その213

キルトログ、種族専用装備を集める(3)

 シャクラミへ出かける日がやって来た。現在型紙のサイクルは、「ミスラ:オルデール」の組み合わせである。次週がガルカの番なのだが、先に現地へ出かけて、宝箱の鍵だけを入手しておくのだ。箱そのものはゆっくり移動して探せばよい。これは前回の探索から得られたノウハウである。

 シャクラミはモンスターが少し強いですね、とLeeshaが言う。鍵を落とすのは、歩く骸骨のワイトや、クロウラーのキャタピラーなどである。ワイトは二人では手ごわい。キャタピラーは群れていてリンクをする。鍵さえ取れてしまったらこちらのものだが、敵を倒せないのでは話にならない。では、どうするか。

 私は助っ人を頼むことにした。


 ヒュームのGoras(ゴラス)という人物が、ジュノ港にいた。彼はSenkuの友人で、過去に伝言を頼んだこともある(注1)。用件を話すと、快く「いいですよ」と言ってくれた。彼は飛空挺に乗ってバストゥークへ向かっていたのだが、わざわざ引き返してくれさえしたのだ。ただし用事があるので、余り長い時間はとれないという。ならば邪魔をするのでなかったものを。まあ鍵さえ入手してしまえば、迷宮内の探索は、自分たちだけでも出来る。過去何度も潜ったことがあり、内部の構造は大体把握しているからだ。

「クロウラーは、リンクするそうですね」
「構わないですよ」
 Gorasが胸を叩く。真ん中で分けた長髪が肩のところで揺れた。
「何なら、私ひとりでぶっ倒しますから。そのかわり……」
「何でしょう」
「Leeshaさんに、メアの岩まで送って貰いたいんですが」

 36レベルになり、テレポ魔法一式を覚えたLeeshaは、機会があればそれを使いたがる。確かに三奇岩に一瞬で移動出来るのはありがたい。私たちはパーティを組んで、タロンギ大峡谷にあるメアの岩へと飛んだ。そのまま北東へ向かえばシャクラミの地下迷宮だが、鍵を持っているモンスターは、出口の方により多く集まっている。だからブブリム半島から入った方が早いだろう、とGorasは言う。私たちはエリアをまたいで大きく迂回をした。

 細い洞窟を抜けて、大きな広場に出た。ちょっとここで待っていてつかあさい、と、Gorasが前に進み出て、手近なゴブリンだの、クロウラーだのを、瞬く間に薙ぎ倒し始める。あっという間にモンスターが一匹もいなくなってしまった。文字通り、死の嵐が吹き荒れたのだ。私も局地的に戦闘に加わってはいたが、近くを飛んでいるコウモリにすら襲われるレベルで、確かにそこそこのダメージを敵に与えてはいたものの、全体的な貢献は、Gorasの数分の一だったと思う。彼はひとりレベルが違いすぎた。

 Gorasが、パーティ・リーダーの権利を貸してくれ、というので、そうした(注2)。パーティにメンバーがひとり増えた。どうやら彼の仲間――それも大変に親しい――らしい。Raiden(ライデン)といって、種族までは判らないが、同じくシャクラミの地下迷宮にいるようで、遠く離れた場所で戦闘している様子が、彼の掛け声から伝わってくる。この人物もまた相当な手練であるようだ。

「このあいだお話ししたガルカ氏です」

 そういえば、ガルカ氏はSenkuの相棒だと聞いていた。Gorasとも深い仲らしい。彼はきょろきょろと周囲を見渡し、Raidenを迎えに行って来ます、と言って、闇の中へ消えた。しばらくすると戻ってきた。こちらの出口からは段差が邪魔をして、相棒のいる場所にはいけないのだという。それと時を同じくするように、剣の一撃をくらって倒れたゴブリンの懐から、金属音を立てて転がり出たものがあった。

「あ!」
「あ!」
「あ!」
「あ!」


 鍵が手に入ったので、Gorasをメアの岩へ送り届けた(尤も、呪文を唱えるのはLeeshaで、私は何もしていないのだが)。迷宮の中で会えなかったふたりは、テレポート・ポイントで落ち合った。がしゃん、がしゃんという鎧の音高らかに走ってきたのは、純白の全身鎧を身にまとったRaidenだ。兜の下から出てきた顔を見て、私はきゃっと飛び上がった。Chrysalisを連想させる見事な禿げ頭で、いかつい黒髭を伸ばしている。それにしても、こういう全身鎧を着込むと、ガルカはまさに「重戦士」だな。私は人事のようにぼんやりと考えていた。

 彼ら二人とはここでお別れになった。ミスラン・ウィークはまだ終わっていない。時期が来たら迷宮の中へ入り、宝箱から最後の型紙を取り出すのだ。


GorasとRaiden

 ゴブリンの店で仕立てをして貰った。装備一式を身に着けた私を見て、Leeshaがぱちぱちと手を叩く。青を基調にしたシックなデザインで、分厚い皮製の肩当てから突き出した両腕が、大きくむき出しになっている。股ぐらは前回記したように、短いパンツなのだが、ベルトから腿当てがぶら下がり、腿を隠している。尻尾の先まで装飾が施されているのはガルカならではだろう。サンダルは膝の高さまであって、しっかりと足に馴染んでいる。実用性の高い装備だ。Leeshaが、さすが砂漠の民ですね、と感想を述べる。そういえば我々はそんな出自だったな。すっかり忘れていた。

 店を出たところでSteelbearに会った。彼は私の姿を見て、おやおや、と言う。
「そういえば、このあいだミッションを受けましてね……。ガルカの転生に関することなんですが」

「ほお?」

「語り部が、本当に記憶を有しているかどうか、という……。お聞きになりたいですか」(注3)


 私は迷った。どうせなら自分で突き止めたいような気がしたからだ。Steelbearはそれを取り違えたらしい。「いいんですよ」と笑って、「あなたも私も、もはや新しいガルカでしょうからね」と言い残し、去っていった。


 私自身はガルカであるということに誇りを持っているが、もはやそんな概念に大した意味はないのかもしれない。少なくとも従来ほどには。何しろ、アイデンティティの象徴である種族装備さえ、ゴブリンに仕立てて貰うようなご時世だ。私には砂漠の記憶もない。それに妻もいる。

 私はガルカではなく、冒険者になってしまったのだ。軽いめまいを覚えた。それを喜ぶべきか、悲しむべきなのかは、自分でもよく判らなかった。


ガルカの種族専用装備。
Leeshaの着ているのは、ヒューム女性のもの。

注1
 SenkuとGorasは同じプレイヤーが操作しています。Kiltrogの主観では、両者の区別はつかないので、全く別の独立したキャラクターとして描かれます。


注2
 パーティのリーダーは、メンバーを迎え入れたり、除名したり、パーティを解散したりすることが出来ます。リーダーでない者はこの権限を持ちません。一つのパーティにリーダーは常にひとりですが、リーダーの権利は自由に受け渡すことが出来ます。上記のように、一時的にメンバーがリーダーの権限を持ちたい場合などに使います。


注3
 ガルカは転生すると記憶を全て失いますが、各世代に一人だけ、前世の記憶を保持している者がいます。彼らは「語り部」と呼ばれ、指導者となります。現在の語り部はクリスタル戦争で失われており、先ごろ転生の旅に出た老ウェライが、代理的な役割を果たしていました。


(03.12.18)
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