その324

キルトログ、闇の王に挑む(2)
ズヴァール城内郭(Castle Zvahl Keep)
 二十余年前、獣人勢力を束ね上げた『闇の王』が、この地で旗揚げした時、ザルカバードにあった古代の遺跡を基礎として築いた堅固な根城。
 クリスタル戦争時にアルタナ連合軍に破壊された筈だったが、最近再築されたとの噂が絶えない。
 以前ズヴァール城において、闇の炎を得たついでに、時間をかけて宝箱を探したことがあった。そのときには何も見つからなかったが、後日あらためてここを訪れ、ファイタークウィスを回収することが出来た。それはいま私の両足を包んでおり、静かに出番を――最高の晴れ舞台を――待ちわびている。

 宝箱は外廓で見つかった。蓋を開けるころには、城の危険にもだいぶ慣れ、恐怖感は薄れてきていた。もし内郭の奥深くに設置されていたら、同じ感想を抱いただろうか。濃い闇に包まれた内郭の威圧感は、外廓のそれの比ではない。その直接の原因、諸悪の根源が、大広間の奥に眠っているのである。仲間たちもさすがに圧倒されて、軽口を叩くことが少なくなっていった。

 獣人がうようよたむろする細い廊下を、我々は進んでいった。行く手はたびたび大きな石扉や、頑丈な格子に邪魔された。これを越えるのは簡単だ。少し重いが、両手で持ち上げればいい。ただしそのときには、インビジを解く覚悟が必要だった。姿を消す魔法はデリケートで、術のかかっている者が、他者に積極的に働きかけようとしたとき、たちどころに効力を失うのだ。したがって我々は、扉が来るごとに、獣人に見つかる危険を負ったし、時には実際に戦いになって、強引に血路を開いたりした。

 障害は石の扉にとどまらない。通路を通り抜けたと思ったら、やっかいなものが我々を待ち受けていた。魔法で乗り手を飛ばしてしまう瞬間移動装置(テレポーター)である。

テレポーター

 テレポーターは、ホラやデムなどの奇岩で見られる台座に似ていた。顕著な違いは、台座の高さ――簡単に上ることができる――と、水晶のかわりに魔法陣が描かれてあることである。

 同様の装置は一部外廓にもあったから、使い方は知っていた。台座に上ってじっとしておく。時間がたつと魔法陣が鈍く光り、同じ装置がある場所へ送られる。送り手と受け手の装置は決まっている。別に罠というわけではないから、ランダムにいろんな場所へ飛ばされるということはない。

 つまりテレポーターは、単なる移動機械に過ぎないわけである。これの何がやっかいなのか? 問題はやはり、インビジが解けてしまうという事態にあった。この不安定な魔法は、テレポーターの瞬間移動に耐えられないのである。もし送り手先の装置の周囲に、強力なデーモン族が徘徊していたら、たちどころに見つかってしまう。装置が作動する前に転送先の状況を知る方法はない。我々は運にも頼らなくてはならなかった。

 より面倒なことに、テレポーターはきっちり作動するとは限らないのだ。ときどき送り手の何人かを装置の上に残してしまう。私一人を残して、皆が移動してしまったときは慌てた。しかもデーモンが目の前にいる状態で、インビジとスニークが同時に切れかかっていた――万事休すと思ったときに装置が作動し、私はみんなと合流することが出来た。



 テレポーターから送られるのは、同じようなかたちの部屋ばかりだったが、何度か繰り返して、小さな屋根の下へ出た。西に向かって大きく出口が開いている。庇(ひさし)はつららか、牙のようにぎざぎざしており、雪模様をいびつに切り取った風景の中に、灰色の尖塔が大きく浮かび上がっていた。

 粉雪と強い風が吹き込んでいる。我々は肩を抱いて、尖塔に近づいていった。


 これまでに辿ってきた経緯、尖塔の壮大な構えからして、断言しても構わないだろう。これこそ、ズヴァール城の心臓、闇の王が眠る王の間なのである。近づくにつれ両開きの巨大な扉が見えてきた。両脇には松明が燃えている。おそらく闇の炎だろう。

 扉の手前に少し広い場所があった。我々は一度そこに集まった。王の間の扉に衛兵の常駐している様子はなく、もはや我々の行動をとがめる者は――最も手ごわい敵を除いて――ない。

 私は空を見上げた。

 時は朝まだき、しかしザルカバードは暗く、分厚い雲の下にある。ウィンダスでは、そろそろ街が起き出すころだ――サンドリアも、バストゥークも。ジュノにおいては、高らかに鳴る鐘をもって朝が始まる。私の友人が守り抜いた、澄んだ音色。永世の平和を願う鐘の音。
「決して無駄にはさせぬ」と私は言った。
「女神よ、我らに力を」

 友人たちは膝をついて唱和した。
「アルタナよ、我らに祝福を」
「願わくば、我が友に……」
 Librossはにやりと笑った。「勝利の一閃を」
 私はぎゅっと斧の柄を握った。ダークアクスには、友人Ragnarkの銘が入っている。
「それでは参りましょう……護衛の方々は、ここで待機を」
「はい」

 
 我々6人はいま、獣人の王に挑む。余人は知らず、20年目の再戦、光と闇の真の決着を。戦いの行方を見守る者はない。剣戟の音、勝利の凱歌、あるいは敗北のうめきもまた、闇より他に聞くものもなし。


(05.02.25)
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