その326

キルトログ、闇の王に挑む(4)

「我が憎悪を、お前たちに思い知らせてくれる」

 闇の王は立ち上がり、剣を構えた。得物の刃渡りにしてからが、私の身体ほどはある。
「ガルカよ……名前を聞いておこう」

「ウィンダスのKiltrog」
 私は片手斧を抜いた。「参る」

 鬨の声を上げて打ちかかった。Gorasが「いけない!」と叫び、闇の王を挑発して、引きつけた。そのまま広間を駆け回り、体勢を整える時間をつくる。私は斧を握りなおし、改めて敵の、天井をつくような身体を見上げた。
「さてと」
 Ragnarokが剣をずらりと抜いた。

「生きて、帰りますか」



 闇の王、その巨体! 彼の足に向かって、交互に斧を打ち込んだが、刃はガキンと跳ね返され、腕にしびれを残すばかり。そこに振り下ろされる太刀! 風圧で身体ごと飛ばされそうな、鋭く重い斬撃を、ナイトのGorasとRagnarokは、全身を盾にして受け止めた。

 我々のささやかな攻撃は、敵の皮膚に細かな傷を残す。一方で炸裂する、闇の王の魔法。奴は呪文にも長けているのだ。ぶつけられる水の衝撃、全身を貫く稲妻の戦慄。間髪入れずに剣技――ダークノヴァ――が襲ってくる。我々は揃って吹き飛ばされ、床へと転がった。歯が立たぬとはこのことである。

「踏ん張れ!」
 私は叫び、なおも斧を振るった。

 空蝉の術が役立つかどうか。紙の分身どもは、剣のひと払い、サンダガ2の一閃で消え去ってしまう。だが私は魔法を繰り返し、王の足にすがりつく。ささやかな攻撃と防御の積み重ねが、勝敗を分けることは多々ある。我々はそれを日常的に知っている――絶望的に捕らわれず、いかに状況を打破するか。およそ「覚悟」という一点において、冒険者は他の追随を許さない。

 闇の王の足が、ふらりと揺れた。効いている、と私は思った。斧を持つ手に、なおも力が篭る。しかし敵の皮膚は硬くなり、以前よりなお手応えが薄れていく。さながら岩に向かって打ちつけているようである。

「攻撃が効いてない!」
「魔法で対抗を!」
「引きつけろ……後衛を攻撃させるな」

 Librossのストンガ2が炸裂した。落石の痛みに闇の王がひるんだ。だがこれはいけなかった――王は剣を握りなおし、渾身の力を込め、Librossの脳天めがけて打ち下ろした。わずか2度。しかし薄絹同然の装備の魔道士、たちまちに血を吹いて、瀕死となった。ここで一人でも倒れては、なし崩しに全滅させられてしまいかねない。

 2人のナイトが挑発を繰り返して、ようやく闇の王の注意を引いた。私の手は止まらない。しかし王には、ひとつもダメージを与えている様子がない。いかなる方法でか、物理攻撃を完全にカットしているのだ。やがて私ははじき飛ばされた。たまらず受身を取ったが、大柄なガルカであってさえ、闇の王にとっては、うるさく飛び回る蝿のようなものだ。最高の鎧を着ているはずの私も、受けた衝撃はLibrossと大して変わらぬ。結局のところ、鉄でもミスリルでも、王にとっては紙同然の装備なのである。

 それを考えたら、ナイトたちの天晴れなこと! GorasとRagnarokは、まったくよく攻撃に耐えた。彼らが、盾の下で、必死に歯を食いしばっているさまが見てとれる。繰り返される2種類の魔法と、剣技により、体力が徐々に削られていく。Leeshaのケアルがそれを助けるが、魔力は泉のように沸くわけではない。Steelbearが、必死に弦をかき鳴らす……。彼の高らかな歌が、Leeshaと、魔法が得手とは言えないLibrossを癒し、鼓舞する。Steelbearの喉がもつかぎり、歌が尽きることはないが、魔力の回復が追いついていない。持久戦に持ち込まれては、我々の敗北は明らかだ。できるだけ迅速に、決着をつけないといけない。

 もし我々が、奴の息ひとつ乱すことが出来なかったら――私はさっさと諦めていたかもしれぬ。しかしながら、闇の王の動きは、目に見えてにぶり始めていた。奴とて無限の力を持っているわけではない。我々が希望を抱いたとき、勝敗の天秤が傾きをやめて、激しく動き始めた……。こちらの魔力が先に尽きれば、奴はたやすく我々をひねり潰すだろう。どんな順で殺されるかは大した問題ではない。どのみちそのときには、すべての希望が死ぬのだから。人類は滅ぶのだから。世界は終わるのだから。

(させぬ!)

 闇の王が片膝をついた。肩で荒く息をしている――「おのれ……」と声を絞り出す。「おのれ……」その声にも、もはや力はない。

「勇者も、英雄も要らぬ」
 私は言った。
「我々がいる。我々が世界を守る」

 渾身の一撃が、奴の眉間を割った。断末魔の叫び。

 闇の王は崩れ落ちた。


 Leeshaが「やった!」と叫び、手を打ち合わせた。我々は疲労困憊の極みにあった。もう数分戦闘が続けば、持ちこたえられなかったかもしれない。その場に崩れ落ちて、どろのように眠りたい。とどめを食らわせたとき、脳裏をよぎったのは、まずそのことだった。

 だが――何ということか――闇の王は、床に倒され、地面を嘗めながらも、諦めていなかった。憎悪は失われていなかったのだ。

 奴の皮膚にひびが走り、ぱりぱりと音を立て始めた。表層が砕けて、内側から闇の噴煙が噴き出す……。より獣じみた声をあげて、王は吼えた。その姿には、獣人の長の誇りも、威厳もなく、ただ殺戮を望む、野蛮な狂気しか感じられなかった。

 とたんに闇の攻撃が、地面から湧き上がって、全員をなぎ倒した。インプロージョン! この期に及んで、これだけの余力を搾り出すとは。何という憎悪、何という執念!

「うわあああ!」

 恐怖が私に伝染した。斧を握って、力まかせにランページを打ち込んだ。霊木のようだった皮膚は、今は生身となり、ざくりと裂けてから、血を霧のように噴いた。「スピリッツウィズイン!」RagnarokとGorasの剣が舞う。最後の力を振り絞って、我々はありったけの技と、魔法を使った。

「マイティストライク!」
「女神の祝福!」

 混乱の時の最後に、闇の王の心臓をとらえたのは、Librossの古代魔法だった。王のお株を奪う稲妻――バースト――が炸裂した。今度こそ息の根を止めた! 我々は得物をおさめたが、何ということ、闇の王は動いている、動いている。以前よりいっそうぎらぎらした目で、我々をにらみつけた。恐るべし。とどめを差されるたび、闇の王は、理性の衣を脱ぎ捨てて、底なしの執念と憎悪を剥き出しにしていくのだ……。

「まだだ! まだ終わらぬ! 言ったはずだぞ……たとえ死すらも、我の憎悪を止めることは出来ぬのだと!!」


(05.03.01)
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