その30

キルトログ、ウィンダスへ引き返す

 しばらくクゥダフらと戦ったのち、私は10レベルにまで成長した。しかしウィンダスに重大な忘れものをしてきたことを思い出し、未練を断ち切れずにいた。
 
義勇兵の爪である。

 各国が冒険者にミッションを受けさせ、ポイントを収集しているのは既に皆さんにお伝えできていると思う。

 このミッションポイントが一定数値たまると、ご褒美というわけなのか、国から武器や防具が支給される仕組みになっている。

 私がこれまでウィンダスのために成し遂げた業績は、ほんのささやかなものだが、以前ゲートハウスを訪れたときに、いくつかの製品を見せられ、どれでも好きなのを取るがよい、と言われたことがある。その時はまだ何が必要になるかわからなかったし、アイテムと取り替えたぶんのポイントは天引きになると聞いたから、無理に交換はしないでおいた。

 国を出る際にそれを手に入れておこうと考えていたのだが、すっかり忘れてしまっていた(注1)。私の格闘武器はキャットバグナウより変わっていない。そろそろ目新しい爪が欲しい。近頃は昔ほど爽快に敵を倒すことが出来なくなった。それはバストゥークの敵の強さ(クゥダフの甲羅の硬さ?)、あるいは単にレベル的な壁、私自身の未熟さ、いろいろ理由はありうるけれども、考えられる問題の根は少しでも断っておきたい。
スケイルメイルスケイルクウィスなど、持ち金の豊富さのおかげで装備――特に防具――は充実した。次は武器を何とかする番だ。

 いま思えば、店屋を探し回った方が早かったかもしれないのだが、この時は義勇兵の爪ばかりで、頭がいっぱいになっていたのである。


 コンシュタットへ遠出したときのことである。私の頭をふらりと誘惑の虫が襲った。
 眼下に敵なし。このまま高地を走り抜け、セルビナへ駆け込んで、船に乗り、マウラとタロンギを通り越して、ウィンダスへ帰る……何だかできそうな気がした。

 そんなふうに考えるともういけない。

 気づいたら、私はあたりを見回しながら、コンシュタットの丘を走り始めていた。幸いなことにバルクルム砂丘へ北上する道は、下りになるので見晴らしがよく、徘徊するゴブリンたちを見つけるのは造作ない。
 問題は例の大羊だが……そう考えているうちに、あっという間に砂丘の入り口についてしまった。

 エリアの切り替わり口だけあって、行き来する冒険者の数も多い。だが、そのうちの一人が、突然にうめき声をあげて倒れてしまった。死んでしまったようだ。何だか理由はわからないが、おそらく特殊攻撃でも受けていたのだろう。

「毒か……」

と独り言を言うと、眼前にいた
タルタル氏が、私に向かってポイゾナをかけるなり、何も言わずに走り去ってしまった。

 これは彼の勘違いであるので、何といって説明してよいか戸惑っているうちに、彼の姿は丘の向こうに消えてしまった。それでも毒をあびたとおぼしき見知らぬ冒険者に、治癒の魔法をかけてくれた親切心には感謝している。


 バストゥークから他国へ抜けていくのに、最も障害となるものは何か。残念ながらトレマー・ラムではない。低レベルの旅人が恐れるべきは
サンド・バット――コウモリ――である。

 バルクルム砂丘を南から入り、セルビナ、あるいはサンドリアのある
ラテーヌ高原へ抜けるのには、短い洞窟を必ず潜らなくてはならない。洞窟といっても独立したダンジョンではなくて、単なる通路なのだが、この途中にサンド・バットという厄介なコウモリがいる。この種の動物には珍しく、通行人を見ただけで襲いかかってくるのだ。

 話には聞いていたので、出来るだけ迂回して歩いたつもりだが、いかんせんガルカは図体がでかいし、洞窟は狭い。気づいたら後ろから攻撃されているふうである。このコウモリは「自分よりも強そう」なモンスターだが、体力の減りぐあいからして攻撃力が高いようである。

 このままセルビナまで駆けぬけるか、微妙というところだったが、音沙汰がなくなったので恐る恐る後ろを見てみると、いない。直線に走っていた以上、撒いたとは考えにくいので、きっとどなたかが助けてくれたものだと思う。


 マウラからウィンダスへ戻る旅は順調だった。ブブリムのゴブリンを避けて通る旅はぞっとしないが、慣れた土地に近づいていく時の感覚は何とも言いがたい。

 私は再び馴染みのサルタバルタへと舞い戻った。ほんのしばらくしか本国を空けていなかったのに、懐かしい気持ちがする。死とすれすれの殺伐とした地域を抜けてきただけに、感激もひとしおだ。やはり私はウィンダス人なんだ。今さらながらにそんな思いが強くなった。

注1
 ミッションポイントと引き換えに貰えるアイテムは、領事館のガードに頼めば交換してくれますので、わざわざ本国に戻る必要はありません。Kiltrogもこの時そのことを知っていれば、魔が差して舞い戻ることもなかったかもしれません。

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