その285

キルトログ、金魚すくいをする

 ボーディン少年と姉の一件があって、しばらく祖国を離れたわけだが、その間も夏祭りは続いていた。祭りは冒険者たちにたいへん好評だった。そのため冒険者当局が、はっきりした告知のないままに、肝試しのモーグリたちを引き上げさせてしまったときには、多くの非難が殺到したらしい。結局肝試しは、夏祭り期間終了まで延長され、もう一つの目玉であった金魚すくいと共に、二本柱の企画として継続することになった。

 金魚すくいは東洋から伝来した遊びである。浅い水に放たれた金魚を、ポイという杓子を使ってすくいとる。ポイの形状は虫眼鏡に似ている。針金で囲われた輪の部分――虫眼鏡なら、レンズが入っている部分――には、和紙が張られている。我々にとって馴染み深いのは、けものの皮を干して作った羊皮紙の方であるが、和紙は植物の繊維で出来ており、濡れると破れやすい性質を持っている。ぴちぴちと跳ねる小魚をこれですくうのは非常に難しい。油断をしていると、単に水をかきまわしただけで紙が破れてしまう。信じられないことだが、達人はポイを破ることなく、片手に持ったに5匹も6匹も金魚をすくうことが出来るという。

 金魚すくいの話を人づてに聞き、これは面白そうだというので、私たちは連れ立って東サルタバルタに出、エリア中央にある橋の上へ急いだ。ここに金魚すくいの宣伝を行っている人物がいる。ルールを説明してくれるばかりでなく、ポイと椀を配ってくれるという。


金魚すくいのミスラ商人

 目的地の周辺は冒険者でごった返している。橋の中腹に浴衣をはおったミスラがおり、裾からのぞく浅黒い太腿もあらわに、ゆったりと腰を下ろし、間延びした抑揚で「金魚すくい〜、おもろいでえ」と声をあげている。私たちはさっそく彼女に話しかけてみた。

 ミスラは説明する。花火の上がる土地の水辺に、たくさんの金魚が放流されているのだ。これを椀につかまえてくるごとにポイントが加算され、集まったポイント数に応じて、景品を貰えるというシステムらしい。

 我々はさっそく椀とポイを貰った。椀は支給品だが、ポイはひとつ100ギルを出して買わねばならなかった。みんなして川にざぶんと飛び込んで、尻の濡れるのも構わず、中腰になってポイを構え、水面をにらみつけた。獲物が何も見つからないこともあるが、たいていはポイの上を小さな黒い影がすっと通るときがあり、タイミングを見計らってこれを椀にすくい上げる。金魚は素早いので、うまくしないと逃げてしまうし、焦るとポイを破ってしまうことになる。本気で取り組むなら、お喋りの片手間に出来るような作業ではない。タイミングが最も大事である。構えて待つ。えいっとすくう。すくったら再びしゃがみ、紙が破れたらポイを交換する。

 私の仲間はきゃいきゃい言いながらこの遊びを楽しんでいた。SenkuやRaidenは数日前からの常連で、たっぷりポイントを貯めていたので、二人して束になるほどのうちわを持っていた。Landsendは鼻まで水に漬かっていた。ミスラのStridemoonは、ぴちぴちした金魚を指でつまみあげ、そのまま口に入れてしまうんじゃないかと思われた。後から姉のFakefurがやってきて、実際にそれをやってみせた。そういえば商人のミスラもぺろぺろと舌なめずりをしている。椀を持っていったとき、捕まえた金魚はどうなるのだと尋ねてみると、意味深にニーイと笑って返したので、極めて実用的な片付け方がなされていることは、ほぼ確実だと思われる。

花火の音をバックに

 気づいたら日が暮れていた。空が暗くなったので、花火の打ち上げが始まった。ぽん、ぽんと空中に開く花をバックに、私はポイを構える。あまりかっこいい構図ではない。それでも大量に金魚が取れたなら報われるが、私の腕はあまり確かではなく、魚を逃がすか、ポイを派手に破くかのたいていどっちかの結末に終わっていた。

 私の知る限りでは、Leeshaも初めて金魚すくいに挑戦するはずなのだが、彼女の方がずっと飲み込みがよくて、頻繁に商人ミスラのもとを訪れ、着実にポイントを伸ばしていた。ミスラの説明では、金魚は3種類いるとのことだった。最もオーソドックスなのが普通の金魚で、ときどき黒出目金がおり、まれにらんちゅうが姿を見せた。金魚より黒出目金の方が大きく、活きがいいので、金魚より捕まえるのが難しかった。らんちゅうは更にその上を行った。そういう難易度と希少度の違いに従って、各金魚の価値はそれぞれ異なっていた。黒出目金は色をつけて1匹につき2ポイントくれるところが、らんちゅうだと10ポイントにまで跳ね上がるのだった。らんちゅうはキング・オブ・金魚というわけだ。当然素人がすくい取るのは非常に難しい。

 しかるに私の妻は、らんちゅうを2匹も捕まえた。この芸当は仲間たちの賞賛を浴びた。彼女は私に一匹くれようとしたが、それは正当な彼女の戦利品であったので、断った。単調かつ報われない作業に、私は徐々にいらいらが募ってきて、冒険者たちの群れから離れ、こっそり川上に移動して金魚を探そうとした。だが不幸なことに、ガルカというのは図体がでかいのである。目立つのである。川中をじゃぶじゃぶと移動する行為は、隠密行動どころか、仲間のみんなに見られていて、結局仲間たちを連れて、単に橋から離れたというだけに終わった。金魚すくいの成果は全く上がらず、Stridemoonに肩を叩かれ、慰められたりしていた。情けない話だ。
 

 我々は金魚すくいをしながらお喋りをしていた(私自身はいささか、水面に神経をそそぎ過ぎていたが)。ところがこのときの会話がもとで、我々のこの後の行動が、大きく変わってくることになった。

 きっかけは、金魚を頭から食べてしまったFakefurだった。彼女は近く闇の王と戦うときには、一緒に参りましょうねと言った。はい、と私は言った。だとしたら私もマイペースを囲わず、積極的に鍛錬に励まなくてはならない。

 ところで、いまいくつのレベルですかと聞かれた。49だと答えた。戦士の。限界クエストはお済みなんでしょうね(注1)。いいえ限界クエストはまだです。話によれば、冒険者が51レベル以上になりたいなら、特別な試練を受ける必要があるというのだ。

 せっかく人間が集まっているんだから、とFakefurが提案する。今から限界クエストに必要な、3つの品物を協力して収集しよう、と言う。私は大いに恐縮したのだが、彼らは既に鼻息荒かった。せっかくの親切をフイにするのも嫌なので、私は仲間たちを連れて、急きょ3つの品物を探すための旅に出かける。



 限界クエストは、レベル51以上になるための特別なクエストです。最初の限界クエストをクリアすると、レベル55までは普通に上げることが出来ます。その後は5レベルごとにまた別の限界クエストがあって、とにかく順次消化していかなければ、冒険者のレベルを伸ばすことが出来ません。

(04.08.16)
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