その245 キルトログ、グスゲン鉱山に入る
こうした考えを偽善だというなら言ってしまえ。 バストゥーク鉱山区に住む小僧、グンバから手紙を貰った。暗黒騎士ザイドがことづけていったものだという。
ザイドからの手紙を懐にしまい、私は旅支度を始めた。目指すのはコンシュタット高地東部にある廃坑――グスゲン鉱山である。 Leeshaにデムの岩まで送ってもらい、東へ歩く。昔、私がまだトレマー・ラムに戦々恐々としていたころ、幽霊を見つけて逃げ帰ったことがある(その37参照)。種族装備の型紙を収集していたときも、結局危険だから近寄らなかった(その211参照)。そういうわけで、同鉱山へ踏み込むのは初めてとなる。噂によると、落盤で死んだ霊たちがさまよう不吉な場所であるという。 コンシュタットにはさんさんと太陽が輝いていたので、目を慣らすのにしばらく時間を要した。すっかり錆びたレールが真っ直ぐ奥へ伸び、途中でトロッコが横倒しになっている。生ぬるい風が奥から吹いてくる。人の気配はない。グスゲンは廃坑になって久しく、もはやトロッコを起こそうという人さえおらぬのだ。冒険者すら一人もいないということは考えづらいが、それでもこんな場所で積極的に戦う者は、よほどの物好きだけではあるまいか。 鉱山といえばパルブロを思い出す。同地の薄気味悪さは、得体の知れないクゥダフ族に起因していたと思う。率直に言って、我々人間にとっては、唾棄すべきモンスターという点で、獣人も死霊も大して違いがない。パルブロとグスゲンには共通する空気があるが、一方で本質的な差異も感じられるのだ。 ここには、クゥダフさえ寄り付かぬ死の臭いが篭っている。死はしばしば光を吸い込む闇に例えられる。獣人は憎悪の対象となり得るが、死は、闇は、あらゆる感情を許さぬ。その果てしなく手ごたえのない世界の住人は、ぽっかりと開いた眼窩から、いったい我々をどのような視線で見つめるのだろうか? 考えるだに恐ろしい。
レベルが高いというのは偉大なことだ。いたるところで骸骨や死の犬を見かけるが、私たちを敢えて襲おうとする者はおらぬ。「夜中にならないと、怖くはないのです」とLeeshaが言う。このような暗い廃坑にあっても、昼夜の別には意味があるものと見えて、夜にはひときわ強力な骸骨たちがさまよい出で、冒険者たちを襲うというのだ。 私たちは右の壁を辿り、坑道を東へと向かった。トロッコの連結点があり、剣と盾を持った骸骨戦士が、周囲を徘徊している。
東の坑道の突き当たりに小さな池があった。澱んだ水面は、さざ波ひとつ起こすことなく静まりかえっている。その手前で黒犬獣モーサドゥーグが唸り声を上げており、私たちはこれを片付けた。本来なら楽に勝てる相手なのだが、不覚にもカオスブリンガーしか持参しておらず、手こずった。やはりこのなまくら剣は早々に手放した方がよさそうだ。 剣を池に沈めると、漆黒の全身鎧を身につけた武者が、足音もなく私の背後を取った――ザイドである。 「お前の業はもはやその剣では飽き足らぬようだ」 彼は別の両手剣を一文字に構え、私に差し出した。新しい剣はカオスブリンガーよりも刀身がずっとずっと黒い。 「死を呼ぶ剣、デスブリンガー」 「剣は正義の象徴」などという言い訳を、この剣は一切許さぬという。「お前が死神の称号に耐えられることを祈るぞ」と言い残し、ザイドは去っていった。 戯れにデスブリンガーを装着しようとしてみたが出来ない。この業の深い武器を身につけるには、本格的に暗黒騎士になって、その道を極めようとする以外なさそうだ。ザイドの期待に添えないようで悪いのだが、果たして私にそんな日が訪れるものだろうか。 (04.04.04)
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