その261

キルトログ、ダボイへ向かう

 汚らわしいオークの巣窟へ向かうにあたって、同行するのは妻のLeeshaだけだった。ベドーやオズトロヤ城には、仰々しくも大人数で押しかけたものを。

 私は少なからず不安だった。せめて用心棒の一人くらいいた方がよいのではないか? いざという時のために? だがLeeshaが大丈夫と請け負うので、彼女の言葉を信じて、二人で出かけた。デートに行くには楽しくない場所だが、私たちにとって、オークは縁の悪い相手ではない。そもそも最初に出会ったのもゲルスバ野営陣である。思い返せば、何とも色気のない知り合い方をしたものだった。


 ダボイの入り口に大木が茂っている。広がった枝葉に覆われて見えづらいのだが、幹の陰にエルヴァーンの斥候がいて、獣人基地の様子をじっと窺っている。Leeshaによると彼は騎士団の一員だが、あまり手際が良くないことで有名なのだそうだ。私たちは彼を放っておいて南へ向かった。

 広場の中央に、泥で濁った浅い池が横たわる。二階建てくらいの高さのやぐらが組まれており、霧の向こうに堂々とした影を見せている。水辺に板を敷き詰めたところがあったので、近づいてみた。池の周辺で一段高くなった場所である。粗末な木材を使って、等身大の十字架が組まれている。たもとの板がどす黒く染まっている。私の想像が当たっていれば、それは血の跡に間違いないのだ。


広場に組まれたやぐら
刑場?

 おそらくオークどもは、十字架に捕虜をかけて、残酷な遊戯を心ゆくまで楽しんだのだろう。血痕の大きさと濃さからして、犠牲者の数は、とうてい一人や二人ではあるまい。正確な人数を知っているのは、まさしくこの十字架だけなのだ。

 私たちは残酷な刑場を離れ、北西へ向かった。


結界

 小さな広場で、オークどもが焚き火を取り囲んでいた。その向こうに洞窟が見えるのだが、入り口の手前に虹色のもやがかかっている。姿を消して獣人をやり過ごし、近寄ってまじまじと見てみれば、虹色のもやは魔法で張られた膜である。どうやら結界を作る働きをしているらしい。

 私はインビジの魔法を自ら解き、ダボイ村の紋章をかざした。身体がするすると膜を通り抜ける。結界の内側から広場を振り返る。オークの斥候どもは、二人の侵入者が通り抜けたことも知らず、手持ち無沙汰に焚き火の周囲を回っている。私はそれを見てけらけらと笑った。

 洞窟は徐々に広大になっていく。たちこめた霧で肌寒くなる。やがてサーメット質の、骨のアーチが浮かび上がる。ベドーやオズトロヤ城で見たのと同じ光景である。それを潜ると、魔晶石の塔が立っている。ダボイのそれは、黄色の鈍い輝きを放っている。

 魔晶石の前に立ち、私は手をかざした。流れ込んでくる思念に備えて目を閉じる。頭の中に、鮮明な映像と音がかたちを作り、流れ出す。遠い昔の何かが、魔晶石を通じて、私の血肉となっていくのだ。

 私のいない、私の体験。

 ――だがダボイの洞窟では、決してそれだけでは終わらなかったのである。


(04.05.17)
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