その286

キルトログ、三つの品物を取りに行く

 私がまだ未熟なりしころ、サポートジョブを獲得するために遁走したことがある。あのときの私は、師イサシオの指導で、3つの品物を集めてくることを強いられた。すなわち、ガガンボの腹虫、呪われたサレコウベ、陸ガニのふんどしである(その60参照)。

 私は現在、戦士のレベルが49に達しているのだが、信頼できる筋の情報によれば、冒険者は例外なく、レベル50で実力が頭打ちになるのだという。この停滞状態を脱するには、私がサポートジョブを獲得したときのように、3つの品物を用意する必要があるのだそうだ。
 
 一、ボムの炭
 一、古代魔法のパピルス
 一、エクソレイの粘菌

 私が現在、誰かに指導されているということはないのだが、品物が必要になるのは確実なのだから、先に集めておくのが合理的なやり方である。特に今回のように、便りになる仲間が一同に集まっている場合には。


 祭りの場所へ通りかかったIllvestを加えて、8人となっていた一行は、後に仲間を徐々に加えて、大所帯に膨れ上がることになる。

 まず我々は、ガルレージュ要塞へ向かった。ボムの炭を狙うのである。三つの品物はそれぞれ別のダンジョンに散らばっているが、何処から回るかは全く冒険者の自由である。ボムの炭を獲得する難易度は、三つの品物の中で最も低い。ガルレージュ要塞の奥にいるボムは、例外なく炭を落とすからだそうだ。ただしご存じのように、この怪物は自爆攻撃をしてくる。ボムの炭の難易度は、ドロップ率の高低ではなく、敵の直接的な危険度に拠っている。

 ガルレージュ要塞は、ソロムグ原野の南東に位置している。クリスタル戦争の古戦場の一つで、獣人軍の奇襲を受けた王立騎士団が、派手な全滅を遂げたことで有名だ。初めて足を踏み入れる場所であるから、本来なら文章を多く割きたいところであるが、慌しく駆け抜けただけであったから、細かい観察を重ねることは出来なかった。従って詳細な紹介は次に譲り、今回は特に目に留まったところだけを報告するに留めたい。

 地下要塞の壁は黒光りのする石で出来ており、戦後20年経っても、つやは失われていなかった。ただし中は湿っぽく、アンデッドモンスターの集う嫌な空気が蔓延していた。冒険を重ねているとこういう雰囲気には敏感になってくる。グスゲン鉱山しかり、エルディーム古墳しかり。

 床のいたるところに開いた落とし穴を避けて、Landsendが縫うように進んでいく。私は彼にぴったりついている。石造りの迷宮は、巨大な門――魔防門らしい――を越えたあたりで終わり、ごつごつした岩壁の洞窟に移り変わる。さながらホルトト遺跡を探索中、ナナー・ミーゴの隠れ通路に迷い込んだかのようである。

 奥にボムがいる、とFakefurの靴音も高いのだが、私は不意に立ち止まって、右手の行き止まりの洞窟にうずくまっている、小山のような生き物の背中を見た。何だこいつは、と口に出して言うと、Senkuが「かえる」と答えた。蛙にしては相当な大きさだ。近寄って見ていないからわからないが、バタリング・ラムに匹敵する規模なのではないか。

 大蛙はぷるぷると身体を振るわせるばかりで、振り向く様子もない。どうせならご面相を拝みたかったと思いながら、私はとっくに通り過ぎた仲間たちを追いかけた。身体には既にスニークが施されていて、洞窟内の敵が不用意に襲ってこない準備がなされている。


謎の大蛙
ボムの群れ

 やがて我々は大広間に出た。ボムが4匹、頭の天辺から噴煙を上げつつ、徘徊している。Fakefurがヤッと声を上げて切りかかり、あっという間に始末してしまった。全員で力を合わせるほどの作業でもなかった。私はまずボムの炭を手に入れ、さっさとガルレージュ要塞を後にした。

 
 次なる目標は、古代魔法のパピルスである。エルディーム古墳にいるリッチ――骨のモンスター――が持つという。リッチはなかなか強力な敵であるうえに、とにかく希少価値が高いので、根気の勝負だという。パピルスを手にいれるために何日も古墳に篭りっきり、という事態も珍しくはないそうだ。

 ところが、非常な運に恵まれた。最初に倒したリッチが、いきなり目的の品物を落としたのだ。これには一同唖然とした。難易度の最も高いパピルスをあっさり入手したことで、三つの品物獲得の旅にも、よりいっそうの弾みがついた。最後はエクソレイの粘菌である。エクソレイとは歩くきのこの仲間で、クロウラーの巣の奥に徘徊しているのだという。


 結果的に最も時間がかかったのは、第三の迷宮――クロウラーの巣の探索行だったと思う。人数が大幅に増えたにもかかわらずである。SteelbearやLibrossが参加してくれたし、偶然にもこの地にて、一人で修行をしていたRodin、あるいはSenkuの弟のPonoらも加わったのである。

 それだけ大人数になったので、我々は手分けして獲物を探すことになった。実際のところ、獲物の数は少なくなかった。エクソレイは特別希少なモンスターというわけではなかったから。問題はエクソレイの多寡ではなく、粘菌を持っているエクソレイが見つからないことだった。だが外見から見極める方法はない。我々はひたすらエクソレイを狩り、きゃつが目的の品物を落とすのを待つだけなのである。根気の勝負である。

 目を皿のように丸くして、芋虫を探しながら歩いていると、不用意にも別のモンスターに襲われて、命を危なくすることがあった。姉妹で遠くへ探しにいったFakefurとStridemoonがそうで、Stridemoonを助けるために、タルタルたちが飛び出して行った。私も似たような失敗をやった。何気なしに蜂のそばを通ったら、ぶっすりと攻撃されたのだ。要するに自分は、少なくともこのレベルでは弱いのだから、不用意なことをして、足を引っ張るような真似はすまい。いつもそう心がけているのだが、根が小心者だから、友達にすまない気がして、自分で出来ることを探しているうちに、トラブルに巻き込まれてしまうというのがいつものパターンだった。それでまたみんなに迷惑をかけるのだ。

 ああ、強くなりたい。


祝福のガルカン音頭

 エクソレイの粘菌が遂に出たとき、Raidenがそれを祝福して、ガルカン音頭を踊ってくれた。いかにも種族の伝統芸能のようなネーミングだが、実際には彼と、彼の友達による振り付けだった。両の手にうちわを握り、大きな身振りでぱたぱたと動かすのだが、そういうときはたいていタルタル兄弟がいて、Raidenの脇で振り付けをあわせて踊るのだった。

 彼らはいたるところ、いたる場面でガルカン音頭を披露していた。何しろSenkuもRaidenも、風呂の焚きつけに使えそうなほど、うちわを束にして持っている! 私は心から礼を言った。踊りの披露に関してだけでなく、仲間たちの協力に対して。これで私は55レベルまで上ることが出来る。そこからレベルアップを果たそうとすれば、新しい壁に再び突き当たるらしいのだが、少なくとも当面の間は、自分の成長の頭打ちに対して、深刻に考えなくても済むことだろう。

(04.08.16)
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