その304 キルトログ、ガルレージュ要塞へ宝箱を探しに行く
ジュノでLeeshaに会ったときに、彼女がサンドリアの皇太子妃候補にあがったという知らせを聞いた。私はびっくりして、きみそれは名誉なことかもしれないが、断じていけませんよ、と語気を強めた。Leeshaはホホホと笑って、もう断られたからいいのだ、と言う。そういうわけでこの話は流れたのだが、選定から落っこちたなら落っこちたで、理由が気になる。彼女を妻としている身としては複雑な気分だ。 Leeshaは白魔道士の装備を取りにガルレージュ要塞へ行きたいと言う。ついでにソロムグ原野の石碑――グィンハム・アイアンハートの――を写しとりたいとも。セルビナ町長に頼まれた碑文の回収は、長い長い時間がかかったものの、ソロムグのそれを写し終えれば終了する。私は快諾して彼女と一緒にジュノ港へと下りた。 ジュノ港ではLibrossが待っていた。助っ人はもう一人いて、こっちはヒュームのLybruss(ライブラス)である。LibrossとLybruss、非常にややこしいが、二人は名前が似ていることから意気投合、友人になったのだという話だ。なるほど、そういう縁もあるのか。もしKilltrugassとかいうような御仁を見つけたら、私も声をかけてみることにしよう。 以前に3つの品物を取りに行ったさい(その286参照)、ガルレージュの陰鬱な空気が印象に残ったが、改めて訪れたさいにもそれは変わらなくて、いかにも死霊の好みそうな、澱んだ瘴気が漂っているのだった。その証拠に、ここに出現するモンスターは、スケルトンや幽霊が多い。一説には、クリスタル戦争で無残な死に方をした兵士たちが化けて出るのだという。だとすれば、廊下に無造作に開いた穴は、さしづめ真の地獄への入り口というところだろう。 我々はその落とし穴を避けて奥へ向かう。目指すは魔防門である。読者諸氏はホルトト遺跡の奥にある、3種の魔道士を必要とする魔法陣を思い出されるだろう(その92参照)。しかしガルレージュのそれはもっと凝ったものである。丁寧にも門は3つもあり、最深部へ行くにはその全てを潜らないといけない。大戦から20年が経ち、守るべき者を無くしてしまった今も、ガルレージュ要塞は生き続けていて、我々冒険者を三重のセキュリティで阻もうとするのだ。 ガルレージュの魔防門にはそれぞれ4つのスイッチがある。これらを同時に押してようやく一つの魔防門が開く。面倒なことに、スイッチはそれぞれ遠く離れた位置にある。しかも壁についているボタンなどではなく、祭壇のようなかたちをしていて、人間一人の体重がかかってようやく沈むようになっている。従って魔防門を動かすには、最低4人の人間が力を合わせなくてはいけない。人数が満たない場合など、見ず知らずの冒険者が互いに手伝い合うこともあるが、大抵は偶発的な協力に期待せず、最初から4人以上のパーティで臨む。門の手前で用事が済むことはまずほとんどないからだ。 Leeshaが希望する白魔道士の装備品は、宝箱から入手できるものである。宝箱は門の向こうに出現することもある。しかもソロムグ原野の石碑には、一度要塞を通り抜けないと到達できないという。ということは、どうあっても門を越えないといけないのである。我々は互いに散ってスイッチを探した。廊下を挟んで向かい合った8つの小部屋があり、一つ一つに祭壇がしつらえてある。門を開くためのスイッチはこのうちの4つ。私は祭壇に飛び乗る。段がぐいと沈み、石を引きずるような音が遠くで聞こえると、私は部屋を飛び出して廊下を走る。魔防門は短い時間しか開かないので、急がなければならない。もし間に合わず閉じてしまったら、仲間たちが通り抜けたあと、たった一人で取り残されてしまう羽目になるのだ。
2匹のスライムが、扉の前でずるずると這っているのを見た。しかしながら、我々にはインビジとスニークがかかっており、無事に脇をすり抜けることが出来た。Lybrussと私が滑り込むと、再びごごごごと音を立てて、ぴったりと扉が閉じられてしまった。なるほど時間が本当に短い。そうでなければ仕掛けの意味がないのだが、スイッチを入れて全速力で走らねばならないのは、鈍足の私などにはちょっとしたプレッシャーに思える。 そうして門を抜けても、かんじんの宝箱は見つからなかった。みんなでさんざんに歩き回ったあげく、Librossが、第二魔防門の方へ行ってみませんか、と提案する。第二の門も同じようなスイッチで開閉するようだ。そのとき運悪く、Leeshaがスライムに見つかって、攻撃を受けた。とたん扉がぴしゃと閉まって、スライムが門の向こうに取り残されたようなかたちになったが、安心したのもつかのま、この原始的な生き物は、閉じられた扉の隙間を潜り抜けて、なおも執拗にLeeshaに殴りかかったのだ。魔防門を単体で突破するとは!我々はスライムの執念に感心したが、同時に腹が立ってきて、めいめい得物を取り、これを引き裂いて、あっという間に黒い水たまりにしてしまった。野蛮でいやらしいモンスターどもめ! いくら探しても宝箱が見つからないので、Librossの提案により、先に碑文を回収することにする。我々は石の階段を上って、ソロムグ原野に出た。久しぶりに味わう外気は優しく、暖かく、心地よい。呪われた要塞がいかに非人間的な空間であるかを、私は改めて思い知った。
埃交じりの風も名残り惜しく感じられる。我々はしぶしぶガルレージュ要塞へ戻った。Leeshaの白魔道士装備のため、宝箱散策を再開せねばならないのだ。 ――何となく嫌な予感が的中した。魔防門のスイッチが入ってから、私の駆け出しが遅れ、門の手前に取り残されてしまったのだ。無情にも閉まってしまった石の扉。さらに運の悪いことに、ちょうど魔法が切れて、私はスライム2匹の真っ只中に放り出されてしまった。 門の向こうから仲間の呼ぶ声がする。私に回復魔法がかけられる。ヒーラーの姿が見えないのは妙な気分だ。2匹を相手にしては到底勝ち目はない。私はスライムではないから、扉を抜ける術はない。逃げれば周辺の冒険者に迷惑をかけるだろう。この場に留まって攻撃を受け、死んでしまうのが最良の策に思える。もちろん私は大いに不本意だが、誰かにレイズをかけて貰えば、この場で蘇ることも出来る。もしかしたらレベルが下がるかもしれないが、そのくらいの代償は覚悟しなければいけないだろう・・・。 と思っていたら、目の前の曲がり角から、LybrussとLibrossが姿を現した。 どうやって来た?と声をかけるのもつかの間、彼らは武器を取って、スライムどもに襲いかかった。遅ればせながら私も斧を取り出した。迂回路があるのかもしれないが私は知らない。いずれにせよ、仲間は奇跡のような方法で、私を助けてくれたのだ。ガルカであったのが幸いしたかもしれない。無駄に体力があったぶん、スライムの攻撃を持ちこたえることが出来たのだろう。 我々は合流して、宝箱を探して回った。しかし影も形も見えない。もしかしたらライバルがおり、一歩先に開けられているのかもしれない。詳細はわからないが、時間が来てしまったので、我々はジュノへ戻った。Leeshaは新しい助っ人を頼み、もう一度ガルレージュに探しに行くという。私は手を振って別れた。その後に聞いた話だが、彼女は無事に宝箱を見つけて、白魔道士の装備品を手に入れたそうである。 (04.12.01)
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