その206

キルトログ、五院の力関係を考える

 私は光の門を出た。仲間は骸骨を狩り続けていた。他の通路を探索していると、壁の隠し扉が開くところがあって、湿っぽい階段が下へと伸びていた。この先はトライマライ水路へと繋がっているらしい。少し覗いてみたかったが、危険なのでやめましょう、とStridemoonが言うので、無理はしないことにした。我々は魔防門のところまで引き返し、遺跡を通り抜けて、西サルタバルタへ出た。Eliceが「どうしようもなく疲れて、眠いから」と離脱してしまった――相当我慢してたらしい――が、ご存知の通り、水の区の門は目と鼻の先だ。ウィンダスへ戻り、協力してくれた仲間に礼を述べて別れたあと、私とLeeshaは天の塔へ向かった。ことの首尾を侍女長に報告しなくてはならない。

「遅い遅い遅い遅い!」
 ズババはやっぱり怒っていた。 
「ええい、何があったか簡単に説明するのだ」

 私は、封印――ズババの話によると、ズヴァール城の門を閉じる護符だということだが――は無事だった、と告げた。「ということは……」彼女は腕を組んだ。「では、兆しはやはり地下にある……?」
 語尾はよく聞こえなかったが、アジド・マルジドとズババが念頭に置いているのは、どうも同じ場所のようだ。確かに口の院院長は「満月の泉に、下りて確かめる」と言ったのである。

 お前は余計なことを考えるでない、と釘を刺されたのち、侍女長による簡単なねぎらいがあった。「封印が無事だったことは、神子さまにお話ししておくよ。安心なさるだろうからね……」

「しかし、すっきりしないね。何かが起きているのは確かだ。やはり、口の院院長が裏で動いているのかねえ?」

 またぞろ自分の世界に戻ってしまった侍女長を置いて、私とLeeshaは階段を下りていった。

 
 Leeshaは興奮を抑えられないでいた。カーディアンに拉致されたのが、アジド・マルジドの父だとは知らなかったのだ。ゾンパ・ジッパはもと手の院院長である。同院は五院の中で最も予算が少ない。「カーディアンが悪さをするから、予算をけずられたんでしょうか」とLeesha。カカシたちはウィンダスでは、六番目の人類なみの扱いを受け、軍隊でも貴重な戦力に数えられる。彼らを生み出す手の院が、奇妙な植物ばかり作っている鼻の院の後塵を拝するとは、一体どういうことだろうと、彼女は首をひねるのである。

 そう鼻の院を馬鹿にしたものでない。私はLeeshaに言った。ウィンダスの歴史については疎いが、サルタバルタの崩れた生態系を救うのに、同院が果たした役割は小さくなかったのではないか。奇妙な植物の生成等は、きっと彼らの生物研究の一成果に過ぎないのだ。

 また予算の多寡が、必ずしも国への貢献に比例するわけでもない。何処にでも政治的な駆け引きは存在する。駆け引きが存在するからには、そこから勝者と敗者が生まれるのだ。ゾンパ・ジッパの性格が、野心家だったか、研究者だったかはよく判らない。もしかしたら彼以前の責任者に問題があり、出世欲のなさにつけこまれたかもしれないし、不幸な事故の責任を取らされたのかもしれない。

 いずれにせよ、現院長アプルルがため息を隠さぬほど、手の院は冷遇されている。口の院とはえらい違いだ。彼女の兄が院長を務める口の院は、軍事力に直結する部署ということもあって、五院の中でも最大の権力を誇っている。

 手の院の政治的敗北が、もし先代以前から続いているのであれば、アジド・マルジドは文字通り、鳶から生まれた鷹だったに違いない。ただし、その翼は今や折れつつあるが……。

 最初の反発も忘れて、彼を好ましく思っている自分に気がつき、私は苦笑した。


 ミッションを終えた証に、受付のクピピ嬢から、魔防門の札を貰ったと、Leeshaが喜んでいた。この札さえあれば、本当なら三人の魔道士が必要な門も、すんなりと開くのだという。クピピ曰く「ちゃんとズババ様の許可を貰っている」ということらしい。

 ところが、いくら話しても私にはくれる様子がない。かといって催促するのも嫌だ。Leeshaと私の差は何処から生まれるのだろう? そのときLeeshaがいぶかしそうに眉をひそめた。

「ちゃんとお土産はあげたんですか?」

 は、と私は顔を上げた。そういえばクピピは、私が三国を巡り、竜を倒してきたときにも、お土産を期待して身を乗り出したのだった。彼女の友達に話を聞いたことがある。クピピさんはロランベリーが大好きなのだそうよ。ロランベリー! ジュノ近郊の特産物だ。好物なのはいいが方角がまるで違うので、私は敢えて彼女に土産を渡さなかったのである。

 競売所に行きましょう、と言うLeeshaの後ろを、半信半疑でついていった。高かったら嫌だな、と思っていたが、ロランベリーの取引値は400ギルだった。1000ギル以上の予算を想定していたので、ひどく安く思えた。競り落とした果物を持って、天の塔へ戻り、クピピ嬢に手渡すと、彼女はこちらが辟易するほど喜び、感激の涙を流した。思うによほどこの果物が好きなのであろう。

 ちょっと待ってて下さい、と彼女はカウンターの奥へ飛んでいった。戻ってきたクピピは札を握っていた。渋面を作る私の隣で、Leeshaがにやにやと笑っていた。「魔防門の札なのですの。ちゃんとズババ様の許可を貰ったのですの」

 私は、政治的敗北の苦味を噛みしめながら、天の塔を去った。


(03.12.05)
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