるのかもしれない、とちょっと失礼なことを私は考えた。


「いつかバストゥークにおいでなさい」と彼女が言う。
「ガルカの集落もあるから」
 それを聞いて懐かしいような、さみしいような気分になった。
「ちょっと……ヒュームとの間に溝があるけど……」
「それは知っています」
「でも、いい人もいっぱいいるから」
「そうでしょうね」


 空が白んでいた。いつの間にかそんなに時間が立っていたのだ。

 彼女は天の塔への行き方を尋ねた。私は簡単に説明してから、よければご案内しますが、と申し出た。しかしこれには丁重なお断りがあった。自分の足でウィンダスを散策してみたいというのだ。これはもっともだから、念のために天の塔の特徴を伝えてから、Kewellと手を振り合って別れた。

 最後に彼女は、サポートジョブを身に付けるほどの実力に達すれば、世界をまたにかけられるようになると言った。そうなると国際人同士、「ひょんなところで出会うもの」なのだそうだ。それは船や飛空艇の中でかも知れぬし、ジュノやサンドリアほか、異郷の地の街角ででもあるかもしれない。

 Kewellは、もしも暗黒騎士を目指すならば、バストゥークに必ず来なくてはならないと教えてくれた。私にはそんな気は毛頭ないのだが、もとはモンクで今が戦士の身だ。とすると何があってもおかしくない。案外強さへの欲求に身を焦がして、魔道に墜ちることも将来あるやも知れぬ。


 Kewellと別れてからしばらくして、コンクエストの報告があった。ずっと最下位だったバストゥークが反撃を開始し、遂に1位に踊り出た。わがウィンダスは最下位にまで順位が下がってしまった。

 森の区を通ると、大道芸人のキャンプが閉まっているのに気づいた。おそらくもっと実入りのいい国へ場所を移したのだろう。あの火吹きガルカのことを思い出して、私は少しさびしい気分になった。


 ご存じの通り、私はガルカである。しかしこの国に籍を置き、この国でタルタルやミスラと寝食を共にする、れっきとした国民でもある。

 だから声を大にして言いたい――


 連邦の兄弟よ、ともにより一層の奮起を! 


注1
 ヴァナ・ディールの一週間は全部で8日あり、各曜日にクリスタルの名前がついています。曜日によって属性魔法の威力が異なり、例えば風曜日はエアロ(風で敵を切り裂く魔法)が強くなったりします。正反対の属性は逆に弱くなるので注意しなければいけません。
 また、各ギルドや店舗は、曜日によっては定休日となるので、営業時間を確認して来店する必要があります。品切れの商品はこの定休日に入荷するようなので、どうしても買いたい品物は翌日の朝早く来店して手にいれましょう。

注2
 バストゥークとサンドリアは
クォン大陸、ウィンダスはミンダルシア大陸にあります。両大陸を繋ぐヘヴンズブリッジ上にある都市国家がジュノです。
 両大陸の移動は、陸路をとるならジュノ経由。海路をとるなら、クォンの港町セルビナ、ミンダルシアの港町
マウラを繋ぐ定期便に乗らなくてはなりません。
 なお飛空艇はジュノと各国を結んでいますが、飛空艇パスがないと乗ることはできません。

追記:このページに出てくるKewellさんは、Kiltrogがヴァナ・ディールに降り立つ前から、ご自分のサイトで冒険手記を公開なさっている方です。Kiltrogがこの手記の読者だったため、いささか偶然ではありましたが、この日の出会いに繋がりました)


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