その303

キルトログ、ギルド桟橋を見学する(2)

 ミルク色の霧の中で、景色が見えないと地団駄を踏んでいると、船頭がのんびりした声で到着を告げ、バージはゆっくりと、岸へ向かって近づいていった。桟橋の規模は先刻の船着場と変わりがない。我々を岸へ乗せると、バージは慌しく、川面をさっさと滑っていってしまった。

 Illvestの説明によれば、バージは川の流れに従うものであるから、逆の動きは不可能なのだという。上流には戻れないのである。従ってここから先刻の港へ戻るためには、一度何らかの方法でギルド桟橋の外へ出なければならない。

 我々が岸に着いたとき、ちょうど明け方を迎えて、周囲の景色がうっすらと見え始めた。葦のたくさん生えている水辺だった。奥に池がありますよ、とLeeshaが言うので行ってみた。灰色の水が広がっている。周囲を覆うのは枯れかかった葦。左手の高い岸壁をまわり、奥に水面が続いているのを見ると、池というよりは川の一部であるらしい。


葦の生えた水辺

 ギルド桟橋は冬枯れた印象がある。ビビキー湾の豊かな原色とは対照的である。しかし美しい。うちけぶる水辺の光景は、ロンフォールの森の美に通じる。ギルド桟橋では、ビビキーの原色の輝きを欠くかわり、灰色の景色の向こうに横たわる、確かな自然の雄大さ、力強さを感じるのだ。

 ふと見上げると、梢に羽根を丸めたフクロウがいた。「あ、ほら」と指を差したらば、Leeshaが笑って、あれは彫り物なんですよ、という。近づいて見てみた。小さな羽角があるように見えなくはないので、もしかしたらミミズクかもしれない(注1)。なるほど微動だにしないフクロウは確かに作り物のようである。しかし時おりホーウ、ホーウという声がする。作りものが鳴くはずはないのだが、だとしたら一体何が声を出しているのだろうか。

 Illvestの推測によれば、これには魔法がかけられていて、何かの条件によって音をたてるのだろう、ということだった。どうやら「フクロウの木」はここだけではないらしい。別の池へ行ってみた。梢に溶け込んでいた先刻のフクロウと異なり、今度のは三又に割れた幹の上に直立し、まっすぐ我々を見下ろしている。近づくと確かにホーウ、ホーウと鳴いているのである。周囲には高足の木が並び、根と根の間にはすの花びらが浮かんでいる。「あの上に乗れないかしら」とApricotはいうのだが、人間の乗れるようなお化けはすは、まずウィンダスの鼻の院くらいしか作ることは出来まい。


フクロウの彫り物?

 フクロウの木の近くに、エルヴァーンの老人が立っており、ここはなにがし伯爵様の領地であるぞと我々を叱るのだった。うっとおしいから場所を移動することにした。先刻は景色が全然見えなかったから、せめてもう一回バージに乗ってみようと、一度ジャグナー森林へ戻り、入ってきた洞窟までわざわざ回ってみた。面倒くさい。一般的に観光地としては、ギルド桟橋よりビビキー湾の方が評判がいいが、それも当然であるように思う。下ったら下りっぱなしのバージは、魔行船(マナクリッパー)と比べて不便である。おまけに霧が観光の邪魔をするときている。企業努力で改善できそうなものでもないが、せっかく来たのに景色が見えないのでは、リピーターが増えなかったとしても致し方ないだろう。


 井守ヶ淵を回ったときと異なり、今度の乗り組みは、明け方から正午前になる。観光には最もよい時間帯といえそうだ――濃い霧さえ出なかったら。

 今度下るのは主水路である。主水路の名物は三本の滝だという。東岸に続けて紅糸の滝、金糸の滝、錦糸の滝というのが現れるそうで、釣り竿を持っていない私としては、ほとんど唯一の見所といっていいだろう。

 幸いなことに快晴であった。あの霧が嘘であるかのように景色が澄み、隅々までよく見えた。こうして見ると水面は緑で、樹木の葉は青々として、ギルド桟橋も決してくすんだ景色というばかりではない。私は改めて、ああここは夜に来てはいかんな、と思うのだったが、時間を調整して来るのは難しいし、本数の少ないバージである。やはり釣り竿でも持参しないと、万一「外れ」だったとき、時間を潰すというのは少々難しいかもしれない。


錦糸の滝

注1
 フクロウとミミズクはともにフクロウ科の鳥です。フクロウの中でも特に、羽角(猫耳の位置に生える三角の毛。角に見える)と足毛があるものをミミズクと呼びます。従ってフクロウという言葉は、ミミズクを含むフクロウ科全体を指すときと、ミミズクとの対比として、それ以外のフクロウ科の鳥を指すとき、両方の意味で使われます。


(04.11.14)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送