その50

キルトログ、ブブリム半島で兎を狩る
ブブリム半島(Buburimu Peninsula)
 東のパムタム海峡に面した半島。
 他のコルシュシュの乾燥した地域に比べると、時折スコールも見られ、まばらだが草地も存在する。
 半島の突端には、塔のような形の奇岩群があり、その頂に嵌まった鉱石が夜になると怪光を放つため、タルタル族に『キブブ灯台』と呼ばれ、実際に漁船が航行する際の目標に利用されている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 私が思うに、10レベルから17レベルにかけてが、冒険者として最もしんどい時期のような気がする。断片的に知られているように、18レベルは実質サポートジョブがつけられる最低の強さであるから、おおむね早く強くなろうと毎日が殺伐として忙しい。サポートジョブ奪取はいわば割礼の儀式というわけだが、奇妙にもその数字はヒュームが準成人とみなす年齢に符合している。

 私というとやはり毎日を戦場で過ごす。ウィンダスのほとんどの冒険者が「大人」になるまでの鍛錬をタロンギで行う。大峡谷は敵の強さもさることながら、開けた土地でリンクがしづらいこと、戦う相手を選べることなど、多くの点でギデアスを上回るのだ。タロンギには特に10代のレベルの冒険者が多いので、隣りのブブリム半島からスカウトが訪れることもある。同地は一人で行くには危険だが、仲間がいれば何とかなる。強い敵を倒せば早く強くなれる。だから人はブブリムを目指す。何のことはないこれはバストゥーク人が砂丘に行きたがるのと全く同じ理屈である。


 タロンギで戦っていた私に直接話しかけてくる人がいた。
Osh(オッシュ)という名前のタルタル氏(白魔道士13、黒6)である。

 実は彼には心当たりがあるばかりか、一度パーティを組んですらいる。彼が気づいているのかどうかはわかりかねたが、実際に会ってみたらすっかり失念している様子である。水を向けると名前には心当たりがありますね、と言う。私が例の目まいでパーティを離れたことを話してようやくアアと手を打つ。他でもないメアの岩を調べたのち、ブブリムへ出撃したとき、私を盾役として雇ったパーティのリーダーだった人物だ(その47参照)。

 さてOshには
Exile(エグザイル)という名の連れがいた。ヒュームの赤魔道士(レベル13)である。やはりブブリムへ行くつもりではあるようだが、メンバーが揃っていないのだ。ここにMule(ミュール)というミスラ(黒魔道士13、白6)が加わった。とりあえず4人でブブリム半島に入り、入り口脇のガードにシグネットをかけてもらう。ひとり戦士の私は盾として不安を覚えていたが、私にとっては喜ばしいことに、やや遅れてPrimalforce(プライマル・フォース)が合流した。彼はレベル14の戦士(私と同じ)で、赤魔道士7レベルをサポートにつけている。アウトポスト前で私たちはようやく落ち合った。気づいてみれば、人類の5種すべてが一人づつ揃うという非常に稀有な構成になっていた。


 アウトポストの裏側にはたいてい小さな囲いがある。3つの木塀と小屋でそれぞれの辺をなすように、長方形の「庭」が形作られているのだ。辺と辺の結び目、すなわち四隅には隙間ができている。この空間にいま冒険者が大勢ひしめきあっていた。

アウトポスト裏 アウトポストの裏庭

 パーティがこの空間を利用したがるのは、モンスターの視界から逃れるためだ。モンスターを「釣り」、待ち伏せして倒すという戦法はもう世界的標準となっている。ここは敵をおびき寄せるのに最適というわけだ。気づけば隣には、FanaticruneとRevolutionの含む一行がいて、メンバー同士魔法をかけあったりしている。私はお互いの仲間の邪魔をしないように、しばらく簡単に声援を送ったり、手を振ってそれに答えたりしあっていた。

 さて誰が私たちの釣り役をやるのだろうと思いきや、小さなリーダーのOshは、私にその任をまかせたいようだ。私は戸惑った。戦士は釣り役のひっぱってきたモンスターを横から挑発するものだとばかり思っていたからである。むろんやれと言われてやらない理由はないが……。こうしてまごまごしているうち、いま一人の戦士であるPrimalforceが見かねてか、私が釣りましょうと行って走っていってしまった。彼には悪いことをしたものである。

 標的は
マイティ・ララブ、ないしは「強い」ゴブリンだということは決めてあった。Primalforceは的確に獲物を選び、箱庭に引きずりこんでくる。よってたかって兎を殴るのはみっともないが、そうしないと倒せないのだから仕方がない。Primalforceが急いでいるのは、彼にはあまり時間的余裕がないからであった(実はMuleも同様だったが)。そこでリーダーがもう一人戦士を補充した。ヒュームの女戦士、レベル13のLiryuan(リリューン)である。

 Liryuanはあまりパーティ戦闘の経験がないらしかった(不思議ではない。ウィンダス人であれば、大半がタロンギやブブリムからこの種の実践を積み始めるのだ)。そこで手とり足とりというわけではないが、彼女のわからないことは主にPrimalforceと私が――何せ同業者だから――教えあった。その中には前線の戦士にとって生命線とも言える、
連携のタイミングについても含まれていた。

 連携というのは、相性のいいウェポンスキル同士を、複数の人間がたて続けに放った場合に起こる、破壊的な連鎖反応のことを指す。
 たとえば一番目の戦士が片手剣のウェポンスキル、バーニングブレードを放つ。そこから一息おいて、二番目のモンクが格闘のウェポンスキル、コンボを放つ。タイミングさえ合えば、巨大な爆発音、熱放射とともに、二度の必殺技を食らう以上の余剰ダメージが一斉に敵を襲う。連携は二つばかりとは限らず、繋げることさえ出来れば3つでも4つでも、場合によっては6連携も可能であるという(実際に試されたことがあるらしい)。しかも上記のは一例に過ぎず、ウェポンスキルの組み合わせはこればかりとは限らない。相性が合うものなら途中に魔法を挟んでも連携が繋がることがあるという。

 連携技を決めるこつは身体で覚えるしかない。前のウェポンスキルの効果、光や音などが消え去ってから、2、3秒空けるのがひとつの目安である。3連携以上を繋ぐなら、直前の連携で出来た爆発と噴煙が収まるまで待ち、3つを数えて技を放つ。うまくいけば、普通に攻撃したところでかすり傷すら負わすことの出来ないような強敵に、強力なダメージを与えることが出来るのである。

 ここまでのレベルに来ると、ひとつ強くなるのにも天文学的な時間がかかる。ちまちまと弱い敵を倒していたのでは到底強くはなれない。そのために集団で強敵を倒す。この手法は、既に冒険者の間では日常化している。マイペースで進むのもよいが、仲間に迷惑をかけないためにも、パーティの一員として、立ち回りの技術を上げておく必要がある。特に前衛の、戦士やモンクなどの肉弾系のメンバーは、挑発などでターゲットをひきつける傍ら、常に話し合いながら連携のタイミングを計ることが要求されるのだ。


 Primalforceは約束通り、時間になるとパーティを去っていった。Muleもしばらくののち後を追った。私は釣り役となり、庭の外へ走っていっては、手ごろな敵を引っ張ってきた。一度なぞ二匹のララブを引き連れていって迷惑をかけたが、幸か不幸か、狩りを行っている集団の多いために、獲物を見つけるまでにかなり遠くまで出向かなくてはならなくなった。

 いつからかOshが釣りを担当し始めた。後学のためにLiryuanが釣りに行ったりもした。時間が進むにつれて競争相手も少なくなり、狩りがしやすくなったと思った頃合いである。箱庭で戦っているつけが回ってきた。囲まれているぶん敵からは確かに見えづらい。だがそのぶん、予定外の敵が中にさまよい込んでしまうと、パーティの仲間かそうでないかを問わず、人数が多いだけに大混乱が起きやすいのだ。じっさい戦っている間は夢中であり、前衛が連携に集中しているような場合には、後ろから獣人に攻撃されていることに一向に気づかなかったりするのである。

 このときがまさにそうであった。もっとも、襲ってきたのは
ゾンビー(注1)だったが。強力な剣での攻撃により、気づいたらOshの命は風前のともしびだった!

 私はいちかばちかの挑発をかけて、敵に後ろを見せて逃げ出した。私たちはいっさんにタロンギを目指した。骸骨は私の鎧をものともせず、豆腐に釘でも刺すかのようにやすやすと体力を削っていく。境界を越えたときには、ほとんどのメンバーが尋常ならざる怪我を負っていた。残念なことにOshがやられたが、彼の尊い犠牲のおかげで他のメンバーは何とか命を拾ったのである。

 全員が立ち上がる気力もなく、座り込んで回復したのち、誰いうともなくパーティは解散になった。私はLiryuanとサルタバルタ方面へ下り、お互いにまた会うことを誓って、暖かい寝床の待つウィンダスへと駆け戻ったのだった。


注1
 ゾンビーといっても腐肉のしたたる生きたしかばねではなく(記述にあるように)外見は骸骨戦士そのものです。


(02.08.28)
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