その253

キルトログ、ゴブリンの花壇を見る

 妖光の数珠と漆黒のマチネーを手に入れ、私は天晶堂を出た。これからベドーへ帰らねばならない。出来るだけ安価で、出来るだけ迅速に行くのが望ましい。となれば、レンタル料は高くつくだろうが、やはり上層からチョコボに乗るのがベストだろう。

 モグハウスから北上してチョコボ乗り場に向かう途中、何気なく横丁に入ってみた。「丈夫な防具屋」とヴィエッテ武器店が向かい合っており、その隣にモンブローの診療所が続く。建物はこれで終わり、通路はあっけなく花壇に突き当たって終わる。その前にタルタルとガルカの子供がいる。私が近づくと、タルタル少年は花壇を指差してきゃっきゃと騒ぐのだった。

「フィックとフェレーナ姉ちゃんと、花の種を植えたんだよ! はやく花が咲くといいな!」


フィックが種をまいた花壇(右下)

 この言葉は以前にも聞いたことがある。タルタル少年――パヤ・サプヤ――は誰に対してもこう話しかけているようだ。それだけ発芽を心待ちにしているのだろう(その112参照)。

 一方、ガルカ少年ギーベの方は冷淡である。斜に構えたところがあり、獣人の蒔いた種に花なんか咲くか、とうそぶく。ガルカの子供時代は他種族のざっと倍は続く。外見よりはずっと歳を取っているのが普通なので、彼のようにシニカルな子供がいてもおかしくはない。このまま順調に育つと私のように理屈っぽいのが出来上がる。だから彼は私の小さいころを彷彿させるとも言える。

 子供たちの、いかにも子供らしいののしり合いを聞いていると、後ろからぺったぺったと湿った足音がして、当の獣人がのそのそとやって来た。「あ、フィック!」とタルタル少年が顔を輝かす。ゴブリンの後ろにはフェレーナがつき従っている。

 フィックは花壇の土に鼻づらを近づけた。
「まだ芽は出ないか」

「うん、残念だけどまだ出ないよ」

「フィックが持ってきた種なんて、この土じゃ育たないに決まってる!」

 ガルカの少年をフェレーナが目でたしなめた。ギーベは、姉ちゃんはいつもフィックの味方だから、とぶつぶつ呟く。育たないから無駄なんだよ、とも。

「フィック、無駄とは思わない」

 それが負け惜しみの口調でなかったので、一同は揃って彼のマスクに目を向けた。

「フィックが種植えたから、こうしてみんなと話が出来る。それがとても嬉しい。だからもし芽が出なくても、無駄とは思わない」

 タルタルの子はぽかんと口をあいている。ガルカの子はぐうと唸るなり後ろを向いてしまった。

「フィック、そろそろマックじいのところへ行かなきゃならない」

「明日には芽が出てるといいね!」

 フィックがパヤ・サプヤに目を細めた――ように見えた。

「ギーベもいつも肥料をやってくれて、感謝している」

「ふん、お前のためじゃないからな!」

 湿った足音をさせて、ゴブリンは行ってしまった。フェレーナも小走りで彼の後を追う。そろそろ私もこの場を退いて、本来の業務であるベドーへ向かうことにしよう。

(04.05.08)
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