その249

キルトログ、指輪に彫り物を入れる

 私とLeeshaとの結婚式が終わって、もう2ヶ月以上が過ぎている。しかしいささか間の悪いことに、最近になってからようやくサービスが充実し始めた。ドレスの一件はその一つであるが(その238参照)、今度また別のニュースがモグハウスまで送られてきた。ウェディングリングに名前を彫ってくれるというのである。

 公報によると、このサービスを受けられるのは、以下の3者に限られている。結婚の申し込みをする者。申し込みは済ませているが、式はまだ挙げていない者。既に結婚してしまった者。
 ということは、私たちにも資格があるわけだ。


 Leeshaに森の区で会ったのだが、彼女は料理に夢中のようであった。先日オレという種類の料理が開発された。ミルクと蜂蜜の入った甘い飲み物で、ものすごい体力回復効果があるらしい。そういうわけで、興奮ぎみにパママ・オレを作っていたのだが、本当は効果の著しいペルシコス・オレが望みだったようだ。だが職人たちが大量に材料を買い占めてしまったらしい。さもありなん。

 彼女は指輪の話を知らなかった。これは意外だった。というのは、ヴァナ・ディールの近況に関しては、私の方が疎いのが普通だからである。

 サービスを受ける者は、以下のどちらかを選択しなくてはならない。

1)指輪に結婚相手の名前を彫る。
2)指輪に二人のイニシャルを彫る。私たちの場合は、K→LあるいはL→Kというふうに刻まれる。

 手続きの方法を調べてみた。既に指輪を貰ってしまった者は、係官を呼び出して申請しなくてはいけない。係官はGMと呼ばれる(注1)。GMは当局と冒険者の橋渡し役として、主にトラブルの最終的な調停役として働いている。気軽にコールしてはならない存在だ。本当にこんなことで呼び出して構わないのだろうか。


 私たちは天の塔へ移動した。指輪に彫り物をして貰うのは、一種の儀式のようなものだと考える。道端でやって貰うのも味気ない。GMを呼ぶということ自体が滅多にないことでもある。そういうわけで、手近で迷惑のかかりにくい場所を選んだ。

 手続きに随分と手間どった。やり方がわからなかったからだ。GMの仕事は「他の冒険者から嫌がらせを受けている」と相談を受けることである。当然そういう窓は開いている。しかし、結婚式のサービスに関して云々、という条項がどこにもない。中途半端な用件で呼び出されないよう、窓にはめったやたらに警告の文章が並んでいる。けんかくらいは自分で解決しろ。わからなければ他人に聞け。最初の頃は、気安くGMを呼び出す輩が絶えなかったらしい。だからこんな条文がたっぷりとぶら下がっているのであろう。

 結局同じ窓を使うしかなかったのだが、私の申請は、窓に定められている条項には一切当てはまらないものだから、手続きが間違っていないか不安が募るのだった。

 申請が終わってわかった。GMの用件は9件たまっているらしい。そこまで忙しいとは思わなかった。9人となると相当な待ち時間を覚悟せねばならない。

 GMを呼んだら、他の場所に移動してはならないという決まりはない。しかし用件が用件で、わざわざ天の塔に移ったのである。私たちは、どうにも身動きが取れなくなってしまった。


 随分と時間がたって、私に話しかけてくる者があった。「お二人ご一緒にいますか?」と尋ねられたから、います、と即答した。

 やがてGMが姿を見せた。私には一瞬、彼――彼女?――が、空中からすうっと現れたように思えた。

GM

 GMは紅蓮の全身鎧を身につけ、背中に両手剣を差していた。鎧は熱を帯びているらしく、周囲に陽炎が立ち昇っている。「かっこいいですね!」とLeeshaは私に囁いた。

 ご多忙のなか、わざわざご足労頂いて恐縮です。私たちが頭を下げるのを、GMは笑って、いえいえ、仲睦まじいようで何よりです、と返すのだった。

「お二人のために、特に丁寧に彫らせていただきます」

 作業自体は数分で済んだ。私の指輪にLeeshaの名が、彼女の指輪にKiltrogの名が刻まれた。GMは慌しく去っていったが、貴重な出会いだった。彼を見かけること自体が特別なのである。塔内に居合わせた冒険者の一人が、遠くから珍しそうに眺めていたのも、当然だといえるだろう。


解説

GMコールについて

 GM(Game Master)はメインメニューの「サポートデスク」からコールすることが出来ます。ヴァナ・ディールでは、自分のミスも含め、プレイヤーは自力で問題を解決しないといけません。GMをコールして良いのは、以下のような場合だけです。

・プログラム上のバグ。「ある場所で動けなくなってしまった」など。「そこに立ってモンスターを攻撃すると、向こうからは一切ダメージが来ない」ポイントを発見したときにも通知します(こういう場所をレベル上げに利用すると、アカウント削除の対象になります)。

・他のプレイヤーからハラスメントやその他の違反行為を受けているとき。

・その他。今回の指輪の彫り物のように、GMが特別に対処する限定された仕事。

 単なる雑談や討論、行動の取り消し(高価なアイテムを捨ててしまった等)を、GMは受け付けません。彼らは忙しいので、軽い用件で呼び出すのはやめましょう。

(04.05.02)
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