その208

キルトログ、騎士見習い試験を受ける(2)

 ランペールの墓から、北東に抜けていく洞窟があって、そちらを辿ると、もこもことした白いきのこが群生していた。空気がひんやりと冷たい。どうも朝であるという理由だけではないようだ。顔を上げれば、朝焼けに水際を赤く染められた湖面が、目の前に水平に横たわっていた。私たちはいつの間にかジャグナー森林へ出ていたのである。


ジャグナー森林の湖

 切り絵のように浮かび上がる対岸の島影を、二人してうっとりと眺めていた。中央に小島が見えた。行ってみたいですね、とLeeshaが言った。周囲には橋も舟もない。確かにここはジャグナー森林ではあるが、湖を渡る術はなく、道は完全に行き止まりとなっている。

 これほど静かな場所、しかも明け方に、人間がいるというのは驚きだ。タルタル氏がひとり、釣り糸を垂れるわけでもなく、岸辺に尻をついている。ノトーリアス・モンスターを待っているのでしょう、とLeeshaが説明した。ここにはキング・アスロという、とてつもなく強力な蟹が出現するのだ。洞窟からばらばらと、タルタル氏の仲間らしい冒険者たちが飛び出してきた。合戦に備えているらしい。心なしか湖面もざわついてきたような気がする。

 戦闘に巻き込まれたりしたら大変だ。私たちは逃げ出した。


 試験官バラシエルが、次なる課題を出した。オルデール鍾乳洞に赴くのだ。同地は別名「人体洞」と呼ばれている。理由は、内部の構造が人体内部と非常に似通っているからで、そのちょうど「胃」にあたる部分に、きれいな滝が流れているという。私は少なくともそこまで到達し、確かに滝を見たという証を持ち帰らねばならない。それが何かはまた私が考えなくてはならぬ。

 オルデール鍾乳洞の入り口は、ラテーヌ高原の谷底に開いている。以前たんぽぽの林を抜け、グィンハム・アイアンハートの碑文を収集したときに、奇しくもその前でLeeshaに出くわしたのだ。オルデールの入り口は全部で三つある。私たちが会った入り口は、「口」でも「肛門」でもない。そのせいかどうか知らないが、Leeshaはその場所について「正規の入り口ではない」とたびたび私に注意している。

 私たちはチョコボを駆って、ラテーヌ高原へと急いだ。肝心の「胃」にあたる部分には、私たちが会った入り口――私が知っている唯一の入り口――から入るのが、最も近くていいらしい。オルデールも最深部まで潜るならともかく、30レベルをゆうに越えている私と彼女なら、目的の部屋へは簡単に到達できるそうだ。私は光の加減で、青や紫に輝く、洞窟のすべすべした壁面を眺めやりながら、Leeshaのあとについて走った。周囲には動くキノコのモンスターや、コウモリなどがいたが、キング・アスロと違って、私たちの邪魔をする無粋な真似はしてこない。やがて水音の響く広間に出た。ふと目を転ずれば、つらら岩の向こうに、星の砂が滑り下りてくるかのような、きらきらと光り輝く滝が流れ落ちているのだった。


きらきらと光輝く滝

 私はしばらくその光景に見とれた。巨大なボヤーダ樹の中に流れていた大瀑布と、グスタベルグの臥竜の滝の雄大さとは、また違った感動だった。私は手をひたして、鍾乳石の雫をすくい取った。何といっても水が光っているのだ。この雫は、オルデールの滝を訪れたことの、この上ない証拠となるであろう。


 いま私の手には、騎士見習い証明書がある。試験官によって正式に発行されたものだ。しかしナイトになるには、もう一つ、もっと過酷な試練を乗り越えねばならない。私たち二人では到底無理だ、とLeeshaが言う。その恐るべき試験の内容については、おいおい明らかになるであろう。

(03.12.14)
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