その32

キルトログ、港区と商業区を散策する

 再びバストゥークへ降り立った私は、今度こそじっくりとこの国を観察してやろうと腹を決めた。

 バストゥークはウィンダス同様、四区に分かれている。
港区、商業区、鉱山区、大工房がそれであるが、最後のは建造物であり、ウィンダスで言う天の塔に近い役回りであるから、大まかな行政区域はまず三つだと考えていい。

 ウィンダスでは比較的(石の区を除いて)各区に冒険者人口が分散しているのだが、バストゥークでは商業区が圧倒的に他を凌駕する。武器屋、防具屋、雑貨屋が3軒立ち並ぶ通りから、噴水のある大広場にかけては、売買目的の冒険者たちがひしめきあう。かさばる装備を外し、裸同然で道端に座り込んでいるのは、たいてい冒険者の自由商人だ。

 その中身は、彼らが探索から持ち帰った副産物であったり、お古の武器防具であったり、汗を流してこしらえたアイテム類であったり、あるいは他の人から安く仕入れた商品であったりする。この手の商魂の逞しさは、おそらくバストゥークという土地特有のものであろう。冒険者商人はウィンダスでも見かけるが、ここほど露骨ではない。そしてひっきりなしに声が飛び交う――パーティの人員募集、自らの売り込み、買取商品の募集、自慢の一品の宣伝など。耳をふさいでいなければ、やかましくていらだってしまいそうだ(注1)

バザー軍団 写っている人影は全員が冒険者。
バザーの売り買いに多くの人が集まっている

 静けさを求めて港区へ向かった。ここは大きく水が広がり、時間がくれば巨大な飛空艇が水面を滑りながら、飛空会社へ横付けをする。ただ空から降りてくるだけのウィンダスでは味わえない、実に雄大な眺めであり、恋人たちのデートスポットでもあるようだ。実際にエルヴァーンと、こちらはヒュームと思しき女性が、港を見ながら喜びと不安について語り合っている。性痴を以て任じている私には、把握するのが難しい感情ではあるが……(注2)

 酒場にいた商人に代わり、飛空艇に乗ってきた客人を迎えにいく、という仕事を請け負った。
 客人は
エヴレインという名前であるが、ヒュームの商人は何を思ったか「甲羅の盾を目印にする」と約束したもようである。私がその盾を装備していたから頼んだのかもしれない。私だってはるばるウィンダスから来たのであるが、この商人はそんなことを気にしていないようすだ。ガルカだからバストゥーク人に決まっていると思っているのだろうか。

 釈然としないまま空港へ行くと、高レベル(空の旅をする資格を持つくらいだから!)と思しき問題の客人が私を見とめて、

「わざわざ来て下さらずともよかったのに」

と力の抜けることを言う。この人はさっさと酒場へ歩いて行ってしまった。商人は片手剣
サバタをお礼にくれたが、どうせなら斧をくれた方が私としても助かったのだが。

 非社交的で、とにかく表に出たくないというヒュームの青年があった。手も足もひっこめたい、と不気味なことを言う。洒落で
クゥダフの背甲をあげたら、どうもこれが気に入った様子だ。この道具はクゥダフが背負っている甲羅を守るための防具なのだが、はっきり言って我々人類には何の役にも立たない。問題の解決には何もなっていないが、ブロンズザブリガ(脚を守る簡単な防具)を貰ってとりあえず礼を言われたので退出した。彼のお父さんが私を恨んだりはしないだろうか。


 港区というだけあって、ここは貿易の中心地でもあるようだ。それだけに、行過ぎた経済がひねり出す歪みも大きい。建設途中のまま放置されたぼた山なんぞはその好例であろう。

 ここには大きな倉庫が二つあって、ヒュームのガードが辺りを――手抜き気味だが――見張っている。ウィンダスでは子どもたちが集会をしてたりしたのだが、バストゥークではずっと生々しく、うしろ暗いマーケットの温床になっているらしい。私が何気なく倉庫の扉を開けると、闇のルートの人間と思しきヒュームたちがけげんな表情を見せる。「ぺーぺーは帰れ」などと品のないことも言われる。はっきり言ってあまりいい心地はしない。

 私が後戻りしようかと思ったとき、扉ががらがらと開いて、ヒュームの少女がひとり怒鳴り込んできた。私が話していた男に対してすごい剣幕で喰ってかかる。近くに立っている私のことなど眼中にないといった態だ。

 少女は
コーネリアという名前である。彼女の知人――パラゴという名のガルカらしい――は、あるものを5つ揃えるという約束でこの男たちと取引をしていた。しかし実際には4つしか集められず、怪我をしてしまってそれ以上働けなくなってしまった。4つも揃えたのだから、ひとつくらい大目に見てもいいじゃないか、というのが少女の言い分である。
 
 いっぽう男は、こちらも取引であって、5つ揃えるというのが条件なのだから、あくまでもそれを満たさなくては駄目だ、とにべもない。少女の剣幕には半ば呆れ顔の様子だ。男の態度には、ガルカ「なんぞ」のことで何故そんなにむきになるのか、という考えがにじみ出ている。それがわかるからこそ少女も一歩も引かないのかもしれない。

 コーネリアは自分の言い分が通らないのに苛立ってか、傍らにいた私を呼びつけ、
亜鉛鉱を一つ手に入れてくるように言う。人助けになるなら断る理由はないが……どうもこの国の人々は、外国人に対して気安い。冒険者とはそういうものだと思っているのかもしれないし、あるいはやっぱり、ガルカだからバストゥーク人に違いない、と決め付けているものかもしれない。

注1
 「コマンドメニュー」から「コンフィグ」の「チャットフィルター」を選ぶと、任意の情報を非表示に出来ます。試しにShoutをカットすると、耳栓をしたように、叫び声が聞こえなくなってしまいます。
(当時はバストゥークのバザーが最も盛んでしたが、競売システムの発達と人口集中により、現在はジュノ大公国が主流のようです)

注2
 ガルカには女性がいないので、Kiltrogは恋愛感情に疎いのです。


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