その232

キルトログ、結婚式の準備をする

 三国がサポートを行っている、冒険者同士の結婚式のサービスは、現在申し込みが殺到していて、まず受けられる見込みがなかったことは、既に皆さんにお伝えしたと思う。

 しかし、友人Libross君がやってくれたのである。彼は私とLeeshaのために、粘りに粘って予約を取ってきてくれた。結婚式が開けるのだ! 私たちは浮かれた。だがすぐに現実的な問題に直面するのだった。二人とも、手順については全く無知である。学ぶべきこと、準備しなければいけないことは、山ほどある。人生一度きりのイベントに失敗は許されない。私は考えられる限りの対処をとっておくことにした。


 1ヶ月と1週間前。

 付添人のLibrossから、式のシナリオを受け取った。

 付添人は補佐役のような役職に見えるが、実際はマネージャーに近い。Librossに申し込みを頼んだ以上は、彼が当局とのやり取りをすべて行うことになる。このシステムは驚くほど徹底していて、新郎の私には、結婚が決まっても知らせの手紙ひとつ来ないのである。

 彼から連絡を受けて、結婚式にシナリオがあるのを知った。神聖な儀式であるから、入場、誓い、指輪の交換などの手順や、神官の台詞も、一言一句にいたるまで全部決まっている。ウィンダス式の結婚では、二人は互いに供物を用意して、相手に食べさせなくてはいけない。私たちは段取りをしっかり頭に入れて、当日に誤りを犯すことのないよう注意しなくてはならぬ。


 1ヶ月前。

 招待予定客に案内を出すことにする。おおっぴらに広言するのは控えて、まず優先して式に呼びたい、仲のいい人たちから声をかけて回る。共通の友人は多くて15人程度だが、それでも個別に挨拶をしているとけっこう時間がかかるのである。

 式場はウィンダス海岸である。ここには最大36人入る。新郎新婦、付添人を引いて、33人を招待出来ることになる。定員には大きく余っているが、招待し損ねることがないように注意したい。


 3週間前。

 いつもはあまり気にしてないが、新婦側の友人もいる。彼女は交友関係があまり広くない。リンクシェル・グループに所属してはいるが、広く浅い付き合いをしないものだから、式に呼ぶような友人となると数が限られるようである。この点は私に似ている。顔が広いように見えるのは手記によるもので、もともとの友人は、WilliaやLandsendなどほんの数人に過ぎない。

 結婚するというので新婦側の友人に挨拶をした。わざわざ会いにいった人もいれば、時間がなく、遠距離から話をするに留めた人もいる。こちらから「婚約者です」などと名乗るのはいかにも恥ずかしい。その意味では数が少なくてよかった。


 2週間前。

 本格的な結婚案内状を作り、参列希望者を公募する。


 1週間前。

 式のリハーサルを行う。

 当日の会場は、神官の魔法で移動させて貰うので、この時点で入ることは出来ない。神官が立ち会ってくれるのかと思っていたら、自主的にやっておいてくれ、という返事だったので、当日の集合場所で段取りの確認だけ行った。Librossが神官代理、LandsendとParsifalが観客である。Leeshaはかぼちゃの帽子を被っていた。まさか当日これをつけてくるわけではあるまい。

リハーサルの様子。
Leeshaはかぼちゃの帽子

 リハーサルで、会場を間違えるというドジを踏んだ。海岸というと、西サルタバルタの印象が強いのだが、実際には東である。東の該当場所は、ホルトト遺跡がそびえる草原であり、海岸のイメージにはほど遠い。遅刻厳禁という話であるから、こんなミスをされてはことである。参列客の皆さんには、ぜひ特別に注意しておきたい。何せ新郎が間違えたのだから(!)。


 3日前。

 式当日の注意事項をまとめたレジュメを作成し、公表する。参列客に個別に声をかけ、レジュメを見て貰うように告知し、日付と時間、場所を再度確認した。この頃になると予定客は9割がた決まっている。赤獅子騎士団長殿まで参加して下さるそうだ。一方でどうしても来れないという人もいる。特にKewellに来て貰えないのは寂しい。

 
 2日前。

 当日の新郎新婦、付添人は、式の1時間前から、神官を交えてリハーサルに入る。もしかしたら祝電をくれる人がいるかもしれない。あるいは、会場場所がわからなくて、問い合わせが来るかもしれない。当日用事が出来て、緊急に私と連絡をとりたいという人がいるかもしれない。

 以上のようなことを踏まえて、連絡役を置くことにした。当日彼らは私に変わって、参列客の問い合わせに対応する。そして、トラブルに対処する係。参列客以外の冒険者に説明して、邪魔をしないよう協力してもらったり、会場に入るのを防いだりする。前者がSif、Senkuの二人。後者がSteelbear、Ragnarokの二人。彼らをLibrossが統率する。当日どんなことが起きても対処できる組織を作ったつもりだ。


 1日前。

 役員の5人と最後の打ち合わせをする。Librossを除く4人には、参列客のチェックもやって欲しいとお願いした。集合場所にやって来た予定客に声をかけ、名簿をひとつひとつ消していく。とっさの思いつきではあるが、記帳のような役目を果たすので、いかにも結婚式らしい雰囲気が作れるかもしれない。

 この日は手荷物の整理、衣装の確認をして、ジュノへ上がった。供物を買わなければいけないからだ。供物は食べ物なら何でもいい、ということになっているが、やはり何か私たちにちなんだものにするべきだ。しかしこの選定がいかにも難しい。

 問題はどちらに焦点を合わせるかだ。ウィンダスやガルカに関した料理であれば、私が彼女を迎え入れるというニュアンスになるし、サンドリアの伝統料理を渡すなら、相手の生国の文化を尊重することになる。だがLeeshaは、サンドリア出身のヒュームであるから話がややこしい。同国の料理はやはりエルヴァーンが主体になるからだ。これは私にしても同様で、ガルカがらみとなるとバストゥーク色が強くなるが、私と同国との関係は薄い。かといってウィンダス料理だと、タルタルかミスラの伝統を主にくんでいるのだ。

 供物はお互いに内緒にしてあったから、相手が何を用意するかはわからない。Leeshaはきっと手作りだろう。自分も料理が出来ればいいのだけれど。そう思いながら競売所を見ていたが、ぴったりな贈り物がない。ひとつふたつ候補があるにはあったが、その時は品切れであった。これは三国の競売所を廻っても同様だった。

 そこで、急な話で申し訳ないが、Landsendに頼んで作って貰うことにした。彼は出来るか出来ないかわからぬという。材料費は払うからやれるだけやってみてくれ、と無茶なことをお願いした。彼は約束を果たしてくれたが、供物が出来たときにはもう真夜中を回っていた。式まで既に24時間を切っているのだ。

 役員の5人と別れて、私はモグハウスに戻った。やり残したことがあるような気がする。招待するべき人を招待しただろうか。招待客の数を間違えて、誰かが入れないことはないだろうか。当日に悪意を持って邪魔をする人がいないだろうか。不安は尽きないが、腹をくくるしかない。Leeshaにおやすみを言って、私は床に就いた。明日には妻がいる、という状況が、私には何だかとても奇妙なことに思えた。


(04.02.23)
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