その312 キルトログ、パラサイトの皮を入手する パルブロ鉱山より戻ってから、わずか半日とたたないうち、今度は大陸を越えて、はるばるメリファト山地に出向くことになった。ダイドッグ氏じきじきの依頼があったからである。 アイアン・イーターの話を聞いたダイドッグは、すっかり気持ちが萎縮してしまったようだった。 「ヤグード・パラサイトだと。馬鹿な。リーチの皮から靴を作る、そんな話は聞いたこともない」 現物を手に入れたらわかることでしょう、と私が言う。アイアン・イーターはすでにこの場を去っていた。 「行けるか」 行けますと私は答えた。仲間がいれば。ダイドッグには理解できないかもしれないが、我々にとっては、とにもかくにも現地へ行ってみる、という調査哲学が、骨の髄まで身に染みている。 ヤグード・パラサイトというのは、鳥人たちに育てられている特殊なリーチである。ヤグードの腹に寄生し、胸筋を食い破って外に出るという恐るべき性質を持つ。その意味では害獣――奴らにとっての――なのだが、ヤグード教下では、本人の魂が現出すると考えられ、大切にされるという。 この歪んだ関係のせいで、パラサイトはオズトロヤ城の奥でないと見つからない。どうして一人で遂行できようか! 本当にラオグリムが突破したのであれば、見事という他はない。かのアジド・マルジドでさえ、ヤグードたちに半殺しの目にあって、九死に一生を得たのである。 途中まではインビジとスニークで進む。落とし穴を抜け、第二の仕掛けのある大扉に到達する。壁面に大きなレバーが4本つき出ており、いずれも上と下にセットできるが、4本とも正しい配列にしないと開かないという凝った仕掛けである。しかもその組み合わせは、毎日変更されるというのだから面倒な話だ。
扉を抜けて3階へ向かうと、道は一本となった。ここを進むと、中央に池のある大きな広場に出る。そこへ到達するまでが骨である。通路に満ちているヤグードを一匹一匹たたき殺して行く。我々が通った後は、血の跡しか残らない。 広場にいるヤグードを始末して、池を覗いてみると、膝が浸るくらいまでの浅い水に満ちており、その中を、4,5匹くらいのリーチが跳ね回っていた。リーチそのものは特別強くはないが、非常に近い位置にいるので、リンクの可能性が高い。Ragnarokが釣り役を買って出た。2匹連れてきてしまったが、無事にしとめ、パラサイトの皮を手に入れることが出来た。 任務完了ののちは、さっさと退散するに限る。我々は魔法で外へ出て、デジョン2でバストゥークへ送り届けてもらった。 ラオグリムは友達のために、オズトロヤから一人で生還した。私は友達を連れていった。清貧を潔しとするどころか、常に戦利品を持ち帰り、それを糧に生活している。実力が違うのは勿論だが、冒険者という生き方は、彼の哲学とは大きく異なるのだ。それでも伝説のクリスタルの戦士は――伝説に従えば――我々の中より生まれ出で、ヴァナ・ディールの転覆、世界の破滅を救うのである。 私がダイドッグに品物を届けると、彼はそのぶかぶかした皮を手に取り、「本当にオズトロヤで手に入るのか!」と嘆息した。 「間違いない……これで出来た靴を俺は持っている」と彼。 「誰かから贈られたものだ。手紙が添えてあった。ただ一言だけで、差出人の名はなかった。『約束のものだ』と……。そんなことをする人間の、心当たりはたった一人しかいない。 ラオグリムは守ったのだ……覚えていたのだ……俺自身すら忘れかけていたような、幼い頃のささやかな約束……」 「その橋の上を」 ダイドッグは頭上を指した。鉱山区の渡し通路が続いている。 「二人で歩いていたときのことだ……遅れがちなラオグリムに文句を言ったときだった。そうだな、二人ともまだ小さかった。今のデッツォか、グンバくらいの歳だったはずだ……」
「小さいときの話だ。そんな約束を覚えているものだろうか……」 ダイドッグは独りごちた。しばらく余韻に浸っていたが、ともあれ私に礼を述べ、報酬を渡したいから、明日きてくれ、と言う。自分はこれから靴を縫うつもりだ、とも。贈られてきたプレゼントも、ずいぶんと古くなったことだから。 鉱山区の坂をのぼっているとき、背後から彼のつぶやきが聞こえてきた。 「かけがえのない友人だと……畜生、あいつめ」 私がファイターカリガを手に入れた経緯は以上である。しかしながら、もうひとつのライバル同士――デッツォとグンバについても述べておかねばなるまい。 私がミスリルサリットを持っていくと、デッツォは「これであいつを打ちまかせる!」と飛び上がって喜んだ。約束の場所へ行くと言って、意気揚々と兜を担いでいく。壊されてはたまらないからついていった。 街頭にグンバが立っていたが、手ぶらだった。「見ろ! お前の負けだ!」デッツォは兜を頭上に掲げて突進した。グンバがあっと息を飲んだ。そこに、見慣れたヒュームのむすめ、コーデリアがやって来て、こちらの倍は立派だと思われる、ぴかぴかの兜を差し出して言うのだった。 「ほら! ゴールドアーメットよ。これなら十分でしょう」 敗北を悟ったデッツォは、ライバルを激しくののしり出した。 「卑怯だぞ! 借り物じゃないか!」と言う。 「きみだって兄ちゃんから借りたんじゃないか。おあいこだよ」とグンバ。 曲がり角の陰に隠れていたのが見えていたようである。デッツォがこちらを振り向いて、うらめしそうに私をにらみつけた。 状況が理解できていないのは、ひとりだけだったようである。 「何の話?」とはコーデリア。 「冒険者のガルカさんが、兜をなくして困ってるっていうから、持ってきたのよ。デッツォ、あんたのそれは……」 彼女は突然事情を理解した。そのときグンバは既にこの場をはなれて、角を曲がりつつあった。 「こら! 騙したな! 待ちなさい!」 マフラーをなびかせて、コーデリアは走っていってしまった。デッツォが肩をすくめて、ミスリルサリットを差し出した。 「ごめんよ。とりあえずは……勝ったのかな。いいや。それにしてもグンバめ、逃げ足だけは速いやつだ」 「おおかた、特別な靴でも履いているんだろう」 私は言った。デッツォが口をあいた。私は呵呵大笑して、兜を脇に抱えたまま、バストゥーク鉱山区を後にした。 (05.01.16)
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