その233

キルトログ、結婚する(1)

 眠い目をこすって、当日は早めにモグハウスを出る。衣装は汚さないよう背嚢にしまい、いつもの鎧を着る。早く出たって別にすることはないのだけれど。LibrossやSteelbearはもう来ていて、こちらが辟易するほど張り切っていた。Librossが声を張り上げて歌を歌っていた。邪魔をしないように離れ、戯れに競売所へ来てみたら、私の手記を見てくれている人に、おめでとうと言われた。妻が隣りにいないのが残念であった。

 奥さんはどうしているだろう、と思ったが、まだ姿は見えないのだった。私はウィンダスをぶらぶらと散歩した。落ち着きのなさをどうすることも出来ないので、集合場所へ出かけることにした。式場ではない。結婚式が行われるサルタバルタ海岸は秘密の場所で、神官によって運んでもらうのである。そのための指定場所が、東サルタバルタJ-11であり、だからこそ水もなく、海岸のイメージにほど遠いところなのだ。

 私が岩陰で着替えていると、RagnarokやSenku、Sifがやって来た。正装としてありきたりではあるが、私はガルカの種族衣装を身につけた。Leeshaはいろいろ着るものに凝っている。狩りをしているときでなければ、チョコボ乗用や釣り用のファッションなど、気分によって着替えることがあるようだ。一般に女性は装飾に凝るというが、彼女以外もそうなのかどうか判らない。男はどうだろう。自分が着るものに無頓着なのは自覚している。ただし今日のような特別な日に、さしたる思惑もなく、いつもの
王国従士制式鎖帷子で通すような無骨な真似はしない。


 集合場所にはホルトト遺跡の塔が立ち、若草が周囲を包んでいる。塔の南には、虫歯のような岩が地面から突き出ている。そのまわりをぐるぐると走ってみた。やがて参列予定客が、一人、また一人と集まって来る。新郎新婦と付添人は、式開始の1時間前から、神官を交えて、本番の打ち合わせをしなくてはならない。参列客の集合時間はもっと後なのだが、Chirysalisの生まれ変わりとも思える、禿頭のRuell(ルエル)や、あるいはIllvestなどは、もう姿を見せており、私に改めて祝福の言葉をくれるのだった。

 それにしても、嫁はなぜ来ないのだろう?

 刻一刻と、打ち合わせの時間が迫ってくる。私の駆け足が速くなった。落ち着かないからだが、その意味はだんだんと違ってくるのだった。何かあったのかしら、と思わないではなかったが、昨日の今日でそんな可能性は薄い。別の理由を考えてみる。彼女が集合時間を、客と同じ時間に間違えているということはないか。私は準備万端整えたつもりだが、さすがにそんなことを彼女に念を押してはおかなかった。知っていて当然と思っていたからである。

 つらつら考えるに、1時間前に集まるということ自体、Leeshaが知らない可能性がある。私がそう口にしたら、Sifが腹の底から呆れたという顔で私を見た。1時間前に集合云々という話は、私がLibrossに貰った連絡の手紙に書いてあった。それにシナリオが添えられていたわけだが、私はLeeshaにその写しを送ったのだ。ということは、Leeshaは事前の打ち合わせのことを聞かされていないのでは……? 否! シナリオの冒頭にはっきりとこう書いてある。「付添人は、新郎新婦を連れて式開始60分前までに、集合場所へお越し下さい」。シナリオをあれほど丹念に復唱していた彼女が、それに気づかぬ筈はないのである。


参列客が集まって来るが……
(Stridemoon撮影)

 打ち合わせの時間が過ぎた。Leeshaは来ない。思わずあ〜あと言っていた。最悪、式はぶっつけ本番となるだろう。式までに彼女が来ないとはさすがに信じていない。また、花嫁を誰かに奪い取られたとか、彼女がガルカに嫁ぐのを臆して、土壇場で逃げ出した等の可能性に関しては、論外と言っていい。それは配偶者に対する冒涜というものである。


 時間が来たが、幸い、神官さまはまだ見えられていないようだ。そう私が呟いたら、足元で、見えられてますよ、という返事があった。この聞きなれぬ声は、当の神官さまが出したのである。若草色の制服を身にまとったタルタル氏で、例によって年齢不詳である。天の塔の侍女たちのように、厳格が服を着て歩いていそうな、かたい人物を想像していたのだが、いたってフレンドリーな人だった。

「新婦さんが来るまで待ちましょうよ」

 と、虫歯形の岩に腰をかける。新郎新婦が遅れるというのは珍しくないそうなのだ。それでも、新郎さんが遅刻する場合が大半なんですけれどねえ、と、産婆が父親を諭すように言う。ではLeeshaはまれなケースなのか。確かにあの人は他の人と違うのだがなあ……それにしても……。

 みんなが神官さまを取り囲み、口々に装備を見てもよろしいだろうかと尋ねている。アイドル顔負けの光景である。彼らが神官さまの好意に甘えているあいだ、私はいらいらとしながら花嫁を待ち続けた。


(04.02.25)
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