その205

キルトログ、封印に触れる

 私は小部屋の中にいた。

 目の前で輝くものがあった。ウィンダスの国旗を彩る、星の大樹のマークだとすぐに判った。ネオンのようなけばけばしい光を放っていて、そこからエネルギーが波紋になって広がっている。波動は空気にぶつかって、小さな青白い火花がきらきらと散る。一対のカーディアンが、それを挟み込むようにして立っていた。

 一体が「近寄るでない」と流暢な声で言った。もう一体が「立ち去るのだ」と武器を構える。私は手を伸ばして、威嚇には屈しないという意志を示そうとした。だが、彼らは躊躇を知らなかった。目にも止まらぬ速さで杖が繰り出された。忠告はしたぞ、ということなのだろう。

 私は強力な一撃を受け、あっけなく床にのびてしまった。


「オイ、大丈夫か」と聞き覚えのある声がした。私は意識を取り戻した。ほとんど時間が経っていないようだ。気絶していたのはせいぜい数分のことだろう。

 その数分の間に、アジド・マルジドが訪れたのだった。私が身体を起こすのを確認すると「大丈夫みたいだな」とぶっきらぼうに言った。「ここの奴らは、街にいるやつとは全然違うぞ」と、カーディアンに向けて丸々した顎をしゃくってみせる。「不用意に近づくと、痛い目にあうことになる……」

 せめて数分前に来て、数分前に言って欲しかったものだ。私は腹をさすった。

「なんてったってこいつらは、俺の親父がはりきって作った力作だからな!」 

 アジド・マルジドの父は、ゾンパ・ジッパという。もと手の院院長であり、彼の優秀な資質は、順調に息子と娘に受け継がれたようだ。現在ウィンダスでゾンパ・ジッパの姿を見ることはない。故人ではなく、行方が知れないのだ。カカシたちに拉致されたと言われている。この逸話は一般には、自動人形の御し難さを示す好例とみなされている(その3参照)。院長クラスの魔法の達人がさらわれたという事実は、氏の作り出したカーディアンが、それだけ優れて強力だったということなのだ。まさに悲劇である。

 私はこれまで、敵として立ちはだかったカーディアンたちのことを思った。彼らは私から、カカシの頭脳・心臓となる魔導球を奪って行ったし(その16参照)、その執念でナナー・ミーゴまでも付け狙ったのだ(その88参照)。西サルタバルタの、岬のはずれに立つ遺跡の地下には、彼らエースに比べると随分実力が落ちるが、はぐれカーディアンたちがアジトを築いている(その24参照)。奴らは一体何を目的にしているのだろう? 人類への復讐なのであろうか?

 アジド・マルジドは満足げに腕を組んだ。こいつらがまだ動いているということは、親父がまだ生きている証拠だぞ、と独り言を言う。カーディアンの寿命はせいぜい2年である。生命の源である魔導球のエネルギーが、そのくらいしか持たないためだが、アジド・マルジドがゾンパ・ジッパの生存を疑わないのは、父がエネルギーを注入していると信じているからなのかもしれぬ。

「それにしても、お前だ」と今度はこっちに矛先が向いた。
「こいつらが守っているのは、闇の王がらみの封印。半端な力じゃない。ここに入れるのは、せいぜい五院の院長くらいの筈だぞ」

 私は差しさわりのない部分を選び、慎重に説明した。アジド・マルジドが飛び上がった。「神子さまがお倒れになっただって!」そうだ。その直接の原因は、何か恐ろしい兆しを――神子さましかご存じない兆しを――ご覧になったからだ。「どういうことだ」と彼は腕を組んでうんうん唸っている。

 アジド・マルジドは、ぽんと手を打ち、一人で合点合点した。私がこの場にいることなど忘れてしまっているようだ。

「そうだ……やはり、自分の目で確かめねば。満月の泉に降りてみないといけない」

 彼はそう呟くなり、部屋を出て行ってしまった。私はカーディアンの方を一瞥し、彼らに攻撃の意志がないことを確認してから、アジド・マルジドの後を追った。


(03.12.02)
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