その238

キルトログ、新婚旅行へ行く
ボスディン氷河(Beaucedine Glacier)
 始終、吹雪の吹き荒れる過酷な地。
 そこここに深いクレバスが生じており、落下すると旅人には命取りとなりかねない。
 この氷河の周辺で、サルタバルタ平野のホルトト遺跡とそっくりな遺跡が近年発見されたが、両者は全く隔絶した土地であったため、ウィンダスの考古学者とサンドリアの神学者の間で、その建設者特定を巡る論争が続いている。
(ヴァナ・ディール観光ガイドより)
 こうして結婚式は滞りなく終わったのであるが、妻の頭を悩ませていた衣装問題に、今さらながら決着がつくことになった。当局が結婚する女性のためにウェディングドレスを用意したという。それにしてもタイミングが悪いものだ。

 遅すぎる観は否めないが、既婚女性も申請したら貰えるようなので、さっそく二人で取りにいった。ウィンダスでは星の大樹の橋のたもとで配布されている。無料ではないが、花嫁の艶姿を見たいなら5万ギルの価値はあると思う。Leeshaは恥ずかしいからと物陰へ私を連れ込み、純白のドレスに着替えた。私は拍手し、改めて彼女の美しさに感激したわけだが、それを着て町は歩きたくないという。確かに移動用の服ではないし、必要もないのに着て歩いて、既婚をことさら強調することもないだろう。私たちの友達の中には、彼女がそれを身につけているのを見たい、という人は少なくないかもしれないが。


 季節は春に入ったばかりであるが、各国に咲いていた桜はもう散ってしまったと見える。夫婦水いらずで見物に行こうと思っていたので残念である。ジュノで何かクエストでも済まそうか、あるいは、フォルガンディ地方に観光でも行こうかという相談になった。そのときRodinに会い、彼女と話をして、私たちは仕事を取りやめ、急きょ新婚旅行へ出かけることに決める。

 フォルガンディはサンドリア北部のアシャク山脈、いわゆる北壁を越えたところにある氷雪の地である(フォルガンディとは古代エルヴァーン語で凍土を意味する)。もともと王国領であったが、戦後には定住者はいなくなり、獣人や巨人の跋扈する人外郷となってしまった。以前足を踏み入れたラングモント峠(その153参照)は、区分上ではフォルガンディに属しているが、私たちが行こうとしているのは、洞窟を抜けた先にある氷雪地帯、ボスディン氷河である。もとサンドリア国民であり、私よりも熟練した冒険者であるLeeshaは、むろん当地を訪れたことがある。私は常に彼女の後手を踏んでいるわけだが、おそらくこの先もずっとこのままだろう。よくしたもので、物見遊山の旅というのは、初めて訪れる者には新鮮な驚きがあるし、案内をする側にはする側の楽しさがある。どうせなら当地で正装に着替えて、記念写真でも撮ってこようかという計画まで立てていた。私たちはこれはこれで上手くつりあいを取っているのである。


 ラングモント峠の地図も、ボスディン氷河の地図も、私は持っていない。だからLeeshaにすべて先導して貰わなくてはならない。彼女の言うままに洞窟を抜けると、だんだん寒さが強くなってきて、足元に霜が目立つようになり、一歩ごとにぱりぱりと音を立てて砕けていく。空気は冷たく、深呼吸をすると肺が凍るような気さえするのである。


ボスディン氷河

 トンネルを抜けてあっと息を呑んだ。左右に赤銅色の崖がせり立ち、真っ直ぐに続く峡谷の道に、羽根のような雪が次々と舞い落ちてきて、白い絨毯を作っている。空は鉛といいたいが、雪でしかとは見えない。軽い粉雪は、吹き抜ける風にたやすく乗せられ、渦を作って視界を遮っている。遠くの崖がぼんやりと霞む。その向こうから、黒い影がふたつ現れ、咆哮を上げて飛びかかってきた。ツンドラ・タイガーである! 私たちはこれに対するため得物を抜き放った。

 戦闘はあっけなく終わった。40レベルの私たちの敵ではないらしい。武器をおさめてまっすぐ東へと進む。ボスディンの雪はさらさらと柔らかく、足元で小気味よく跳ね上がる。同じ雪でもクフィムのそれとは違うのが面白い。極端に気温の低いクフィム島では、かえって降雪量が少なく、万年雪がアイスバーンと化している。ここではクフィムほど転倒に気を使わなくていい――ただし、ブーツの裏に雪がまとわりつき、歩きにくくなるのだけは閉口するが。

 どう見てもホルトト遺跡としか思えない建造物を発見した。Leeshaがすごいでしょうと言って、石の壁をぴたぴたと叩く。なるほど考古学の論争になるのも頷ける。例の魔法人形が二体、入り口を守っており、古代人との関係を連想させる。近くを通るぶんには人形は無害だが、どのみち入り口は鉄格子で遮られており、中に入ることは出来ない。私たちは諦めて通路へと戻り、先を急いだ。

 やがて雪原が広がる。白と灰色が重なりあう景色は、なまじ色数が少ないだけに、その微妙なグラデーションが美しく思える。東端の海岸に出て、シューメヨ海を見下ろす。黒々とした崖の断面は、ソロムグ原野で見たものと同じものだ。当地では焼けただれた岩にしか思えなかったのが、ここではにび色に輝く鉱石に見えてきた。北国の景色のせいだろうか?

海岸
鏡面湖の前で記念写真

 そのうちに風がひときわ強くなり、吹雪となった。雪が猛然と襲いかかってくる。目の前が真っ白で何も見えない! まるで恒星が輝いているようだ。

 そろそろ帰ろう、とLeeshaが魔法を使ったのが間違いだった。吹雪で気づかなかったが、アイス・エレメンタルが後ろにいたのである! 必死に逃げたが道は遠く、二人で屍をさらすことになった。とんだ新婚旅行だ。私のレベルが下がってしまったので、アルテパ砂漠へ飛ぶ。雪国から砂漠へ来ると暑さもひとしおで、じりじりとした熱気に悩まされながら、私たちはしばらくの間、かぶと虫や蜘蛛を狩り続けたのだった。


(04.03.09)
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