その323

キルトログ、闇の王に挑む(1)
 
 伝説は、こうはじまる。すべての起こりは『石』だったのだ、と。
 遠い遠いむかし、おおきな美しき生ける石は、七色の輝きにて闇を追い払い、世界を生命でみたし、偉大なる神々を生んだ。
 光に包まれた幸福な時代がつづき、やがて神々は眠りについた。
 世界の名はヴァナ・ディール……。
 そしていつか、祝福されしヴァナ・ディールの地に、おおいなる災いが満ちようとしていた。

 何万年の永きにわたり、暗黒を退けていた古の封印がやぶれ、終わりなき悪夢が目覚める。罪なき者の血が大地を流れ、世界は恐怖と哀しみ、絶望におおわれるだろう

 だが、希望がないわけではない……。どんな嵐の夜をもつらぬき、輝くひとつの星がある。どんな獣の叫びにも消されず、流れるひとつの唄がある。

 そうだ。知恵と勇気と信念をたずさえた、誇りたかき者たち……。
 さあ、深き眠りよりさめ、いまこそ立て、伝説の勇者たち、クリスタルの戦士よ!
――紡がれし伝承

 魔法を使ってザルカバードに降り立ったとき、私は1人ではなく、5人の仲間と、さらに4人の護衛に囲まれていた。いずれも闇王の城へ乗り込もうとする命知らずの連中である。

 ガルカのSteelbear。吟遊詩人57、白魔道士28レベル。
 エルヴァーンのLibross。黒魔道士57、白魔道士28レベル。
 ヒュームのGoras。ナイト60、戦士30レベル。
 ヒュームのRagnark。ナイト57、戦士28レベル。
 ヒュームのLeesha。白魔道士58、黒魔道士29レベル

 そして私――ガルカのKiltrog。戦士58、忍者29レベル。

 氷に覆われた堀を越え、くろがねの門を潜るときも、私の心は不思議に平穏であった。足音を殺し、姿も消して、デーモンの衛兵の前を――からかうように――抜けていく。

 回廊には粉雪がちらちらと舞い落ちてきていた。

 闇の炎が静かに燃える門前を通って、城内へ入った。ここでちょっとした小ぜりあいがあった。屋根の下で息をついていたところ、巡回するゴブリンに見つかってしまい、たちまちに戦闘となった。10人である。世界を救うには頼りない人数かもしれないが、獣人軍の本丸で隠密行動を取るには、少々にぎやかすぎた。幸いに全員が手練である。Steelbearの歌や、Leeshaの魔法などで、ゴブリンをたちどころに眠らせ、大きな騒ぎを招かせる前に片づけることができた。

ゴブリンとの戦闘

 獣人との戦いにひときわ燃えているのは、

 タルタルのLandsend(モンク)
 ヒュームのUrizane(黒魔道士)
 ヒュームのIllvest(ナイト)
 ヒュームのSif(白魔道士)

 の4人である。というのは、我々6人を護衛して、本丸まで無事到着させることが、彼らの役割だったからだ。この城には獣人が集結している。パーティ単体だけで突破するには危険であり、そのためにはどうあっても、彼らの力が必要なのであった。

 我々はしばし休憩をとって、再び進軍を開始した。外郭の四隅にはそれぞれ、ゴブリン、ヤグード、クゥダフ、オークが詰めている。こちらは姿と足音を消しているが、魔法や薬の切れるときに、不意に切りつけられることがある。そんなときに護衛役の彼らは、存分に働いてくれた。獣人の仲間が集まってこないうちに、さっさと黙らせる。我々が得物をとる手間すらいらないほどだ。私は彼らの好意に甘えた。とにかく先に待つ戦いのために、体力を温存する必要があったからである。


 闇の王復活の話は、冒険者たちの間でもまことしやかに囁かれていた。もっともそれは噂であり、ジュノですれ違う彼らの、いったい何人が闇の王そのものを見たことがあるのか、私には非常にあやしいように思われた。

 真実が広まるのは避けなければならなかったが、信用できる友人たちには実情を話し、そのうえで協力を乞うた。話した人の中には、ウィンダス人、サンドリア人、バストゥーク人のすべてがいた。人類最大の脅威が迫ろうとしているのに、我々の国はいずれも、軍隊による解決に二の足を踏んだ。そう、ヴァナ・ディールの要人たちは、一連の事実と、それが世界にもたらす危険性をじゅうぶん理解していながら、冒険者が事態を解決することを望んだのだ。市井の人々が、気軽に雑事を頼むのと同じやり方で――難問を投げかけるだけ投げかけておいて――こちらに方法の一切を任せたのである。

 闇の王を倒す、そんな決死行に、誰が喜んで名乗りを上げるだろう? しかしながら私は、幸せにも、この点について迷わずにすんだ。私の友人たちは、揃いも揃ってひとかどの英雄か、あるいは馬鹿ばかりだった。いいだろうKiltrog、と言うのである。それだけだった。彼らの胸に去就したはずの様々な思い――恐れ、不安、恐怖――のことは、私は知らぬ。そういうことを喋るような連中ではなかった。我々が迎える戦いは、間違いなく一世一代の大勝負となるだろう。にもかかわらず、我々は気軽に話した――おそらく傍から見ていれば、次の鍛錬の約束でもしているように映ったに違いない。

 彼らの中から5人を選んだのは、わずかに数日前のことだった。中には私の妻もいる。彼女も冒険者として、政府から非公式の命令を受けたくちだ。いろんなところに声がかかっているらしい。まったく賢い連中だ。我々が捨て駒になっても、国の連中のふところは、ひとつも痛むことはないのだから。



 午後、我々はズヴァール城内郭に到着した。

 Librossがいみじくも漏らしたように、内郭は闇の力に覆われていて、より瘴気が濃かった。脳がくらくらとしたが、毒気に当てられてはいかん、と自分を取り戻した。押し殺したような笑い声が、地の底から響いてきた……。ズヴァール城の内深部は、まったく地獄に近い場所だった。

 王の間はもうすぐです、と護衛役のUrizaneが言い、我々を先導した。目の前に大広間が広がる。巨大な柱が紫色の霧に浮かび上がった。この闇の向こうに、人類の仇敵、獣人軍の首魁がいる。冷静さを保っていたはずの私の心臓も、いつしかはやがねのように、激しい鼓動を繰り返していた。


(05.02.25)
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