その48

キルトログ、ウィンダスの危機を救う

「たいへんだ、たいへんだ」

 タルタル氏はそう言って、とたとたと足を踏み鳴らした。その様子があんまり滑稽なので、一大事にはとても見えない。
「あなた口はかたい?」
 軽々しい方ではない。

「ギデアスの支援物資に、
アップルビネガーが混ざっているのがあったんだ」

 他でもない私たち(私一人ではなかろうから)が運んだやつだ。聞き覚えのない食材だが、ヤグードにとって禁忌の果物なのか、あるいは奴らには毒なのか。
「あなた、大至急これを回収してよ」
 何なら代わりにトリカブトを混ぜてきてやろうか、と半ば本気で考えたりもしてみる。


 調理ギルドの依頼を受けた私は、久方ぶりに鳥人の巣窟へ足を踏み入れた。

 例の食糧係2匹と話をする。国と国(ギデアスの如きを国家と認めたらの話だが!)の使節同士とはとても思えぬやりとりののち、物資は既に
宝物庫へ運ばれてしまったのだとわかる。むろんその詳しい場所を教えてくれるほど奴らが親切なわけがない。洞窟の奥だということだけは食糧係も認める。例の洞窟の入り口に魚の骨を模したと思しきレリーフがある。私はそちらに足を進めた。

 以前私がてこずっていたような場所はもう何の苦もない。が、ひとつ坂を下りたら途端に敵が強くなる。タロンギでも見かけた笛吹き、
ヤグード・パイパーや、反身の刀を振り回すヤグード・パーセキューターなどと、一対一で派手な戦闘をやらかして、どうにか退けた後に引き返しては休む、その繰り返しだ。いっこうにらちがあかない。おまけに虫まで強くなって、バインドやストーンを仕掛けてきてこちらの邪魔をする。まるで番犬である。こっそり脇を通ることすらできない。

 幾度もそんな間のわるい突入を繰り返し、仲間を連れてこようかしらんなどと考えているところで、一人のエルヴァーンが私を追い抜いて行った。白いやぎひげを生やした聡明そうな男で、シーフながら片手剣を構えるさまは堂に入っていた。白魔法を上手く使いながら、私よりもよほど巧みに獣人どもと渡り合う。かの種族が片手剣を操る優雅さはまさに一幅の絵の如きである。

 さて彼がヤグードにディアをかけて釣り出したところ、近くにいたもう一匹も反応して、彼に同時に襲いかかった。気力の満ちた私が一方を挑発する。戦闘が終わると彼は頭を下げた。私が敬意を込めて礼を返すと彼は感じ入って、片方の拳を胸に当てるしぐさをする。サンドリア式の敬礼である。異国の客人は料理を学びに我がウィンダスへ来たが、口のかたさが災いして今回の騒動に巻き込まれたものらしい。

 目的が同じなら話は早い。幸い彼――
Balltion(バルティオン)のレベルは14(白魔道士7)で、私と組むのには何の問題もない。かくてここにもう一つ、ウィンダスとサンドリアの小さな同盟が相成った。人類の中でもガルカとエルヴァーンほど戦士として優秀な民はない。もののふの気質のあるBalltionと打ち解けるのに時間は必要なかった。力と技が全てを雄弁に語る。言うまでもなく前者がガルカであり、後者がエルヴァーンである。

 さてそれでもその先は一進一退であった。回復はわずかにBlltionのケアルがあるのみだし、エルヴァーンは必ずしも魔法に長じているわけではない。従ってこまめな休息は必須なのだが、ヤグードたちがあまりお互いの間を空けていないせいで、常に緊張が絶えない。こういう時に限って通り過ぎていく冒険者が一人もいないのである。掛け値なしに強敵なのは
エー・モン・アイアンブレイカー(斬鉄のエー・モン)(注1)というヤグードで、補佐役のパイパーと距離をとるまでずいぶんと待たなくてはならなかった。

 生死の間際まで追い詰められたわけはなかったけれど、あまりにも苦しい状況が続くので、誰か他の人を呼んでこようか、と私は提案した。しかしBalltionは大丈夫だと言ってこれを跳ね除ける。彼によると宝物庫はもうほんの鼻の先にあるそうなのだ。前述のエー・モンを、私のコンボと彼のファスト・ブレードで打ち破り、私たちは遂に目指す大扉の前に立った。宝物庫にいるヤグードはおじけづいたか、私たちに敵意を見せる様子すらない。野兎の巣穴のような棚の中から、問題の食糧袋を取り出す。Balltionに礼を言ったら、まだ早いと言われた。そう私たちは何としても生きてここを出なくてはならないのだ。


宝物庫 宝物庫の大扉を抜ける


 帰りの道は思っていたよりもずっと楽だった。というのは、先ほどまであれほど姿を見せなかった同業者たちが、急に賑わいを思い出したかのように溢れ返り、通路の強敵を駆逐してしまったからだった。
 日の光の下に出て、ああ太陽はこんなに眩しかったかと息をつく。周囲には鳥人が溢れかえっているのだが、サルタバルタへ戻るまでに、私たちに襲い掛かってくるようなのは一匹もない。私たちは何の苦もなくウィンダスへ無事戻ることができた。

 袋をタルタル氏に渡したら、400ギルというささやかな謝礼を貰った。これは私にとっては不本意な額だった。ちかごろ大金を貰い慣れていたというのもあるが、危険を考えたらどうしても割りにあわないからだ。ただ祖国の役に立ったこと、異国の友人を得たことが大きな慰めになる。Balltionはしばらくこの国に逗留するというから、再び彼と顔を合わせる機会もあるに違いない。


注1
 エー・モンは剣の達人で、敵のかざした盾を一刀両断したというエピソードから、「斬鉄」という通り名で呼ばれるようになったのです。

(02.08.21)
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