その44

キルトログ、タロンギでダルメルを狩る

 マウラに向かう航海の間中、操舵室で過ごした。船長は毅然と前を向いて船を駆る。甲板での騒動を聞きながら、窓からバストゥークの方角を眺めやった。尖塔の影は見えるが、灯台の光はほとんど確認できなかった。

 ブブリム半島はバルクルムに負けず劣らず危険な場所だが、私は砂丘ほどの切迫感を感じない。何よりウィンダスのアウトポストがある、という安心感が大きい。もっともそれは同国出身の冒険者がこの一帯で活躍しているからで、他国の勢力が強くなると、前衛基地の支配権も交替になってしまう。ただ本国からの距離を考えれば、よほどのことがない限り他国に占領されるということはありえないのだ。

 アウトポストでシグネットをかけてもらう。いちいちリフトで二階まで上がらずともよいのだ。何と便利なことか! 私は意気揚々としてタロンギに入り、手近な「根っ子」と戦った。こころなしかタルタルの数が多いように思われる。そんな些細なことが私をうきうきとさせる。ほどなく連絡が入って、一緒に戦わないかというパーティへのお誘いがある。私はふたつ返事で乗り、集合場所へいそいそと出かけていった。


 私をスカウトしたのは
Kula(クーラ)という13レベルのシーフであった。この人は6レベルの戦士をサポートにつけていて、経験の豊富さもあって終始リーダー的な役割を担った。もう一人はXes(エクセス)。白魔道士13、黒6の魔法使いで、頼れる回復役だ。二人ともヒュームの男性である。

 Kulaの持ち出した提案はダルメル狩りである。ダルメルとは森の区でミスラに飼われていた、例の首長の動物である。この近辺にいるのは
ワイルド・ダルメルという野生種で、配達人に「手紙を食べてしまう」と愚痴られていたやつだ。同種の生き物はブブリムでも見かけるが、タロンギはいつも足早に通り過ぎるだけだったから、話に聞くだけでじっさい目にしたことは今までなかった。

 ほどなく
Meefa(ミーファ)というミスラの吟遊詩人が加わった。13レベルだが、白6レベルのサポートがある。詩人と組むのは私も初めての経験だ。とりあえずはこの4人でダルメル狩りに挑むことになる。
 Kulaが釣り役を買って出た。彼の方が戦士の、すなわち挑発のレベルが低いからだ。彼が危険に陥った場合に、私が挑発をかけ直して敵を引き剥がす、という作戦である。


ダルメル ダルメル。私の大きさのゆうに2倍はある

 それにしてもダルメルの何と巨大なこと! 私の大きさのゆうに2倍はある。巨体を誇るガルカの中で、私の背の高さはほぼ標準なのだが、それにしても目線が胸の辺りにまでしかいかない。今まで戦った中で、私が見上げなくてはならない敵など皆無だった。攻撃してくるときには、この首を棍棒のように固くして振り回してくる。その一撃は強力である。一人でなどとうてい相手にできるものではない。

 しかし4人がかりだと、さしもの強力なダルメルも耐えられなかった。特別な労をかけることなく、この動物は地面に倒れて息絶えた。

 私は快哉を叫んだ。忘れかけていた戦の興奮が、身体のすみずみにまで満ち溢れるのを感じた。

 そこで何気なく北に視線をうつしたときである。砂上に白い大きな影を見つけた。それが見慣れたものだということに気づいてしばし言葉を失った。私はつい昨日の夜まで、その建造物の前で斧をふるっていたのだ。

「デムの岩……」

「何?」とXesが言う。
私はそのモニュメントを指差した。

「あれと同じ建造物が、バストゥークにもある」

「そう?」とXesが返す。答えたのはKulaだった。
「そうだよ」
平然としたものである。「サンドリアにもあるよ」

 地図を開いて確認したら、
メアの岩とある。見間違えるはずはない。デムの岩とまったく同じかたちをしている。

 Xesはこの話を面白そうに聞いていた。私はすぐにでも近寄って調べてみたかったが、仲間がいるのでそうもいかない。そこで話を脱線させたことを詫びて、次の敵を探しているMeefaらの後を急いで追った。


 まもなくして、
Cap(カップ)という名前のタルタルが加わった。彼は11レベルの白魔道士。5レベルの黒をサポートにつけている。この新しい回復役を、全員が喜んで歓迎した。

 私たちは次々に狩りを進めた。思ったより私の挑発が効かず、仕掛けるタイミングを調整する必要こそあったが、驚くほど順調に、少なからぬ経験が、テンポよく蓄積されていった。このような強敵を斧で撃ち、盾で受けるので、私のスキルもぐんぐんと成長してゆく。ここまで理想的に展開されるパーティというのも初めてだった。皆こともなげに見えるのは、私よりずっと経験が豊富だからに違いない。何といっても、サポートジョブのないのは、5人の中で私だけなのだ。

 ただダルメルは、他の冒険者のターゲットになることも多くて、次々に見つけては倒す、というわけにはいかなくなった。視界からすっかりこの巨大動物がいなくなるころ、Kulaの提案でゴブリンに標的を移すことになった。ゴブリンがぞろぞろ出てくる谷間というのがあって、私たちは隘路に陣取り、Kulaが釣ってきた獣人をよってたかって袋叩きにする、という作戦で日頃のうっぷんを晴らし続けた。

 Kulaは挑発のさい、獲物をさして「路地裏に連れていこう」という表現をする。口癖らしい。まことゴブリンが連れてこられるのは路地裏である。ゴブリン・ティンクラーもブッチャーも、日ごろ憎らしいまでの強敵ながら、哀愁を誘うほどあっさりと血の海に沈んだ。Kulaはプロフェッショナルらしく、ときに厳しい面を見せることもあったが、2匹に追われるようなミスを犯さず、的確な指示を下してパーティを先導した。結局、私たちが命からがら逃げ出さなくてはならない場面は一度もなかった。

 ゴブリンがいなくなると、広い場所に出て行ってダルメルを探した。
 獲物を見つけるのはKulaか、そうでなければたいていMeefaであった。彼女はしょっちゅう音楽を鳴らして、私たちを癒したり鼓舞したりする。詩人の歌は魔法のような効果を持つが、MPを消費することはない。私も詩人になろうかな、という話をすると、彼女は、歌は重ねがけできないこと、効果が発動するまでに時間がかかること、持続時間が短いことなどの短所を挙げて、

「でもMPを使わないから、ガルカには向いているかも」

と付け加えた。もっとも笛を吹き、弦をかきならすガルカが、パーティに歓迎されるか、というのは別の問題なのだが……。


 私は13レベルになったばかりだったが、この日の戦闘で14レベルへの道を早くも半分折り返した。

 Xesが街に戻りたいというので、私たちは彼を送ることにした。地図中央の道をたどって南下する。この土の平野に道など、と思いきや、地面に大きな断絶が出来ている。道は崖下を走っているのだ! ところどころに粗末な橋のようなものがかかっている。下から見上げると新鮮な光景であった。ウィンダスの近くにあったのに、私はここを探索する間もなく、一足跳びにバストゥークへと出向いてしまったのだ。
 
 名残惜しかったが、東サルタで彼らと別れた。
 船の中で私は、ウィンダスには戻るまいと思っていた。必要があれば、安全な場所をみつけて野宿すればいいと考えていた(注1)。だが、こんな獣人の跋扈する土地で、野宿? せっかく我が家がすぐ鼻の先にあるというのに?

 暖かい寝床、湧き水の流れる心地よい音、忠実なモーグリの魅力は、疲れた体には逆らい難かった。国を出てから充分成長したとはいわないが、私が祖国の門を潜ることを恥じる必要は、今はもう無いように思われた。

 走っているうち、間違って西サルタバルタに出てしまった。アウトポストの前を通り過ぎるさい、Ryudoが座り込んでいる姿が見えた。バザー中だったから、寝ているものだとばかり思って邪魔をしないように声をかけた。ところが起き上がって挨拶をしてくる。体力回復の最中だったらしい。私たちはしばらく世間話を交わした。


 やがてコンクエストの結果が流れ、バストゥークが圧倒的に他国を凌駕していること、それを受けてサンドリアとウィンダスが同盟状態に入ったことが発表された。

 ウィンダスは長らく地の利を活かし、ミンダルシア大陸の支配権を維持し続けてきた。しかしそれは遂に崩れた。タロンギより北の
アラゴーニュ地方にバス人が手を伸ばし、わが祖国の領土はとうとう、サルタバルタと、タロンギ、ブブリムを含むコルシュシュ地方を数えるのみになってしまった。

 おそらくこれより、サンドリア、ウィンダス両国で領土奪還の気運が高まるだろう。討伐隊が結成され、北の地は冒険者たちで溢れ返ることだろう。だが私自身は、シャクラミに行くことにもできないひよっ子である。戦力的には何の役にも立つまい。

 だが祖国がこのような窮状にあって、その「敵方」であるところのバストゥークで、のんびりと過ごす気にはどうしてもなれなかった。大局的にはバス支配領域で戦い、少しでも戦果を挙げたほうがよいに決まっている。ただ私の気分がそれを許さない。

 私は、ガルカではなく、やはり一人のウィンダス人だからだ。
 だから。

 だから私は、バストゥークを離れ、私の祖国へと戻ってきたのだ。


注1
 HPとMPの回復、ゲームからのログアウト(FF11の世界から抜けること)は、原則的にどこででも行えるので、ジョブチェンジや荷物の整理の必要がなければ、特別モグハウスに戻る必要はありません。ただロールプレイ上の気分の問題だけです。


解説

コンクエストの同盟について

 コンクエストにおいて、ある一国がとびぬけて戦果を挙げ、他の二国を合わせたよりも多い領土を有するようになった場合、残りの二国は同盟状態に入ります。
 この同盟には、おたがいの領土でシグネットをかけて貰える、というボーナスがつきます。従って上記のような場合、ウィンダス人はサンドリアのガードからもシグネット&HP設定をして貰えるのです。逆もまた然りです。
 ただし、同盟国のガードがいる地域で戦うのは、コンクエスト的に望ましいことではありません。同盟状態にあるお互いの領土を食い合うことになるからです。特別な目的がある場合は別ですが、コンクエストに戦果を反映させようと思うなら、同盟国のアウトポスト&ガードを拠点に、支配国の領域で戦うのが望ましいでしょう。

 コンクエストの成果は、決して致命的な影響を及ぼすわけではありません。それを考えれば、一国だけが傑出していても何の問題もないのですが、たいていは冒険者としてのプライドが、状況の打破へと向かわせます。また、各国ともに「1位の状態でなければ販売されないアイテム」というのが存在します。ジョブにとってたいへん便利なものも含まれていますので、買う機会が頻繁に訪れるに越したことはありません。
 従って、冒険者の総意としては、

「自国には頑張ってほしいが、三国が微妙なバランスで均衡を保ってもらう状態がもっともありがたい」

ということになります。Kiltrogが以前コンクエストについて言った「健全な領土争い」というのは、その意味でも当たっているのです。
(02.08.10)
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