その311 キルトログ、クゥダフの卵を手に入れる 「ニ・グ・ネストファウンダーというクゥダフがいた」 ダイドッグは言った。 「手強い獣人だ。ラオグリムがそいつを倒したという噂があった。だが奴は、クゥダフの潜むパルブロ鉱山から、手ぶらで戻ってきた。 敵を倒したら、首級とまではいわないが、証拠の品を取って来るものだ。うちの若手のゴラオに、クゥダフを倒してくれと頼まれなかったか? そのあかしに、クゥダフヘルムを持ち帰れと。そういうものだ。口だけなら何とでも言えるからな。 しかし奴はそうしなかった――何故か。いま俺は、クゥダフがいたといったが、案外まだ生きているかもしれんぞ。 行ってみるか? パルブロ鉱山へ」 私が頷くと、ダイドッグはにやりと笑った。 「それでは、卵の部屋を覗いてみるがいい。件の獣人はそこに出没する。クゥダフの斑卵を忘れないようにな」 仲間を連れて――守られてといった方がいいが――北グスタベルグに入り、パルブロ鉱山へチョコボを飛ばした。 卵の部屋へはすぐに到達する。蒸気が充満する蒸し暑い部屋である。段の上に孵化器が乗り、それぞれに十数個の卵がささっている。誕生にどれくらい時間がかかるのかはわからないが、前回見たとき以来、新しいヤング・クゥダフが生まれていて、グスタベルグでの被害者を増やしている可能性がある。それを考えると、いっそのこと武器を振り回して、卵をめちゃめちゃに砕いてしまうのが、「正義」なのかもしれないのだ。だが……。 ずんぐりとした影が、孵化器に伸びてきた。 私は斧を抜きはなった。
嗚呼、恐るべきニ・グ・ネストファウンダー! 奴はおそろしくタフであった。私ひとりであったら、あっけなく殺されていただろう。この古強者を倒すことが出来たのは、一重に仲間たちのおかげだった。すなわち、ナイトのRagnarok、赤魔道士のLibross、吟遊詩人のSteelbear、黒魔道士のSenku、Apricot、白魔道士のLeesha。彼らとは――GorasがSenkuに代わった以外――同じメンバーで、オズトロヤ城に向かうことになる。 私はクゥダフの斑卵を手に入れた。孵化器のものよりふた回りも大きく、毒々しい虎斑に彩られている。ラオグリムは獣人を倒さなかったのだろうか。私がこれを手にしているということは、そうなのだろう。何故かは想像に難くない。私には、私のものでない記憶がある。魔晶石の奥に見えた光景――卵を守って死んだクゥダフに注ぐまなざし。ダイドッグはそれを理解するまい。彼の勝ち誇った笑いを思い浮かべて、私は暗澹たる気分になった。 ダイドッグは勝利者となった。手渡した卵を、彼はトロフィーのように頭上に掲げた。「どうだ!」と彼は言った。「何が語り部だ! 英雄の名は地に堕ちた。奴はただの詐欺師だ!」 そのとき、重々しい鎧の音を響かせて、通りを曲がってくるものがあった。共和国の警備兵かと思ったが、違った。こちらに向かって頭を下げたその顔は。 「これはこれは、ご無沙汰しております、ダイドッグさん」 「アイアン・イーター……こんなところで何をしている」 ダイドッグは吐きすてた。「ヒュームの犬っころめ」 アイアン・イーターは私の方をちらりと見て、肩をすくめた。 「調べものがあったものですからね。それよりも何です。こんな往来で、ラオグリム様の話をされていたようだが」 「その通りだ。俺は遂に奴の欺瞞の証拠を見つけたぞ。見ろ、これが、あいつの持ち帰らなかった卵だ。語り部はクゥダフを倒してなどおらん」 「あなたはまだそういうことを言っているのか」 アイアン・イーターはぴしゃりと言った。 「ラオグリム様は、共和国の利益のために尽力されたお方でした。あの人の任務は、問題のクゥダフを倒すことであって、卵の奪取ではなかった」 「しかし、こいつがここにある……」 「誰が持ってきたのです?」 アイアン・イーターは、じろりと私をねめつけた。余計なことをする、とでも言いたげである。 「ラオグリム様は、確かに戦利品を持ち帰らなかった。だがそれはあの人の主義だった。任務の遂行にかこつけて、名声も財産も得ようとはしなかった。それはダイドッグさんがよくご存じのはず」 「政府の手先のことなど知らんね」 「一方的な国の命令に、苦しまれることもあったのです」 「お前が言うか、ヒュームの犬め」 「私だからこそ、それを言う権利があるとは思いませんか」 今ここに、新しい英雄と古強者が対峙した。だがにらみ合いはあっけなく終わった。アイアン・イーターが突然相好を崩したからだ。意表を突かれたダイドッグは、「お前、何がおかしい」と腹を立てた。だがアイアン・イーターは、にこにことしたまま侘びを述べた。 「いや失礼。はばかりながらミスリル銃士の私に、ここまでずけずけと意見を言う方も、なかなかいらっしゃらない。 ダイドッグさん、あなたは幼いときからラオグリム様と共にあった。ですが、あの人に関しては、大きな誤解をしておられる。若い私が言うのは失礼にあたるが、これだけは申し上げておかねばなりますまい。 先ほど私は、ラオグリム様が、何も戦利品を持ち帰らなかったと言った。だがこれは正しくない。あの人が一度だけ、かけがえのない友人のために、ある靴を手に入れたことがあります。私はその話をあなたにお伝えしたいと思う」 「なに、靴だと……」 「そうです。西はミンダルシア大陸、メリファト山地にそびえ立つ邪教集団の城、オズトロヤの奥地に飼われているヤグード・パラサイト……その貴重な皮を入手するため、ラオグリム様は、単身現地に足を運ばれた。何ならご自身で行ってみられるとよろしい。それを果たすことがどれほど危険であるか、あなたにも容易におわかりになることでしょう」 注1 「クゥダフの斑卵から孵化した幼生は、将来の幹部になると言われている。もし放置されていたら、新たな金剛王ザ・ダの側近が生まれたかもしれない」 (Kiltrog談) (05.01.16)
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