その251

キルトログ、アルドとその妹に会う

 天晶堂の中に入るのも随分久しぶりである。大時計の油と交換できる品物を持ってこないといけないのだが、私の腕が未熟なことからまだ果たせずにいる。幸いまだ鐘の音は曇っていないが、はやいところアイテムを手に入れて、機械工の友人を安心させたいところである。

 薄暗い室内で天晶堂員と話した。ボスは獣人は嫌いなのよね、とミスラが言う。獣人にはフェレーナお嬢さんがずいぶん肩入れしているけれど、そこだけは衝突するみたい。フェレーナというのはアルドの妹で、美しく優しく、天晶堂員みんなから慕われている。そういえば、もし彼女に手を出したらただじゃおかねえ、と以前すごまれたことがあった。振り返れば、その時のタルタルが今、こちらをぎろぎろと睨み付けている。
 
 私は肩をすくめて、アルドの部屋の扉をノックした。


「用件はよくわかった」 
 アルドは丁寧に手紙をたたんだ。

「手紙には、お前に魔晶石について教えるように書いてある。まあ、他ならぬジュノ大公の頼みだからな。
 魔晶石はベドー、オズトロヤ城、ダボイの三箇所にある。
 だがただ行っただけでは手に入らん。結界に守られてるからな。それを破るにはいろいろと品物が必要だが……」

 アルドは懐中から、紐のついた小物を取り出した。
「ベドーに入るには、この銀の鈴が役に立つだろう」

 手にとってあらためてみた。贅沢にも、どうやらミスリル製のようだ。ちりん、ちりんという音は小さいが、澄んでいてとても可愛らしい。私は何度も耳元で振ってその音色を楽しんだ。

 背後の扉が開いて、兄さん、というかぼそい声がした。振り返るとヒュームの娘が顔を出している。

「フェレーナ……来客中だぞ」
 アルドがつかつかと歩み寄った。なるほど、噂どおり美しい妹だ。髪は栗色で肩まで伸びている。卵型の顔。目や口は小さく、おとなしそうであるが、柳眉の線が力強く、芯に強いものを持っていることを伺わせる。

 水色のドレスをひきずり、衣擦れの音をさせながら、彼女は部屋へ入ってきた。アルドが両肩をつかんで押し留めた。二人は声を落とした。私に配慮してのことだろうが、同じ室内のこと、彼女たちの声がかすかに漏れ聞こえている。

 兄さん、大公が何か言ってきたそうだけど……。(ここでアルドは私をちらりと見た)

 ああ、ジュノの獣人をすみやかに撤退させてくれという要請だ。奴らを住まわせておくのは、治安上よくないという考えらしい。

 でも悪いことはしてないのよ! 私に言わせれば、大公邸の連中の方がよほど非人間的だわ。あの仮面みたいな顔――。

 フェレーナ。

 宝石みたいな、冷たい目! 何を考えてるかわからない。

 そうは言うがな、外の獣人がまた暴れているんだ。
 
 中にいる彼らは違うわ――。

 そうだろうとも。だが街の連中はそう考えないだろうさ。奴らを残しておくと、トラブルの種になる。お互いのためによくはあるまい。大公邸の考えにも一理ある。

 そうかもしれないけど――。

 まあ、あまり思いつめるな。悪いようにはさせない。いきなり連中を追い出すような、手荒な真似はしないから……。

「フェレーナ姉ちゃん」


アルド

 扉がまた開いて、今度はずんぐりとした小柄な影が入ってきた。フェレーナが声を挙げた。
「まあ、フィック!」

 ゴブリンのマスクを目の当たりにして、アルドが妹の側を離れた。急いで遠ざかり、ち、と舌を鳴らす。どうやら獣人嫌いというのは本当らしい。

「姉ちゃん、顔色よくないぞ?」

 心の優しいゴブリンがいるとは聞いていた。彼がそうらしい。だがマスクは無表情で、少なくとも外見上は、塀の外で見る奴らと全然変わらない。

 もし何か違いがあるとすれば、垢や汗のいやな体臭がしないことだろうか。それに、人間の近くにいるためか、共通語は流暢に喋っていた――ゴブリンにしては。

「フィック……元気だった?」
 フェレーナは色を失っている。さっきの話を聞かれたと思っているのである。

「変なことを聞く。フィック、いつだって元気。姉ちゃんこそ病気じゃないか? 顔色が青い」

 ゴブリンが何も知らないと気づいて安堵したらしい。フェレーナは、いえ大丈夫よ、と微笑む。ゴブリンは手招きをして、いつものところへ行こう、と彼女をせかす。二人して扉を出て行く。

 私も鈴の音を鳴らしながら退出した。


 例の凄みをきかせていたタルタルと話した。なるほど首領の妹さんは美人だね! だが彼は聞いてなかったらしい。私の鈴を見て、ベドーへ行くためボスに貰ったのか、と尋ねる。そうだと頷くと、嫌味なほど高い声でげらげらと笑う。

「ボスも人が悪いな! あすこへ行くなら、銀の鈴だけじゃ足りないよ。妖光の数珠と、漆黒のマチネーがなくちゃあね。
 おいらが特別に何とかしてやるよ。ただとは言わんがね、ベドーへ行って、クゥダフの呪符と、クゥダフのト占甲を手に入れておいで。二品と交換してやるぞ」

 礼を言って天晶堂を出た。昼時で日は高く上がっている。今からチョコボを飛ばせば、夕暮れまでにベドーへ辿り着けるだろう。


(04.05.03)
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