その29

キルトログ、悪名高き鉱山に踏み込む
パルブロ鉱山(Palborough Mines)
 元々は、クゥダフ族の住居だったが、そこで希少なミスリル鉱が発見されたため、バストゥーク共和国は軍団を送り込んで、クゥダフ族を殲滅させると、巣穴をヒューム族の秘術『踊る火』によって破壊し、鉱山に作り変えてしまった。
 やがて、ここはヴァナ・ディール随一のミスリル鉱山にまで発展したが、クゥダフ族が精強な兵団を送り込んで、ここを再び奪回し。現在に至っている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)

 バストゥークが、長らくコンクエストで劣勢だった理由……ある人の考察によると、北グスタベルグのパルブロ鉱山に原因があるのだと言う。

 北グスタベルグの最北に口を開ける、寂れた鉱山。ここはクゥダフの巣窟となっており、バストゥーク政府のミッションを引き受けた冒険者が集う。しかしその閉鎖性、狭く長く、入り組んだ通路のために、数々の致命的なトレインが頻発し、訪れた者たちの命をあっさりと押し流してしまう。その後は、落盤が過ぎ去ったかのように何も残らない。

 数々のバストゥーク人を飲み込んできた、この恐るべき迷宮に、私は一人で潜ってみることを決意した。


 北グスタベルグはもともと荒涼とした土地だが、それも鉱山に近づくにつれてどんどん人気がなくなっていく。

 鉱山の手前に、クゥダフを相手に奮闘しているガルカがあった。見てみると4レベルのモンクである。そのとき彼の後ろからもう一匹が近づいてきていたので、斧を抜いて切りかかった。念願の両手斧、
バタフライアクスは、あるタルタルの冒険者バザーから買い取ったものである。

 戦闘が終わると、ガルカ
は瀕死の状態だったので、彼が回復するのを待ってから別れた。彼は敵を求めて遠出してきただけらしく、お互いに逆の方向に歩を進めていく。私の眼前では、打ち捨てられたとおぼしき樽や木棚が、好んで死ににきた愚かな冒険者を出迎える。一説には、奥地に入り込んでから、無事に生きて帰った者は数えるほどしかおらぬという話だ。

バルブロ入り口 パルブロ鉱山入り口。
坑道の内外に、もう使われなくなったと思しき採掘具が散らばる

 坑道に入ってから、私はここの地図を手に入れていないことに気づいた。
 街中のどこかに地図屋があった筈だが、思い返しても仕方ない。ここは迷路探索の常套手段、一方の壁に手をつけながら進むことに決めた。

 必死の覚悟で身体をこわばらせた私を笑うかのように、坑道をずいぶん進んでも、強い敵の出る気配がない。先客がいて敵を倒しているという可能性もあるが……。私の足取りは徐々に大胆になっていった。

 時々は闊歩しているクゥダフに出くわす時もあるが、これは難なく倒せるレベルであって、たいして歯ごたえがない。悪名高き鉱山とはこんな程度か……と、いささか増長した気分になっていた頃である。

 目の前に、クゥダフが2匹たむろしていた。片方は楽な相手だが、もう片方が自分に丁度よいレベルだったので、久しぶりに手ごたえのある斬り合いをやった。

 2匹の屍をまたぎ越えて進んでいくと、坑道を抜けた小さな広間のような箇所に、今度は3匹のクゥダフが距離を開けずにうろついている。
 この3匹の能力は私とほぼ同等らしかった。私は迷った。各個撃破なら何とか倒せることもできようが、リンクして来られれば確実にやられてしまう。

 挑発をしかけて一匹ずつおびき出すか……。

 そう考えてタイミングを計っていたが、クゥダフは仲良く歩き回るばかりで、いっこうに離れる気配がない。仕方なしに後ろを振り返ったら、先ほど獣人を倒した場所で、再び2匹が歩き回っていた。

 私は舌打ちした。前後を挟まれたのだ。

クゥダフ クゥダフ

 こうなると選択肢は二つしかない。誰かの助けを待つか、決死の覚悟で道を切り開き、死中に活を求めるか、だ。
 何ともまずいことに、後ろの2匹は先ほどより強そうである。しかも私が前の3匹とたいして距離をおいていないので、最悪の場合、いちどに5匹を相手にしなくてはならない。

 私は前者の策を取ることにした。別にSOSの大声をあげたわけではなく、ただ通路の陰に身を隠したまま、誰か冒険者一行が通るのを待っていたのである。
 ただ、鉱山に入ってから、同業者とすれ違ったことは一度しかない。それまで粘ることができようか……。

 残念ながら、こらえ性がないのはクゥダフの方だった。


 2匹のうちの1匹が私に気づいて、魔法を仕掛けてきた。私は自分のでかい図体を呪った。逃げることは不可能だ。入り口までは遠い。絶望的に遠い。そのあいだに何匹のクゥダフがいるのかは考えたくもなかった。それに、いま鉱山内にたいした人数がいる様子はないが、血路を開こうとすると、高い確率で誰かを巻き添えにしてしまう。トレインが起こるのだけは何としても避けなくてはならない。

 私はクゥダフに突進した。後ろからも魔法を唱える声がする。万事休す。生き残る確率は万に一つもない。ままよ……では、戦士らしく腹を据えて、一匹でも多く、冥土に道連れにしてやろうではないか。

 私が
ヤング・クゥダフを叩き斬ったのと、ほとんど同時だった。後ろから無慈悲な一撃を受け、私は鉱山の泥土に倒れこんだ。

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