その236

キルトログ、結婚する(4)

 神官さまがさらに声を張り上げて言う。

「Kiltrog、汝、この者を妻とし、星の雨が降りし朝も、陽が失われし昼も、闇が訪れぬ夜も、助け合い、分かち合い、共に過ごすことを願いますか?」

「はい、願います」

 一呼吸置いて答えた。

「我が運命はLeeshaと共に」


「Leesha、汝、この者を夫とし、星の雨が降りし朝も、陽が失われし昼も、闇が訪れぬ夜も、 助け合い、分かち合い、共に過ごすことを願いますか?」
  
「はい、願います」

「我が運命はKiltrogと共に」


(Landsend撮影)

「それでは、互いの願いを血肉とするため、交換した食物を口にしてください」

 ふんわり焼きあがったオムレツは、パンのように表面が弾力に富んでいたが、幕が破れると、肉汁がどっと口の中に入ってきた。にんにくとスパイスが効いており、少しぴりりとするが、脂の小泡がはじけて、濃厚なバターの香りが鼻へ抜けていく。

「さて、Kiltrogよ、我が後に続いて、誓いの言葉を述べなさい」

 身体のほてりを覚えながら、私は復唱した。

「我、かく誓いをもって愛しきLeeshaを娶らん」
「我、かく誓いをもって愛しきLeeshaを娶らん」

「たとえ我が肉体衰え、命運つきようとも、汝がため戦わん」
「たとえ我が肉体衰え、命運つきようとも、汝がため戦わん」


 神官さまは向きをかえて、新婦にも同じことを言う。文面は少し違う。私の言葉は戦士の誓いであり、Leeshaの言葉はシーフのものである。二番目の文から、ニュアンスの違いを汲み取って頂きたい。

「我、かく誓いをもって愛しきKiltrogに嫁がん」
「我、かく誓いをもって愛しきKiltrogに嫁がん」

「たとえ我が技衰え、幸運に見放されようとも、汝がため走り続けん」
「たとえ我が技衰え、幸運に見放されようとも、汝がため走り続けん」


(Ruell撮影)

 次は指輪の交換である。指輪は神官さまからあらかじめ頂いている。左手にはめるように、とのことだから、間違えないようにしなくてはならない。

「Kiltrog、今日は誓いの証となるものを用意していますか?」

 はい、ウェディングリングを用意致しました、と答える。Leeshaもその後に続く。

「それはよいことです」

「その指輪は、夜空を運行する星々の軌道を表しています。指輪をはめるということは、互いを軌道として星々の如く久遠に巡ることを意味するのです」

「その決意はありますか?」

 あります、と二人で声を合わせる。

「よいでしょう。その指輪は、神子の息がかけられた神聖なものです」

「ゆめゆめ外すことの無きよう、心してください」


 ――私がLeeshaに近づくと、彼女はたこのように唇をつき出している。

 それはまだ早い!

 あちゃ、とLeeshaが目を固くつむった。参列客には気づかれただろうが、しょうがないな。それより式を進めることが大事だ。

 左手の薬指にウェディングリングを通した。この場を借りて私は誓う。私の人生の続く限り、この指輪を外すことはこの先決してないであろう。

(04.03.03)
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