その36

キルトログ、石碑に献花をする
北グスタベルグ(North Gustaberg)
 バストゥークの北に位置する、周囲を高い山脈に囲まれた盆地。
 盆地の東西に分かち、川が流れているが、何らかの鉱物が溶け込んでいるためか、流域には草木はほとんど生育せず、雑風景なごつごつとした岩場が広がっている。
 ただ、臥竜の滝は別格で、その荘厳な美しさはヴァナ・ディール中に知れ渡っている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 バストゥークにおける、ガルカとヒュームの対立。私の心は晴れぬ。だが、ヒュームを恨む、という選択肢は絶対に間違っている。そもそも個人を見ることを無視し、種族全体をひとくくりにして語ろうとするのが、食い違いの始まりではないか。だとすれば、現在の冒険者――個人を尊重する――の増加傾向が、将来的にバストゥークに一石を投じないとも限らない。あんがいその中から次期大統領が誕生するかもしれないではないか……。
 

 冒険者としてなすべきことをする、それが正しい道だと信じて、私は北門から外へ出た。依頼通り、ヒュームの英傑たちに花束を捧げてこなくてはならない。

 ゼーガムの丘は地図に記載されているが、コンシュタットのようになだらかな丘陵ではなく、切り立った崖になっているので、ほとんど山と言っていいほどだ(実際、冒険者のほとんどはこの丘を「北の山」と呼んでいる)。当たり前に近づいても崖が立ちふさがっているだけだから、どこからなら上れるのかを探索する必要がある。

 幸いにしてヒントは既にあった。先だってDaichiとパルブロ鉱山へ行ったさい、近道としてこの山道を抜けていったのだ。記憶を掘り起こして西側に回る。登山口は狭く急な坂道で、一見しただけで登れるとはなかなか気づかない。意を決して上にあがると、小さな平地になっていて、野生のオーナリー・シープが数匹で草をはんでいる。時にゴブリンが歩き回っているが、ホルトトでもよく見かけたウィーバーとサグの両種であって、11レベルの私にとっては何の問題もない相手である。ここなら単身でもさほどの危険はあるまい。

 山道までが記載されているわけではないので、地図はこのさいあまり役には立たない。平地のどこかにまた登り口があって、それをあがると、再び平地が姿を現すといったぐあいに、重層的な構造となっている。道が道とすぐ判別できないので、どこが終点なのかさっぱりわからない。石碑が先に必ずあるという保証はないし、もしかしたら通り過ぎたか、道を間違えたか(山道が二つあるという可能性は充分ある)、と少々不安になってきた。

 目の前に棍棒で羊をぶちのめしていたガルカがいたので、道を尋ねた。この人は12レベルの戦士で、石碑はもう一つ上の段にある、もしかしたらまだもう一つ上かも、と教えてくれた。旅の無事を祈って別れた。根気よく道を探して上ったら、どうも山頂へたどりついたようだ。質素ではあるが丁寧に整地されており、なるほど堂々とした石碑が立っている。これなら見落としようがない。人がほとんどおらず、高レベルのエルヴァーンが、弓の鍛錬のつもりか蜂どもを撃っている。私は邪魔なゴブリンを一匹葬ってから、石碑へとかけよった。

石碑と月 初期開拓者を称える石碑

 偉大なパルブロ鉱山初期開拓者を称える
 彼らの魂は偉大なグスタベルグと共に

 花束を捧げてから碑文の下を辿ると、確かに10人の名前が記載してあって、オムロンという依頼者の曽祖父の名も確認することができた。

 余計なことかもしれないが、その下にVig***l O**という名も見えた。かすれてあって文字が読み取れないのだ。へんに心にひっかかったので覚えておくことにした。すぐと退出するのも何なので、ゴブリンを数匹やっつけてから下に降りた。下山はあっという間だが、少し手ごたえがなさすぎるので、羊でも何頭か倒していくことにした。この界隈では最も手ごたえのあるモンスターだし、運がよければ大羊の肉毛皮が手に入るかもしれない。

 道中、鍛錬にきていたのであろう、モンクとおぼしきガルカが羊と戦っていた。 

 この人は2頭を同時に相手にしていた。そこまで羊は意外に数少なく、戦い足りなかった私は、1頭に斬りかかってあっという間に倒してしまった。お邪魔したかなと頭を下げたが、彼には、危ないところで助かりました、と礼を言われた。今日は何だか同族に縁のある一日である。

 照りつける太陽に支配されたグスタベルグを駆け通し、北門から入って、『コウモリのねぐら』亭へと急いだ。意外なことに依頼人は、例のVの字で始まる名前に興味を持ったようだ。彼はパルブロ鉱山の研究をしているのだ、と言う。それきり口ごもってしまったが、もしや私と同じことを考えているのではあるまいか。

 もし、そのV.Oというのが、二人の名前でなくて、同一人物の頭文字だったとしたら……。
 
 その可能性は充分にある。だが、私は何も言わずにおいた。報酬の下ばきをもらって、私は木賃宿からそそくさと退出した。


(02.07.23)
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