その203

キルトログ、侍女長に呼び出される

 別に後回しにしても構わない、という話だった。しかし今回のミッションの依頼主を知って、驚いた。鬼の侍女長ズババ様なのだ。「待たせていい人物とは言えないな」と、ミスラのラコ・プーマ隊長も同意した。「天の塔へ急ぐがいい」

 ズババは星の神子付きのお局さまで、天の塔上階にのぼるたび、糞みそのように私を叱る人物である。またさんざん小言を言われるのだろう、と思うと、少し気分が暗くなった。だが、考えようによっては、彼女に気にいられるチャンスでもある。私とLeeshaは天の塔へ出かけた。驚いたことに、彼女は侍女長に対する苦手意識が、さほどないという。「ハルヴァー宰相様で慣れてますから」というのが理由である。私は大いに納得した。

 二階に続く階段を上りながら、ここを始めて上がったときには、緊張しましたねえ、とLeeshaが言った。星の神子さまに会えたら、もっと緊張すると思うよ、と私が答える。そのためにも、今回の依頼を確実、かつ迅速にこなして、侍女長を感心させねばならぬ。何事にもはじめが大事だ。明るい挨拶をして、第一印象でポイントを稼いでおかなくては。

「遅い遅い遅い遅い!」

 ズババは、蓋がちんちん鳴っているやかんのように怒っていた。青写真はもろくも崩れた。そして私は、今回の依頼内容がどれだけ困難であろうと、侍女長を怒らせないという課題の方が、きっと遥かに難しいだろうことを確信したのだった。

 侍女長は時間に対して確固たる哲学を持っている。我々人類が光を享受しているのと同様、時間も共有物であって、私が遅れてやってきたということは、世界のみんなに迷惑をかけていることになるという。何だか判るようでよく判らない。

「お前さんを呼んだのは、書記官の子に、お前さんの噂を聞いたからでね」

 ズババは腕を組んだ。書記官というのは小鳥のようにお喋りなクピピ嬢に違いない。

「あたしたち侍女ではどうしようもない。腕のたつ冒険者が必要なんだよ……。話はそう、神子さまのことでね……」


 星の神子が代々受け継ぐ特殊な力――「星読み」の力は、天文泉を覗き、未来を見抜く予知能力であるという。今上の神子さまが先代の後を継がれたのは、大戦前のことだが、初めてその力を使う「星登り」の日に、倒れられてしまった。それから数日間は、震えが止まらず、口も利けない状態が続いた。それというのも、神子さまは知ってしまわれたからだ。ヴァナ・ディールの世界にどんな苦難が訪れるのかを。

 奇しくも今、それと同じことが起こっている。神子さまは卒倒され、侍女たちは当時と同じように、神子さまが回復されるのをただ祈り続けるばかりである。「あのにっくきアジド・マルジドよ!」ズババは拳を握る。すべては、彼がセミ・ラフィーナに手渡した『白き書』が引き金となったのだ……。神子さまは天文泉に降りられ、星読みを続けられたが、倒れられる直前に、一つの兆しをご覧になられたのだ、という。


「冒険者というのは、時間の理解が出来とらん!」

 ホルトト遺跡の中央塔、そこで何かが起こる、と神子さまは仰られた。アジド・マルジドが魔法実験に出かけた場所。彼と私が初めて会った場所。私がKewellと一緒に探索した場所だ。ズババの話によれば、遺跡の地下には、ズヴァール城を封印している護符がある。終戦後、二度と闇の王が復活しないようにと、彼の居城に押し込めたまま、三国の手によって印を施したものだ。

 もしそこに何か、トラブルが起こったなら。「まさかとは思うけどね」とズババは言うが、顔色が紙のように白い。「護符が無事であるか、確かめてきて欲しいのさ。手をお出し。これが封印護符の部屋を開く札だよ(彼女は私に、光の札を手渡した)。とても大切な札だから、かたときも身体から離すでないよ。判ったら、さっさと行っといで。道中気をつけるんだよ」


 私の記憶が確かなら、問題の遺跡には、三人の魔道士が揃わないと開かない扉があった。案の定侍女の一人がその話をした。かように慎重な仕掛けが施してあるからには、おそらく封印はその向こうだろう。さて、白魔道士はLeeshaがいるからよい。問題は黒魔道士に、赤魔道士である。ウィンダスで手ごろな戦力を探すのもいいが、やはり勝手知ったる友達に手伝って貰う方が、面倒がなくてはやいに違いない。

「ズババさまにお呼ばれされたのですのね」
 階段を下りてきた私たちに、クピピ嬢が話しかけた。
「私があなたたちのことを推薦したのですの。頑張って貰わないと困るなのです」

 彼女なみにちゃっかりしたタルタルは、バストゥーク駐在大使パット・ポットしか知らない。もっとも「勝ち組」である分だけ、クピピ嬢の方がずっとしたたかなのかもしれない。


(03.12.01)
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