その38

キルトログ、祖国で踊る(1)

 コンシュタットから戻ったのち、私はモグハウスで旅支度をした。地元の祭りに参加するため、一時ウィンダスへ帰国するのである。

 この祭りはウィンダスの古事に従って冒険者が企画したもので、森の区広場にタルタルがあつまり、大勢で踊り騒いで日頃の疲れを癒そうという趣旨である。もとは種族限定だったが、次第に輪が広がり、しまいにはエルヴァーンでもガルカでも構わないということになった。連邦国国民としてこうした行事に参加しない手はあるまい。故郷に錦を飾るほど強くなってはいないが、乾燥したバストゥークばかりだと気が滅入ってくるので(注1)、久しぶりに我がふるさとの緑と水を満喫したい、と思っていたところだ。私はうきうきしながら再びウィンダスへの帰途へついたのだった。

 長い旅ももう慣れた道で、さしたる事故も起こらず、無事に祖国の門を潜った。夕闇が押し寄せ、約束の時間が近づいている。思いのほかがらんとしていたら寂しいものだと危惧していたが、それは全くの杞憂だった。広場には大変な人数が集結しつつある。

噴水 祭りの舞台となった噴水。
最盛時には大混雑した

 まさに祭りの夜であった。人々は踊り、叫び、声を上げ、大声で笑った。抑えられていた感情が爆発したようであった。食べ物を用意した売り子の宣伝が響くが、すぐに周りの雑音にかき消されていく。なにしろ人また人である。中心にいるのはやはりタルタルで、120人からがおり、めいめいが噴水を取り囲み、輪になってくるくると回った。みな考えられる限りに身体を動かした。しまいには魔法が祝砲のように放たれ、詩人が知っている限りの歌を歌い出すなか、合成によってクリスタルから解き放たれた光が、この日のために集まった大勢の仲間たちを照らした。行事を知らない道行く人たちも、この騒ぎを知ると便乗して、理性をかなぐりすてた。そうした無遠慮さは咎められるばかりか、逆に歓迎され、祭りの輪は時間が過ぎるごとに大きくなり、もはや誰も制御できない狂騒へとどんどんなだれ込んでいくのだった。



 私もすっかり楽しくなったが、頑張ってもタルタルのように可愛くは踊れないことはわかっていたので、申し訳程度に身体を動かして、やっとこさ見つけた売り子さんから、納涼の祭りの定番であるローストコーンアップルジュースを買った(注2)。コーンをかじっているさい、久しぶりにSizeを見かけて挨拶をした。Harlockの姿も見かけた。この騒ぎを遠巻きにながめているKewellの姿もあった。ウィンダスでシーフの修行がひと段落した彼女は、これが終わったらクォン大陸に戻るのだと言う。バスまで送ってあげるよ、と言われ恐縮した。私はこっそり騒ぎを後にし、隣りの港区に移った。こちらの方は人間が20人ばかりしかおらず、まったくもって閑散としたものだった。

 私が帰国した理由の一つにはミッションがある。バストゥークでクリスタルを上納し続けた私は、ついに国から信用されて、4番目のミッションを受けることを許された。内容次第ではウィンダスにしばらく留まらないといけないし、そうすればKewellのせっかくの誘いを断らなくてはいけなくなる。そのためにも夜明けまでに用件を済ませておかなくてはならない。

 ゲートハウスで話を聞いたら、開口一番「君は優秀な冒険者か」と尋ねられる。間が抜けた質問に閉口していると、隊長は慌てて、「
目の院の院長に、至急優秀な冒険者をよこすよう言われたのだ」と付け加える。直接そっちに行ってくれ、ということらしい。口、手、鼻の次は目の院である。目の院はその名にふさわしく、魔法関係の蔵書を管理している大切な機関だ。どきどきしながら水の区に上がり、同院の扉に近づく。わが祖国は、いまだ未熟な私に、いったいどんな試練を与えようとしているのだろうか?

注1
 バストゥークでは、食堂や『コウモリのねぐら』亭で蒸留水を売っているので、地域がら飲用に耐える水が出ないのかもしれません。
 ちなみにゲーム上では、蒸留水は錬金術の合成アイテムで、食用には使えないようです。

注2
 FF11における食糧は、食べれば特定の能力が一時的にアップする、というボーナスアイテムとして使われています。多くの食材は調理する必要がありますが、ガルカのみ肉を、ミスラのみ魚を生で食べることができます。



解説

コマンド入力について
イベントについて


 FF11にはさまざまな会話システムがありますが、それ以上にゲーム内世界を多彩なものにしているのは、数多くの感情コマンドです。
 コマンドはキーボードで直接打ち込む命令文です。これにはシステム関連のものもずいぶんありますが、感情コマンドはキャラクターの微妙な気持ちを表現するもので、実に40近くが用意されています。

 コマンドは/のあとに半角英数字で打ち込むことで実行できます。ためしに/cryと入力してみましょう。

 Kiltrogはぽろぽろと涙をこぼして泣き出した。

とウィンドウに表記されます(これはSayモード同様、周囲の人にも伝わります)。

 しかもこのとき、キャラクターは実際に手で目をぬぐう動作をします。このようなモーションつきのコマンドを実行することによって、キャラクターは笑ったり、拍手したり、誰かを応援したり、声を荒げて問い詰めたり、指差したり、よろよろとよろめいたりできるのです。
 感情コマンドには動作のつかないものもありますが(今回大活躍しそうだった踊るコマンド、/danceを実行してもモーションはありません。〜は踊った、と表記されるだけです)、各動作は実に丁寧に作られていて、種族によって同じコマンドでも動きが微妙に違ったりします。また/salute(敬礼する)コマンドは、所属する国によって敬礼のかたちが異なるなど、ヴァナ・ディールの文化形態を知るうえで非常に興味深いものもあります。
 通常の感情コマンドで処理しきれないものは、/emote(/emと省略可能)という特殊なコマンドで表現が可能です。これは例えば、

「/emote はあまりの暑さにすっかり参ってしまった」

のように使用します(/emoteの位置にキャラクター名が入ります)。当然動作はありませんが、これを使えばほとんどどんなことでも表現可能です。じっさいこの祭りの時に「/emoteは噴水に落ちた!」と入力した人がいました(笑)。

 イベントには2種類あります。サーバー管理側、すなわちスクウェアが行うもの、そして今回のように、ユーザー側が自主的に行うものです。
 キルトログ記では言及しませんでしたが「集団慰安旅行中に行方不明になった21匹のモーグリを、ヴァナ・ディールをかけ巡って探す」というスクウェア側の用意したイベントがありました。こういう期間限定の要素は、オフラインでは味わえないオンラインゲームならではの味わいといえましょう。
 今回紹介した「納涼盆踊り」は、 2ちゃんねるという巨大なBBSサイトの中で有志によって発案されたものです(当管理人は関わっておりません)。モーションつきのコマンドで「踊り」、魔法と合成で「花火を上げ」、調理ギルドで訓練している人たちに、バザーで「出店を出してもらう」という、日本の有名な祭りを可能な限り模したものでした。
 広く全サーバーで実行され、好評を博したようですが、大勢の人が一箇所に集まるこうしたイベントは、サーバー側に膨大な情報処理を強いることになり、大変な負担をかけてしまう、という欠点があります。処理速度が落ちると、命令入力から実行までの時間が長くなり、移動も遅くなります(この現象を「重くなる」または「重い」と言います)。これが行き過ぎるとサーバーがダウン(「落ちる」)してしまい、復旧に時間がかかる場合もあります。プレイヤーがくちコミで集うイベントは、それ自体たいへん素晴らしいものなのですが、あんまり規模が巨大すぎるのも考えものです。
 この日は幸いにして、大きな事故は起こらずに済んだようです。噴水に落ちた人を除けばですが(!)。仲間うちで小規模にイベントをする、というぶんにはあまり問題がないと思いますので、興味のある方は自サーバーのギルド掲示板などをチェックし、面白そうな企画には積極的に参加されてはいかがでしょうか。

(02.07.28)
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