その315

キルトログ、幽霊に会う

「開かずの道具箱?」
 イン・パカナクは、小ずるそうな口ひげをぴくぴくと動かした。
「ああそんなのが、何年か前、ブルーゲルから回ってきたかねえ。きったない箱でさあ。宝物でも入ってるかと思いきや、どうやっても開かないの。外見から、鎧職人の道具箱に違いないってんで、ほれあの、上層のおやじのところへ持っていったんだけどね。いらないって」

 売れたのだろうか?

「まさか! あんなの誰が買うかねー。だって開かないんだよ。本職が引きとらないんだもの、売り物になんかなりゃしないよ。
 あんたあれが欲しいの? ほんと?
 (瞳を細くして)いやいや、あんたなら力持ちそうだから、きっと開くよ……。職人になりたいの? モノはいいはずよ……ブルーゲルんとこは目利きだからさ。あんた何となく、デッドリー・ミノウに似てるじゃない? 時々言われる? あっそう。
 あの箱……10000ギルといいたいけど、お兄さん男前だから、1000ギルでいいわよ」

 私が札を取り出すと、ミスラは歓喜のあまり、キュウーと鳴いた。
「へへへ、毎度あり! 品物はね、ジュノ港の市場の前、木箱の上に置いてあるから、持ってっていいよ。バイバイ!」
 要するに捨てているのだ。そんなのに1000ギルを取られるとは、詐欺も同然である。


市場前の木箱。
ヒュームのLeeshaさんも「幽霊を見た」と証言

 ジュノ市場の木箱は、地下の免税店前にある。確かに道具箱が放り出してあった。無造作といえばあまりにも無造作であるが、この薄暗がりでさえ、小汚さが伺える。なるほど誰も手に取らなかったとしても不思議ではない。

 私がそれを手に取り、埃を擦り落とすと、突然に照明がふっと落ちた。あっと叫ぼうとしたが、声が出ない。身体も動かない。金縛りとなって立ち尽くす。そのとき箱がゆらと揺れたかと思うと、坊主頭の男がたち現れて、青白い顔で私の目を覗き込むのであった。

「汝、我との契約を望むか」

 声が脳に響いた。その一事からだけでも、彼が生きている人間でないことがわかる。

ズヴァール城に行くが良い。闇の炎を、篭手とともに箱の中へ入れよ。契約は為されるであろう」

 男は消えた。いつの間にか、市場の景色が戻っていた。


(05.01.23)
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