その318 キルトログ、竜の卵を掘り出す ヴァナ・ディール各国には学術機関がある。ウィンダスは目の院、バストゥークは新技術開発を兼ねて、大工房がその役割を担う。サンドリアは大聖堂である。アルタナ教が全ての中心にあるこの国では、あらゆる学問が神学中心に派生した観がある。 研究室は大聖堂内に設置されており、本の数こそウィンダスの比ではないものの、学生は熱心に古書をめくり、勉強を続けている。私は彼に、竜のことを知りたいのだがと告げた。 「ウオーレーズ先生があちらにいらっしゃるよ」 学生が片手を振る先には、僧衣服を着た中年のエルヴァーンが立っていた。 「先生、先生!」
ウオーレーズは慇懃に頭を下げて、考古学の研究をしていると言った。肩書きは意外であるが、竜のことについて尋ねて、二人が二人とも彼の名を挙げたということは、やはり竜研究の第一人者なのだろうと思われる。 「竜騎士の竜についてか。ふむ。君がどこまで知りたいかにもよるが」 ウオーレーズは言った。 「竜騎士の竜が、すべて聖竜であるというのは知っているかな。竜には聖竜と邪竜の二種がある。その別は先天的に決まっている。竜には生まれつき「印」があるのだ。印の概念を説明してもいいが、他国人には難しかろうな。ふむ。要するに竜は、生まれつき聖印と邪印、どちらかを背負っているということだ。 聖竜と邪竜の違いは、何となく理解できるだろう。前者は人を生かし、後者は人を喰らう。竜とは恐ろしい力を持った生き物であり、それを使役する者は、槍をとって勇猛、魂において高潔でなければならない。エルパラシオンの死去より80年、竜騎士は絶えて久しいが、長く尊ばれてきたのは以上の理由によるのだ。彼らの竜との契約についてだが……」 ウオーレーズが口をつぐんだ。鎧の音がしたからである。扉が開いて、一人の騎士が入ってきた。黒光りのする重層鎧に、紅蓮の前垂。肌は浅黒いが、短く刈った髪は雪のように白い。 「これはこれは、ラーアル卿」 ウオーレーズは両手を広げた。 「大聖堂にお越しになるとは珍しい。して何の御用です」 皮肉の響きがあったが、ラーアル――サンドリア王国王立騎士団団長――は一向に介さず、低い声で言った。 「ウオーレーズ殿、大聖堂の警備責任者はそなたであったな」 「そうですが」 「かわりはないか。不審人物を見かけたというような」 「いや、何も聞いておりません」 「そうか」 ラーアルはこちらをじっと見つめた。まるで私が不審者だとでも言いたげである。 「それならばよい。また異常があったら報告して貰いたい」 「とは言いましても、クリルラ卿の手前がございますので」 ウオーレーズは頭を下げた。 「個人的なお話ということで伺っておきましょう」 僧籍を持つ彼がこう言ったのは明らかである。国内警備の任に当たるのは、教皇下の神殿騎士団であり、ウオーレーズに王立騎士団への報告義務はない。ラーアルを久しく見なかったと言ったのも、それを揶揄したものだと思われる。 ラーアルは、口中でもごもごと言いながら去っていった。彼が警備のことを気にかけるわけがない。だとすれば、何が彼を大聖堂に来させたのだろう。 「とんだ邪魔が入ってしまったな」 とウオーレーズ。「まだ何か聞きたいかね」 私はそれとなく、シラヌスについて水を向けた。彼が竜騎士であれば、エルパラシオンをもって「最後の竜騎士」とするのは妙である。しかしウオーレーズは、眉を曇らせて、「不幸であった」と言うだけだった。どうも彼については、誰もかれも歯切れが悪い。ボストーニュに放り込まれたくらいだから、何かとんでもない罪をやらかしたのだろうが、おかげで彼の存在が半分「なかったこと」にされかかっているのだ。 ウオーレーズはしばらく思案していたが、やがてぽんと手を打ち、私にこう言った。 「それはそれとして……ちょうど良い、仕事を頼まれてくれるかな。問題の竜に関してなんだが、どうするかね?」 しばらくの後、私はシャクラミの地下迷宮にいた。背中にはつるはしが数本。考古学者のウオーレーズに、竜の卵を掘るという大任を仰せつかったからである。 ウオーレーズによれば、竜がシャクラミに卵を生んだらしいという噂が、前々から彼の耳に届いていたらしい。本当なら早く回収するべきである。竜は昨今孵りが悪いし、悪名高きドラゴンスレイヤーに見つからないためにも、早く保護する必要があるからだ。 つるはしを使った乱暴な採掘で、卵を割らないか心配だったが、目的のものはすぐに掘り当てられた。さすがに竜の卵は巨大で、たっぷりタルタルほどの大きさがある。私はそれを丁寧に背負い袋へ入れた。もしこの中に生きた竜が眠っているなら、黙殺されたシラヌスに継ぐ、新しい竜騎士誕生にも立ち会えるかもしれない。
(05.02.01)
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