その295

キルトログ、モブリンの都市を訪れる(2)

 長年秘密の存在であったムバルポロスが、なぜヴァナ・ディールから「発見」されることとなったのか。正確な事情は伝えられていない。私の想像であるが、おそらく内側から、たまたまグスタベルグの壁を掘り抜いてしまったのだろう。何故なら奴らは、我々人類にもの凄く近いところまで接近していた。岩一枚隔てた地、壁の向こうに。ムバルポロス出現の兆候は既に現れていたのだ。

 Ragnarokについていくと、意外な場所に出た。グスゲン鉱山の一角だった。私はあまり馴染みがない場所だが、Leeshaはよく来たらしく、ああ、この場所と繋がったのか、と感心している。
「ところで、面白い事実があるんですよ」
Ragnarokは言った。とたん、周囲に不協和音が響いた。ワーン、ワーン。

「サイレン」と私が言った。
「そうです」とRagnarok。
「グスゲン鉱山に鳴り響くサイレンです。ムバルポロスの中でも鳴っていましたが……」

「ああ、そうか!」とLeeshaが、感心したように頷き始めた。それはこういうことだった。夜中になって、幽霊が出てくる時間になると、グスゲン鉱山では決まって、高らかなサイレンの音が響いていた。皆は噂しあった。いったいこのサイレンは何だろう。幽霊の出る時間と符号しているので、警告の意味で鳴っているのかもしれない。しかし、「誰が鳴らすのだ?」との問いに、誰も明確な答えを返せなかったので、きっと幽霊がやっているのだろうということになった。そうだとしても筋の通らない部分はあるが、みんな気にしなかった。逆を言えば、誰も他に説得力のある理由を見つけきらなかったのだ。

 ところがRagnarokの推理によれば、そのサイレンは、壁一枚隔てたムバルポロスから聞こえる、採掘の合図だったのである。幽霊の正体みたり! Leeshaは長い間感心していたが、正直、グスゲンでの経験がない私には、その発見の驚きを味わうことが出来なかった。鉱山でサイレンが鳴っているという話は、確か以前に聞いた記憶があるのだが。

通路の爆弾

 我々はムバルポロスに戻った。ふと、通路の脇に置かれてある小箱に目がいった。ムバルポロスの通路には、工業用品や、ゴブリンらしいがらくたが、いたるところに積まれているのだが、赤い塗料を施したその箱は特別だった。金属製の丸壺が、八つ整然と並べられている。「爆弾だ!」と私は声をあげた。「何て物騒な……」
 Ragnarokが頷いた。

 モブリンは、地下を掘り進むという必要性から――なぜそうするのかはわからないが――優れた工業技術を発展させたという。火薬の使い方がうまいのは当然である。「ゴブリンの爆弾は、ここから持ち出したのかな」とRagnarok。ゴブリンは瀕死になると、手榴弾を我々に投げつけることがあるのだ。
「しかし、いかにも大きすぎる」と私。
「あるいはモブリンが、携帯型の爆弾を作って、ゴブリンの商人におろしているのかもしれない」

 あの爆弾の用途も、もともとは投げつけるものじゃないのかもしれませんね。そんな話をしていたときだった。階段の上から、赤い兜をかぶったモブリンの一団が、百足のように連隊を組んで、一息に駆け下りてきた。私たちははっと身構えたが、標的はこちらではなくて、私の前を歩いていた冒険者たちだった。私たちはさっそく助太刀に入った。モブリンの一匹一匹は、大した強さでなくて、たちまち切り捨てることが出来た。

「あれが、モブリンのパーティですよ」とRagnarokが言った。

 だとすれば、獣人も力を合わせるのだ。恐ろしい奴らだ。もしかして、冒険者の戦術を学んだものかもしれぬ。


鉄面型のモブリン

 ものの文献によれば、モブリンたちの技術は、重工業に留まらない。錬金術にも優れた成果をあげているという。その主なものは、生体改造である――生体改造! ヴァナ・ディールでは、倫理的にとても許されまい。なぜモブリンが禁断の領域に踏み込んでしまったのか。獣人の蛮性と断罪するはたやすい。しかしながら、陽の光から閉ざされた地下の暮らしにおいて、モブリンが敢えてタブーを犯した可能性については考えなくてはならない。

 とはいえ、やむなき事情があったかもしれないからといって、生体改造が忌むべき技術であることに変わりはない。おそらくバグベアがその成果なのだろう。巨人とゴブリンをかけ合わせたような大型の生き物で、橙色の不気味な肌をし、無機質なガスマスクをつけ、金属のリュックを背負っている。足は手のひらのように指が長く、蛙のようである。なぜこのような生き物が生まれなければならなかったのか、私は理解に苦しむ。獣人が人間の心を解さぬとは間違いである。ゴブリンのフィックがそれを教えてくれた――しかしなお、我々と彼らとの間には、巨大な溝が横たわっている。冒険者は黄金のために獣人を狩る。獣人は、憎しみのために人類を襲う。それが、女神に祝福された、我らがヴァナ・ディールの現実なのだ。


バグベア

 先にも述べたが、ムバルポロスは徐々に移動しているという。私たちが踏み込んだ場所は、ムバルポロス旧市街であって、既に街の中心は、洞窟のさらに奥まで移動しているようだ。私たちは新市街へ行ってみた。獣人の強さを調べて、Leeshaがひいと言った。Ragnarokはともかく、私たちのレベルで深入りできる場所ではない。

 残念ながら、ここで引き返すことになった。後で聞いた話では、Parsifalは新市街を抜けて、逆に旧市街へ入ったようである。一方の私たちは、ジュノまで引き返して、ビビキー湾への行き方を思案していたのだった。

(04.09.28)
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