その42

キルトログ、コンシュタット西部を歩く

 長らくウィンダスを出て戦っていた私だが、とうとう国を出るときに作った貯蓄の大半を使い果たしてしまった。いま財布の中には、400ギルを少し越える程度の金しか入っていない。

 もちろんクエストの報酬やバザーの売上があって、収入は決してゼロではなかったのだが、基本的に大した額ではない。その上で鎧を買い、武器を買い、道具を買っていたのだから、むしろこれまでよくもったものだ。

 それはいいが、今から相当に貯金をしないと、強くなっても新しい装備を得ることができない。私は寂しくなった。いかに冒険者とて、金がなければ生きてはいけない。重商主義に支配されたバストゥークのような地にいるなら、それはなおさらのことだ。


 さて、うんうん唸っても金が出てくるわけではない。パルブロ鉱山で戦うというのも考えたが、あの暗い廃坑に潜るのも気が滅入る。どこかあまり馴染みのない場所へ出かけて、モンスターでもぶちのめしながら考えをまとめるのが、ガルカらしいやり方というものだろう。

 私が目指したのはコンシュタットであった。東の丘で鍛錬にいそしんだ記憶が新しい。ただ東があれば西もあるのが道理だ。南の迷路はいろいろ曲がりくねっているが、結局そのどちらかにしか行けないようになっていて、最後には北部の大平原に繋がる。地図を見れば、東ほど大きくはないにせよ、小広い中継地が確かに記載されている。金策うんぬんを抜きにしても何か面白い発見があるかもしれない。

 私が商業区の門を出たとき、既に夕陽が熟していた。高原につくころには夜になった。先に決めたとおり西へ進路をとる。小さな野原に、橙色の明かり。お馴染みの焚き火だ。さては亀か、と思って近づいたら、どうもそうではない。見慣れてはいるが別の獣人だ。火を囲んで暖をとっているのは、いやらしいゴブリンの連中である。

 私はゴブリンが焚き火をするなどとは初めて知った。もっともこいつらは獣人の中で一番知能が高いから、火を使うことに何の疑問もないが、ウィンダスにいる頃はヤグードたちの姿を見慣れていたので、ことさら意外な感じがしたのだ。円座を組んでいるのはサグ、ウィーバーとお馴染みのちんぴらどもだ。ただし一緒にいるゴブリン・ブッチャーは厄介な敵である。かつて砂丘にいったときにAntaresは言ったものだ。「ブッチャーは避けよう、体力があるから」。

 きゃつの得物は肉切り包丁か。さぞかし鋭利に磨いてあることだろう。あるいは血さびだらけで切れにくく、力まかせに鋸引きをするのか……? その光景を考え、夜霧の寒さもあって、私はぶるぶると激しく身を震わせた。

 さてやつらは3匹だし、私は一人だ。賢明な冒険者なら簡単に答を出す。賢明でなくても出す。私はためらわずきびすを返して東を目指した。負け惜しみではないが、ゴブどもに付き合って時間を無駄にする必要はないのである。

 途中ミスト・リザードがいて、勝てそうだと踏んで戦いを挑んだが、場所が悪かった。狭い道の途中だったので、通りかかったもう一匹が加勢に来たのだ。たちまち生命の危機に陥るが、救いの神が現れた。あるタルタル氏が一方を挑発してくれて、闖入者をあっさりと片付けてくれたのだ。私が心の底から礼を述べたのは言うまでもない。

 暖かい気分になった私は、よせばいいのに、傍らで手ごわそうなトカゲと戦っていた、ヒュームのモンクの顛末を見守っていた。危なくなったら助けようという腹だ。縁起でもない。幸い彼は一人でこれを退け、私のよこしまな偽善はおあずけとなった。彼には「ナイスファイト」と声をかけ、勇気ある戦いぶりを賞賛し、少しだけ世間話をしてお互いに健闘を祈りあった。


 お馴染みの丘につくころ、もう日は高くのぼっていたが、夜明け前あたりから何だか身体がおかしくなり始めた(注1)

 ときどき意識がとぶのだ。ふ……と気を失うときがある。たいていは何でもないのだが、一度など例の根っこと戦っている最中にトリップし、目が覚めたらひどい怪我をしていた。一方的に叩かれたせいだ。幸い――何故か――トローリング・サプリングの姿は見えず、生命に危険が及ぶことはなかった。

 だがこれはゆゆしき事態だ。あんまりこんなことが続くようだと、そのうち本当に死んでしまうかもしれない。頭で危惧をしながらも、私は断続的に敵を狩り続けた。黙々とやったおかげで、13レベルに上がるのは目前となった。地道な苦労は報われる。みな、ささやかな道標を通り過ぎることでそれを確認するのだ。やった……私は喜びをかみしめながら、記念となる敵を探した。出来るなら額に汗のにじむような手ごわい獣人が望ましいのだが……。

 うろうろと丘を歩き回っている私に、声が届いたのはこのときだった。
「一人でしたら、一緒に戦いませんか?」

 別のタルタル氏からの、パーティへのお誘いであった。


注1
 このとき回線の調子が悪く、何度も立て続けに断絶が起こりました。原因はよくわからないのですが、ADSLモデムをしばらく休ませたら改善されました。帯電のせい?

(02.08.07)
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