その279

キルトログ、花火を見る

 ある日、私はジュノのモグハウスに目覚めて、外へ出た。ボーディン少年の依頼を何とかクリアせねばならない。少年の話によれば、姉オーディアの婚約者氏が現状を悲観し、女神聖堂へ足しげく通っているらしい。とりあえずこのアルブレヒト氏を見つけて、話をしてみることにしよう。

 そう思って上層を歩いていたら、Steelbearから連絡があって、現在世界のいたるところで夏祭りが行われているということを聞いた。サルタバルタとか、グスタベルグとか、ロンフォールとかで、花火がぽんぽんぽんと打ち上げられているらしい。

 そんな話を仕入れてはじっとしていられない。私はLeeshaを引き連れて、大至急ウィンダスへ帰ることにした。


 ジュノでSteelbearに会った。彼は変わった格好をしていた。拳法着のようなものを身にまとっているのだが、ぜんたい鮮やかな藍色で、ところどころに紅梅色の花模様が散っている。これは何だと尋ねると、夏祭りで行われている肝試しの景品で、ユカタというのだと彼は言った(それが東洋の伝統的な着物であり、浴衣という字を当てることは後から知った)。

 Steelbearは柄の長いすてきな扇を持っていた。うちわといって、これも東洋の品物なのだった。ぱたぱたと仰いで風を作り納涼に使う。何てことない道具なのだが、人が気持ちよさそうに使っていると、妙に心急いて、それが欲しくてたまらなくなったりするものだ。ボーディン少年にはたいへん申し訳ないのだが、依頼のことは頭からすっかり飛んでいた。夏祭りというからには時期限定のイベントで、機会が二度と来ないことも考えられる。そういうわけで、私は何としてでも国へ帰らねばならない。肝試しに参加しなければならない。

 Steelbearは、用事をすませてからウィンダスへ行く、と言って、通りを歩いていってしまった。飛空挺の時間にはまだずいぶん間があったので、私たちはテレポでタロンギ大峡谷へ飛び、そこから走ってウィンダス入りするルートを選んだ。

花火

 東サルタバルタに入ると、どこからか楽しげなお囃子の音が聞こえ、色とりどりの鮮やかな花火が、山上にぽんぽんと打ち上がっていた。

 私たちはしばらく立ち止まって、火花の芸術にぽーっと見とれた。だが花火は突然に打ち切られた。東の空を見ると、山稜が朝日で赤々と染まっている。どうやら花火は夜中にしか上げないものらしい。こんな平地であれほど鮮やかに見えるのだから、星降る丘に座って眺めたなら、いったいどんなに綺麗なことだろう、と想像した。こうなれば、国へ帰る足取りも軽くなろうというもの。私たちはユカタ、ユカタと歌いながら森の区の門をくぐった。


 森の区の門、ガードハウス前に、モーグリが一匹浮かんで愛嬌をばらまいていた。彼の周囲には冒険者たちが集い、ある者は立ち、ある者は座り、ある者は声をはり上げて、肝試しのパートナーを募集している。モーグリと話をしてみると、こわいこわい肝試しはどうだクポ、と、両手を前に垂らしてみせる。肝試しはどうやら二人一組で行われるものらしい。なるほどパートナーが必要であるわけだ。

 もうイベントを終わらせてしまった者も少なくないらしい。藍色の浴衣を羽織った男が、うす紫の浴衣の女と通り過ぎていく。浴衣は男女で種類が違う。おのこ浴衣おみな浴衣という。おのこは男の、おみなは女の古語である(注1)。種類が違うから色が違う。なかなか趣があってよろしい。

 Steelbearがやって来た。お二人で挑戦してみなさい、と言う。それはいいですが、と私。要するに度胸試しということは理解できますが、具体的にどんなことをするのか、まだよくつかめてないのです。

「いろんな迷宮に送り込まれて、出口を目指すんですよ」
「ふむ」
「それこそダボイとか、エルディーム古墳とか」
「危険ですな」
「レベル1になって」
「……」
もっとこわい場所へ行くことも……

 用意は出来たかクポ、と聞かれる。準備が出来たら言えという。妻は上機嫌に見える。私は多くの不安を抱えながら、モーグリの魔法に身を預けて、いずこへとも知れぬ度胸試しへと出発する。


注1
 「おみな」には美人という意味があります。「おのこ」の正確な対義語は「めのこ」。


(04.08.03)
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