その25

キルトログ、旅立ちを決意する

 突然だがこのたび、ウィンダスを去ることになった。

 多くの読者諸氏はこの唐突な成り行きに戸惑われるかもしれないが、それは当の本人も同じである。ただ、私がこの国に嫌気がさして逃亡するのでない、ということだけは、今この場を借りてはっきりとお断りしておく。

 それはまったく日常的な光景だった。私はいつものようにDenissに連絡を入れた。思いがけず、彼女はタロンギにいるという。

「あのね、あたしね」
 彼女の語った言葉がことの発端だった。
「バストゥークに移住することにしたの」

 この時の私の名状しがたい気分を理解していただけるだろうか。

「バスへ? なぜ?」

 それにはすぐに返事が来た。彼女の友だちの多くはバストゥークに住んでいるのだそうだ。それに続いて、私に会ってさよならを言わなかったことに関して彼女は詫びの言葉を述べた。

 それにしても、あまりにも唐突な話だった。バストゥークは別大陸にあり、たかだか10レベル未満の冒険者が気軽に行き来できる場所ではない。Denissの場合は、手練れの友人が迎えに来てくれるそうではあるが、それでも気の遠くなるような時間と危険が間に横たわっているのである。


 ここで私は、まだ見ぬバストゥークのことを考えた。

 私の中にあるのは全く奇妙な感情だった。友人であるDenissが、私に別れの言葉もかけずに、旅立ってしまった寂しさのようなものは、もちろんあったけれども……ここへ来て何故か、私のキャリアに多大な干渉を始めたかの国に、大きく惹きつけられていく気持ちを抑えることができなくなった。

 「バストゥークへ行くなどとは、考えたこともなかった」と言えば嘘になる。ただそれはずっと先のことだと思っていた。私に大陸を横断するだけの実力があるとは思えないし、ウィンダスでやり残したこともたくさんある筈だから……。

 ……。
 本当に、そうだろうか?

 
 冒険者として3つのミッションをこなし、私はウィンダスにひとまずの恩返しを果たした。一段落した今の自分には、新しい仕事はまだ入ってきていない。

 そして折りしも、バストゥークはコンクエストで大逆襲を始め、ウィンダスは最下位にまで転落してしまった。今いちばん勢いのある国家は、間違いなくバストゥークだと言えるだろう。

 そして、Kewellの誘いの言葉……。
 ウィンダスで陥っていた、ある種のマンネリズム……。
 Denissの移住……。
 何より、ガルカであるという私の素性……。

 すべての針は今、正確にバストゥークの方向を指し示しているのだ。


 サポートジョブを得る旅に出ることは、私の予定にちゃんと入っている。見事試練を乗り越えたときには、バストゥークに長く滞在するつもりでいた。
「Deniss」
「なに?」
「もし、私がDenissの後から、バスへ行くと言ったら――」
「……」
「あなたは嫌がるか?」

 そんなことはないけど、なぜかと彼女が聞いた。彼女が私に追いかけ回されていると感じて、不快感を覚えるかもしれなかったからだ。

 少なくとも私がバストゥークに行きたい理由は、上に挙げたようにいくつもある。説明しようとしたが、わずらわしくなるのでやめた。特に、私がかの国に感じている郷愁は、私がガルカである、という単純な事実にのみ起因する。ここでは、わかる人にはわかっていただけるだろう、としか言うことができない。

「では、私も身の回りを片付けて、早晩バストゥークへと立とう」

 腹は決まった。こうして私は、大恩あるウィンダスを後にすることになった。

 これがクリスタルの啓示なのかどうかはまだわからない。

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