その226

キルトログ、星の神子に謁見する(1)

 私はまだ40レベルで、若輩者のつもりであるが、政府からは必要以上に重要視されていたらしい。ウィンダスのために重ねた勲功は微々たるものである。おそらくアジド・マルジドを巡る国家機密に触れたことで、注目を集めたというのが、本当のところだろう。

「天の塔からの正式な召喚状、星文書がお前に届いている」

 ラコ・プーマ隊長はうっそりと言った。封蝋のついた文書をうやうやしく開き、私の顔をちらちらと窺いながら読み上げてみせる。

「なんじKiltrog、急ぎ天の塔、羅星の間へ来たれ」

 ウィンダス人の最高の栄誉だな、と言いながら、彼女は星文字入りの召喚状を差し出した。私は平静を装ってそれを受け取った。羅星の間とは聞いたことがない。天文泉の奥にある扉の先だろうか? きっとそうだろう。文書の格式からして、これまで以上に機密度の高い用件を使わされそうだ。

 だとしたら、遂にあの人に謁見できるかも知れぬ。


 星の神子さまが回復された! その話題で持ちきりの侍女たちを残し、私は天文泉へ続く階段を上った。同じく召喚状を受け取ったLeeshaが、私の後ろを少し遅れてついてくる。

 ミスラの守護戦士たちに挨拶をしながら、天文泉を越える。彼女らも私たちを止めようとはしない。そこでようやく、本当に星の神子さまに会うのだ、という実感がわく。「どきどきしますね」とLeeshaが声を弾ませる。手を伸ばしたまま、少しためらったのち、私はノブを掴んだ。

 扉はあっけなく開いた。


羅星の間の扉

 幅の広い階段を上がると円形の部屋に出た。卵型の天井に、星を観測するための窓が開いており、左右の壁から張り出した階段が、緩やかな曲線を描いてそちらへ向かっている。窓の下には祭壇があった。紅のタペストリーに左右を挟まれ、中央に備えられた丸首の壺から、ゆらゆらと青白い炎が吹き上がっている。
 そして、壺の前にひときわ小さな人影がひとつ。

「はじめましてKiltrog。よくぞ来て下さいました」

 「星の神子」は、暁の女神アルタナの生まれ変わりだという。私は素性の知れないガルカに過ぎない。その私が今、こうして星の大樹を上り、天文泉を越えて、天下に名だたるウィンダス連邦の、最高責任者と謁見している……。

 「星の神子」はタルタルの女性だった。年齢はよく判らない。大戦の時には健在だったはずだから、まず30は越えているだろう。ゆたかな黒髪を後ろに結い上げ、布で包んでいるが、その束は身体よりよほど大きかった。肌は浅黒く、前髪と、耳の前に垂らした房毛とが、まっすぐ切りそろえられている。髪と肌のせいで、彼女はエキゾチックに見える――歴代の「星の神子」も果たしてそうなのだろうか? 上半身には薄い緑色のローブ。首からさがった青い水晶玉が、海の底のような色を湛えて、鈍く輝いている。

「あなたに会っておかなくては、と考えていたのです」
 
 小さな声なのだが、鈴の音のように耳に飛び込んでくる。神子さまの声は音楽を思わせた。 

「念願が叶いまして、嬉しく思いますよ。思ったよりずっとお若いのですね」

 セミ・ラフィーナに、あなたの話はよく聞いていましたから。そう言われて気づいたのだが、彼女は神子さまに寄り添うように、脇に立っていた。自分の名前が出たときでも、微動だにしなかった。まるで人形のようだった。


 神子さまに謁見するという栄誉を得ながら、私は落ち着かない気分だった。窓の外は満天の星である。まだせいぜい夕方の筈であるが、羅星の間ではいつも夜なのかもしれない。この空間に超自然のエネルギーが満ちていることくらい、鈍感な私でもわかる。こういう場所で時間の流れ方が違ったとしても、何の不思議もないように思える。

「星の神子の名において、Kiltrog――あなたを、ジュノ大使館員に任命いたします。引き受けて下さいますわね?」

 彼女はさらりと言ってみせた。ガーネットのような目で私をじっと見つめる。微動だにしない。

 例え形式だとしても、神子さまは回答を待っておられるのだ。

 私はうやうやしく一礼した。

「失礼ながら、辞退させて頂きます。ご容赦下さいませ」


(04.02.01)
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