その307

キルトログ、ツリー職人の頼みを聞く

 スマイルブリンガーが帰ってきた! 町は噂で持ちきりだった。時に20日、星忙祭本番にはいくらか早かったが、モグハウスを出てみれば、赤い布の帽子をかぶった冒険者が多く見られた。すれちがう人すれちがう人、みなスマイルブリンガーを気どっている。いくら季節とはいえ、みんな同じ扮装ではつまらないなと、私は少々斜に構えた気分だったが、我らがSteelbear氏までかぶっておられるのを見るにつけて、奇妙にくやしさが募り

「くそう、今日は忍者の修行に出かけるが、明日こそは」

 と、無念さに唇を噛みしめるのだった。こうやって私もイベンターの策に落ちていくのである。


 それはそれとして、あの見事なツリーを作った職人たちが、三国を訪れている、と聞いた。私はLeeshaと飛空挺に乗り、まずはサンドリアの街へと駆けつけた。

 港へ下りてから、職人のところへ案内してもらった。いかめしい老人を予想していたのだが、浅黒い肌の精悍なエルヴァーンだった。彼は言った。ツリーの評判が大変よろしく、おかげさまで注文が殺到している。だが人手を欠き、素材品の入荷に手間取っているのだ。よかったら手伝ってもらえないだろうか、と。Leeshaの説明によれば、うまく依頼をこなすと、ミニチュア・ツリーをくれるはずというのだ。私は迷わずにうんと言った。いかにミニチュアとはいえ、あの見事な木が私の部屋に来るとは、想像するだに愉快である。

「それでは1時間以内に、港区モグハウス前のモーグリから、素材を受け取ってきてくれたまえ」

 1時間? 少し考えて傍らに目をやったら、Leeshaの姿がなかった。階段を急いで駆け下りる背中が見えた。しまった。ここからモグハウスまでは結構な距離がある。制限時間が1時間では、全速力で走らないと間にあわない!

 ぜいぜいと息を荒げてモグハウスに辿り着いた。腹が立つほど暇そうにしているモーグリの姿が目に入る。奴は事務的な応答をして、前金は受け取ってあるクポと、私にポーラファーの苗木を押しつけた。この北極樅(もみ)は非常に成長が早い。職人氏はこれを基調に、ミニチュアツリーの飾りつけをするのだろう。

 苗木を持って駆け戻った。鈍足の私には酷な仕事だったが、ぎりぎりセーフ、あるいは遅れたとしても数分がせいぜいというところで職人氏に渡した。ところが彼は私を叱り飛ばして、糞味噌のようにののしったあげく、そいつはもう手遅れだから、今度は北サンドリアのモーグリのところへ行ってこいと言う。これには私もさすがにかちんと来た。ただ新しい猶予は3時間なので、モグハウスを抜けていけば――ミスラの子供に近道を教えてもらったのだ(注1)――十分に余裕があった。今度は万一にもしくじることはないはずである。

 品物を受け取ってから、職人氏の怒りの意味がわかった。ポーラファー植木鉢は、先刻の苗をプランターにうつし替えたものである。容器には魔法がかかっていて、苗木の成長をぐんと遅らせる効果がある。つまり職人氏は、絶妙なタイミングで鉢をうつしかえているのだ。先の品の入荷が遅れれば、木が大きくなりすぎる。植木鉢に埋めたままだと、逆に枯れてしまう。制限時間にこだわるのはそこなのだろう。仕事が終わると、職人氏は喜んでサンドリアツリーをくれた。部屋が殺風景で困っていたところだ。さっそく今夜飾らせてもらうことにしよう。


 今度はバストゥークへ行く。共和国のツリーもなかなか見事であった。心優しいヒュームのむすめが作ったのかと思いきや、職人の正体は、ぞっとするほどいかつい、筋肉質のガルカであった。彼はぎろりと私をにらんで、入荷を手伝ってくれと言った。口調は穏やかだがこれは脅しである。私だから平常心でいられたものの、気弱なタルタルだったら震えだして、その場で溶けてしまったかもしれない。

バストゥークセカンドツリー。
氷雪が舞っている

 ガルカ氏の依頼により、北グスタベルグに出る噴水広場から、モグハウス前まで駆けることになった。今しがた飛空挺が通り過ぎていてよかった。もし桟橋が上がったなら、絶対に1時間で戻ることは出来ない。果たして私は、樹氷に覆われた苗木を抱えて、約束通りに戻ってきた。間にあってよかった。もし時間を切っていたら――そのことは考えたくない。

 私はこうして、バストゥークツリーを入手した。どうせなら三つめも欲しいというので、故郷のウィンダスへと向かった。モーグリにテレポートさせてもらったのだが、なぜそんなことが出来たかという事情は、スマイルブリンガーの福祉計画と密接に繋がっている。とりあえず今は、読者諸氏の混乱しないように、三国のツリー職人の依頼を追うことにしよう。


 ウィンダスのツリーというのが一番難物であった。作者はヒステリックな感じのミスラである。彼女はウィンダス港の出口、西サンドリアに繋がる門の前で待っていた。

 このミスラの横着な口調がどうも好きになれなかった。例によってモーグリに、「ツリーにぶら下げる装飾品」をもらって来いという。その品がふるっている。モグハウス前で渡された箱を覗き込んでみたが、どこからどう見てもミートパイにしか見えないものが入っていた。私は箱書きを読んでみた。
クェ・パイ
狩人クェ・ロンチャブが焼いたミートパイ。
美味しいけれど、冷めると臭味が出てしまう。
「……」

 1時間を過ぎたのち、私とLeeshaはたっぷり叱られて、今度は水の区で品物を受け取った。箱を覗き込んでみたが、どこからどう見てもジェラートにしか見えないものが入っていた。同じく箱書きを読んでみた。
メヒルルジェラート
黒魔道士メヒルルの開発した氷菓子。
美味しいけれど、溶けやすいのが難点。
「……」

 時間と戦い、たっぷり汗をかきながら、私たちはミスラのところへ戻ってきた。おやおや、ありがとうとミスラが言い、ウィンダスツリーをくれた。さっそくあらためてみる。枝からパイやジェラートの下がっている様子はない。当然ではある。いくら特別だからといって、誰も部屋に蝿の湧く木を置きたくはないであろう。

 そのときミスラ嬢が小さな声でつぶやいたのである。
(ああ、おなかいっぱい)

 食いやがった!食いやがった!と私は半泣きで声を荒げた。走り回って疲れていたし、たいへん腹が減ってもいた。だから情けなく騒いでしまったのだろう。祭りの日にさもしい限りであるが、げに食い物の恨みは恐ろしいものである。


三本ツリー

注1
 タイトルを書くだに恥ずかしいクエスト「お庭にお花さんを植えたいにゃ」をクリアすると、モグハウスを抜けて、国内のいろんなエリアへ出ることが出来ます。


(04.12.27)
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