その46

キルトログ、特ダネをものにする

 水の区の外れ、滅多に人が訪れそうもない場所に、その建物はひっそりと佇んでいる。ここは耳の肥えたウィンダス連邦国民に新鮮なニュースを届ける、れっきとした情報機関だ。外見からはとうてい想像がつくまい。ただし中に入っても、やっぱり民家にしか見えないのはご愛嬌である。

 この
魔法新聞社『タルタルタイムス』を主催する編集長、ナニィコ・パニィコの依頼は、あちこちに散らばった記者どもを見つけ出し、彼らのつかんだ特ダネを集めてこい、というものである。締切が近いのでどうもぴりぴりしているようだ。編集員の話によれば、各区に一人づつ担当員がいると言う。つまり私はこのために連邦全土を回らねばならないのである。
 足を使って歩きまわるのは骨が折れた。こっちが記者になった気分である。こんなにしんどい思いをしたのにあまり歓迎されなかった。記者にとって編集長の催促なぞは、どうも借金取りがやって来るようなうっとおしさがあるらしい。


魔法新聞社 魔法新聞社内部

 水の区担当、キュメ・ローメ
 彼はレストランにいた。ネタは、ホルトト遺跡の地下の「偉大なる獣」がどこへ逃げたのか、という仮説である。アジドマルジドの動きには気づいてないようだ。彼は自分の忙しさを再三アピールしていたが、どう考えても目の前にある皿を空けるのに忙しいのであった。

 港担当、
ユジュジュ
 タルタルやミスラの子どもが、どこかで集会をして、よからぬことを企んでいるという噂……。私の首に下がったバッジに気づかぬところを見ると、たいして核心をついているわけでもなさそうである。

 石の区担当、
ヒウォン・ビフォン
 天の塔の侍女長で、オニ軍曹などと呼ばれ敬遠されている
ズババに、むかし悲恋があったとかなかったとか。タルタルやヒュームはもともとこの手の恋の話が好きらしい。正直、私には理解しづらい。

 そして、森の区担当
ウムム
 この人の話は耳を疑うものであった。彼女のつかんだニュースとは、例のミスラについてであって、この有名な泥棒がホルトト遺跡に隠し部屋を持っているのだ、と言う。
 ただしそれはあくまでも噂に過ぎず、まだ自分で確かめたわけではないらしい。そして代わりに私に確認してきてほしいと言う。願ったりかなったりだ。というのは、ナナ・ミーゴのアジトの入り口は、例のBluezが見つけた隠し通路に繋がっているに違いないからである。


 隠し通路の秘密の一端をつかんだ。隠れ家を見つければ、シャクラミなどへ出向くことなく禁書を取り戻せるやもしれぬ。

 久しぶりに遺跡に潜ったが、人の気配がまるでない。隠し通路は言うに及ばぬ。私は以前より強くなった気楽さで、襲ってくる気配のないゴブリンどもを後目に通路を抜けていった。前に来たことのない行き止まりの壁を調べてみたら、果たして壁面が横滑りし、石造りの部屋が現れた! これが隠れ家かと思いきや、目の前の台座のごときはどう見ても魔導器である。地図を見てみたら、遺跡の別の部屋に抜けていたのだった。つまり隠し扉は私の知る他にもう一つあったのである。

 あんまり人がいないので「おーい!」と大声で叫んでみた。反響が大きかったのか、ややあって「僕を呼びましたか」と返事がある。見ると魔法塔に降りてきたばかりの階段の下に、タルタルの黒魔道士が立っていた。私はただの冗談であることを詫びたが、このタルタル氏は、院長を探すのを手伝ってくれないか、という。たいして面倒なわけでもないので、ひとつ彼に協力することにした。

 彼は
Salt(ソルト)と名乗った。レベル9で、店で買って覚えたばかりのエアロを使う。この近辺のゴブリンはどうかしたら、私の両拳の攻撃で死んでしまうことがある。しかし彼のエアロも殺傷能力が高く、私が近寄って殴る前に、風の刃に巻き込んで獣人どもを倒してしまう。これもタルタルの――Saltのというべきか――魔法の才能がなせる業であろう。ガルカなどがどんなに頑張ってもこうはいくまい。

 Saltが用事を済ますのはわけなかった。院長のいる壁の奥に案内し、魔導器を回る。私にも用事が残っているから、地上に続く階段のところで気持ちよく別れた。気を引き締めて洞窟に入る。明らかに先客がいるらしく、ときどき戦闘の音がこちらまで聞こえてくる。確認してみたら私の他に3人ほど中で戦っているようであった。34というとんでもなく高いレベルの人もいる。パーティを組んでいるわけではなさそうだが、おかげで余計な敵に囲まれることはなくて助かった。

 洞窟を進むと南に分岐する道があり、道標のようにコウモリがひらひらと羽を動かしている。この
バット・バタリオンは今の私の目から見ても強い敵だった。いくらナナー・ミーゴとて、そこまで強いモンスターがうろうろする場所に別荘を構えるとは考えられない。たぶんこの先を行くと例のかぶと虫もいるのだろう……。幸いコウモリが襲ってこなかったので、脇をすり抜けて別の道を行った。目の前には高レベルの人とおぼしきタルタル氏がひょこひょこと駆けている。後をついていくと、はたして薄明かりで照らされた木製の扉に突き当たった。

 皆まで言う必要はない。間違いなくこれが泥棒猫のアジトだ。はやる思いを抑えて扉を開こうとしたが、びくともしない。考えてみれば至極当然の話ながら、しっかりと鍵がかけられているのだ! ううと唸ったが仕方ない。ただ例の特ダネが事実であったことだけが収穫だ。私は疲れた身体をひきずってもと来た道を引き返した。

 さてそろそろ出口という辺りで、ゴブリンと剣を交えているエルヴァーンの女戦士を見た。だがよく目を凝らすと、獣人は二匹重なるようにして武器をふるっている。この人はレベルが9であり、体力も半分を切っているようだ。私は一匹に挑発をかけてこれを仕留めた。エルヴァーン嬢は私に厚い礼を言う。この近辺には油断のならないやつがまだいるので、せめてこの人の体力が回復するまで、私は灯台のようにつっ立って辺りに目を光らせていた。

 
Fanaticrune(ファナティック・ルーン)という印象的な名前の彼女は、この通路で鍛錬に及ぶ傍ら、やはり編集長の命を受けて隠れ家を確認に来たらしかった。しかし地図を持っていないのだと告白し、街なかのどこで買えるのですかと私に問う。私は再び唸った。地図があれば説明はたやすいが、ないとなれば……。しかもリンクの危険を考えたら、レベル9では少ししんどいかもしれない。誰か助っ人がもう一人いれば違おうが……。そう例えば……私のような。

 そういうわけで、これも縁だと思って、彼女を引き連れて洞窟の奥に進んだ。鍛錬の邪魔になるのでパーティは組まず、傍らから戦闘に便乗してくる敵をひきつける役目に徹した。この洞窟のおそろしいところは、とにかく間髪を入れずゴブリンが襲い掛かってくるので、体力を回復するゆとりが持ちづらいところだ。しかも隠れ家の前までは、2、3匹が常に固まっている。やはり一人で来させなくて正解だった。さっき知った道という安心観もあって、探索はさしたる危険もなく終わった。

 彼女と一緒に遺跡を出て、その長い名前の由来などを聞いたりしながら、ウィンダスへ駆け戻った。編集長は特ダネの証拠を抑えていることを確認すると、それを中心記事に新聞を刷り始めた。とたんに活気の沸いた新聞社を後にする。ナナー・ミーゴがこの記事を知って、あそこにしまってあるかもしれない禁書を動かさなければよいのだが……。

(02.08.15)
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