その270

キルトログ、フェ・インに踏み込む(3)

 私は薄暗い、小さな部屋にいる。鈍色に輝く魔法陣の上に立っている。足元から立ち上る光、長靴を通じて伝わる熱を除けば、この部屋に暖かいものは何もない。

 北の壁に開いている廊下を辿る。氷のような風がこちらから吹き込んでいる。どこか大きな部屋に通じているようだ。果たしてク・ピアの競技場に繋がる道なのだろうか。
 
 ぴりぴりとうなじの毛が逆立つ。

 ――嫌なものが、我々を待っている。

 私はぎゅっと斧の柄を握り締めた。


 我々は巨大な広場に出た。円形の広場の中央に、白い輪が出来ている。天井に大きな穴が開いていて、そこから光と雪がさしこんでくるらしい。

 その輪を外れて、墨のように黒い人影が三体、のっそりと立っている。

 鎌が見えた。あばら骨の隙間と、ひょろ長い足が見えた。

 我々が得物をとると、骸骨戦士も鎌を傾いで構えを取った。人類対死霊の戦いが今、北の果ての闘技場で始まるのだ。

 

 我々が決闘を始めると、果たしてどこにいたのか、骸骨がわらわらと増えてきて、がむしゃらに斬りつけてきた。その数おそるべし、8体から10体はいただろうか。我々はたちまち劣勢に追い込まれた。

 何とか態勢を整えて反撃を開始する。落ち着いて敵の集団を観察したならば、ひときわ大きな骸骨が一体混じっているのだ。Ragnarokがそいつを狙え、という。小さい骸骨は雑魚とはいえ、こう四方から斬りつけられたならば、多勢に無勢、回復魔法もじきに尽きてしまう。戦の鉄則は親玉を破ることである。そこで私はボスの後ろ側に回り――Gorasが奴らの攻撃を一身に引き受けているので――その大きな背中めがけて斧を振り下ろす。

 ひたすら。ひたすら。ひたすら。

 
 戦の終わりは唐突だった。僕の後にシールドブレイクを撃って下さい、というRagnarokの声を覚えている。気がつけば巨大骸骨はばらばらに崩れ、山のようにいた雑魚の戦士たちは、いずこともなく姿を消していたのだった。

「悪くないが、もっと無駄のない動きをこころがけろ」

 背後で手を叩く音がした。

「最後に勝負を決めるのはスタミナだからな!」

 ザイドだった。


「封印なんてものは何処にもなかったぞ。おおかたとっくに破られてしまったんだろうさ。ふん、お偉いさんの慌てる姿が目に浮かぶな。
 護符? 気休めだろう。そんなものは捨ててしまえ」

 しばらく迷って私はそれをポケットに戻した。そして、彼がなぜこのような場所にいるかを尋ねた。ライオンのことは伏せておいた。

「闇の王が復活するという話があるが……」

 ザイドは顎を掻きながら言った。

「そんなものはくだらん噂だ。闇の王は20年前たしかに死んだのだ。獣人たちが動いているのは確かなようだが、私は旅の騎士だ。そんなものに付き合っているほど暇ではない……」

 ザイドは唐突に口をつぐんだ。私の問いの答えになっていないと気づいたからだろう。彼自身が自分の言い分を信じているなら、なおさらここにいる理由はないわけだった。

「ズヴァール……ズヴァール……」

 独り言のように呟いて、

「ズヴァール……運命の交わる城……まさかな……」

 暗黒騎士は、階段を上っていってしまった。


ク・ビアの闘技場

 我々もザイドの後へ続いて、最上段へ上がった。

 闘技場はすりばち状をしていて、円形の広場を、階段状になった客席が取り巻いているのだった。下に目をやると、先ほど死闘を繰り広げていた場所が見えた。むろん客席に姿はない。おそらくザイドだけが高みの見物を決めていたのだろう。

 古代人によって行われた闘技が何を意味していたのか、私は知らない。一種の儀式だったのかもしれないし、娯楽に過ぎなかったのかもしれない。もし後者だとしたら、あまりよい趣味とは思えない。この規模を必要としたということは、フェ・インにそれだけの人間がおり、相当数が血に飢えて、暴力を楽しんでいたという事実を意味するのだ。

 そのジラートも、もうヴァナ・ディールにはいない。彼らは何処へ消えたのか――。

 我々は北の遺跡を後にした。


 Leeshaと一緒にウィンダスへ帰って、報告を行った。さぞかし騒動になるだろうと思いきや、神子さまの反応は実にあっさりしたもので、ため息をつかれ、ご苦労でしたとねぎらいの言葉があるばかりだった。

「闇の王復活は何としてでも阻止せねば!」

 と、セミ・ラフィーナの鼻息だけがあらい。

「さっそく五院の院長を集め、会議を開きましょう」

 神子さまは頷かれて、

「Kiltrog、そのときが来たら、あなたには重大な任務をお願いすることになるでしょう。旅立ちの準備をしておきなさい。大きな星が青白く輝く、その日までに……」

 さがれという合図があったので、私たちは退出した。「そのときが来たら」とは? 私が得物をとって、直接あの黒い影と、戦うことになるのだろうか? 


(04.07.04)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送