その325

キルトログ、闇の王に挑む(3)

 両開きの扉が、誘うように開いた。淀んだ瘴気が流れ出す……。ひるんで顔を背けたときに、脇を駆け抜けて、王の間に飛び込んでいく者があった。

 仲間かと思ったが違った。見慣れたいかり肩、身を包むくろがねの鎧と、はすに背負った両手剣。
「ザイド?」
 彼の傍らには、小柄な女の姿もある。たてがみのような髪を見れば、すぐにわかった――ライオンだ。どうやら2人は、フェ・インから引き続き、闇の王の調査をしていたらしい(その268参照)。

「これは……」
 ザイドが立ち止まった。
 王の間。中央に大きな玉座があり、獣人旗の印が赤黒く明滅する手前に、6本の水晶の柱が立っている。その中央に、黒く、大きな、四角い物体が横たわっていた。

 やがて、柱が激しく光を放ちはじめた。青と、赤と、緑色の光。どうやら柱は、魔晶石で出来ているらしい。

 黒い物体の蓋が裂け、持ち上がった――物体は棺であるようだ。というのは、中から一つの遺体が、横たわった姿勢のまま、ゆっくりと持ち上がってきたからである。遺体は巨大だった。そして、私が以前に目撃した、闇の幻影に酷似していた。



 その身体は、ゆっくりと床に降り立ち、しゃがみこみ、我々に視線を向けた。

「暗黒騎士、ザイド……」
 それは、もの憂げに声を出した。
「久しぶりだな」

「20年になるのだ、闇の王よ」
 ザイドは両手剣の柄に手をかけた。
「クリスタル戦争――あの最後の戦い以来だ」 

 闇の王は、低い声でくっくっと笑った。
「さて、最後の戦いとは、おかしなことを言う。人類の滅亡するまで、我が命の尽きることはない。20年の眠りとは、少々長きにわたったが、同じ不覚は二度繰り返さぬ。もとより我は長命種、簡単にくたばりはしない」

「その、長命種とやらよ」
 ザイドは指を突きつけた。
「先の大戦で、剣を交えてわかった。お前の正体は、獣人ではない。そして長命というからには、我らと同じ種族に違いない」
「……」
闇の王よ、お前はガルカではないのか


 王の間に笑い声が響いた。勢いはすさまじく、我々は塔が、大地が揺さぶられるような衝撃を覚えた。

「どうやら、ここにも数匹いるようだが」
 闇の王は、我々をにらみつけた。ここにはザイドのみならず、私と、一行にSteelbearがいる。

「我は30年前、この地にて一度、死んだ……信頼していた友が、私を裏切ったのだ」

「なに……?」

「その男は、我のみならず、我をかばった女にまで手をかけた。人類と獣人との和平を望んでいた、我が思想が疎ましかったらしい」

「お前は……もしかして……」

 ザイドの声が小さくなった。闇の王はにやりと笑い、彼のつぶやきを無視して、話を続けた。

「だが我は死ななかった。肉体が冷たいむくろとなろうとも、魂は生きのび、深い大地の奥で、新しい力を得た。そのときに我は気づいた。我の奥に、脈々と眠る種の憎しみ……有史以前から、ガルカ族が抱いていた憎悪の炎を。

 我は戻ってきた。人としての名を捨て、誇りを捨て、憎悪の化身として復活した。我々が嘗めなければいけなかった辛酸を、知らぬとは言わせぬ。ガルカなれば! 何百年と積み重ねられてきた、我々の無念は、人類の滅亡をもってしか、あがなうことは出来ぬのだ!

 答えるがよいザイドよ。人の世を守らねばならぬ道理を! いまお前が剣をもって、我にあらがわんとする理由を!」

 今度は、闇の王が指を突きつける番だった。ザイドは化石したように動かず、ようやく喉の奥から声を絞り出した。

「お前がもし、俺の考えている男ならば」
 ザイドは震えていた。
「お、俺は……」

 闇の王の指先から、光がほとばしり、ザイドの身体をうち貫いた。ぐわっと声をあげて、彼が倒れた。ライオンが駆け寄り、暗黒騎士の名を呼んだ。「ザイド、ザイド!」
 彼は深く呼吸している。どうやら命は無事らしい。

「迷いがあるのなら、口を出さぬがよい。後でゆっくりと相手をしてやろう。
 ……今度はお前たちだ」
 闇の王の視線が、胸を押さえたザイドから、我々の方にうつった。
「答えよ。ガルカの悲しみを知りながら、何ゆえにお前たちは、我に手向かわんとするのか?」

「お前を倒すためだ」
 私は言った。
「闇の王よ、お前を倒すためだ」

「そこに、どんな大義がある」

「大義など。種族の怒り、悲しみなどは言うに及ばず。戦う理由は、すでに故国に置いてきた。誇りも、自信も、不安も、何もかも」
「ならば、お前は何を持つ」
「覚悟」



 闇の王は身を乗り出した――片手には、暗黒の炎を思わせる、まがまがしいかたちの剣を握っている。

「よかろう。相手をしてやろう……死をもってすら止められぬ我が憎悪、お前たちに思い知らせてくれる」

(05.02.26)
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