その332

キルトログ、海賊の頭領に会う(1)

 私は目を覚ました。
 薄暗闇の中に、梁(はり)がぼんやりと浮かんでいた。半身を起こそうとしたら、心臓がずきっと痛み、顔をしかめた。幸い、先刻よりもやわらいでいるようだ。この調子なら、順調に回復しそうである。後遺症が残ることもないだろう。

「起きた?」

 傍らにライオンがいた。広い部屋の片隅だった。ろうそくの灯りが弱く、満足には見えないのだが、壁は板で作られているようだ。岩窟内のノーグには、こういう作りの部屋は少ない。それもこの規模となると、可能性はおそらくひとつ――長い廊下の突き当たりにある、頭領の私室の中だろう。

 部屋の半分は段になっていて、樫の木の頑丈な机があり、その向こうに、男が腕組みをして立っていた。初老のヒュームらしい。見事な銀色の髪に、銀の髭をたくわえている。東洋伝来の海賊服まで白いのだが、右目を覆う眼帯だけは真っ赤だった。さながら内なる炎を模したかのようである。

「父のギルガメッシュ
 ライオンが言った。
「ここの頭領をやっているの。海賊の親玉といったところよ」


頭領ギルガメッシュの扉

「話はだいたい、娘から聞いている」
 ギルガメッシュは不機嫌そうな声を出した。
「やはり、ジュノだったな。大公兄弟にはきな臭さを感じていて、娘に探らせていたんだ。あんたとはすでに馴染みのようだが」

 ははあ、と私は思った。道理でライオンが要所要所に登場するわけだ。いったい各国の要人たちで、大公の真の正体と、その陰謀を知る者がどれだけあるだろうか。そう考えると「たかが海賊」と馬鹿には出来ぬ。思えば彼らは、東洋直伝の武術に長けた、一流の戦士たちである。この精悍な頭領が本気になるなら、ライオンのような刺客を使って、情報を集めることも難しくはないであろう。

 ウィンダスのKiltrogだと自己紹介して、ギルガメッシュと握手をした。彼は気安く手を握った。海賊はもともと冒険者には友好的だ。彼が渋面を作っているのは、私というよりジラートの兄弟を苦々しく思ってらしい。

「しかし古代人とは、とんだ真相だ。俺は学(がく)が無いからよくわからんが、ジラートというのは、とうの昔……有史以前に滅びたと聞いている。よしんば生き延びていたとして、何百年、下手すりゃ何千年も前の話だ。あんたらガルカですら200年がせいぜいだろ。だとしたら、奴らいくつなんだって話だ。
 それに――娘から聞いた。にわかには信じがたいが――クリスタルの戦士。5人いたそうだが、いったい何者なのかね?」

「思い出すのは、古い伝承ね」
「有名だな」と父親。
「近頃の子供はどうかわからんが、たいていの者は知ってる」

「何万年の永きにわたり、暗黒を退けていた古の封印がやぶれ、終わりなき悪夢が目覚める。罪なき者の血が大地を流れ、世界は恐怖と哀しみ、絶望におおわれるだろう……」

「知恵と勇気と信念をたずさえた、誇りたかき者たち」
 ギルガメッシュがつぶやいた。
「深き眠りよりさめ、いまこそ立て、伝説の勇者たちよ……ふん」
「だとしたら」
 ライオンは腕を組み、親指をかんだ。
「解釈がずいぶんと変わってくるわね。私たちは、獣人勢力こそ悪夢で、クリスタルの戦士たちが、市井から出てくると理解してた。Kiltrogみたいなね……だけど……」
人類こそが、災いである」とギルガメッシュ。
「私たちが、恐怖と哀しみ、絶望の象徴で……滅ぼされるべき存在なの? そんなのって……」

「悪役ってわけだ」

 ギルガメッシュはニヤニヤと笑った。
「俺たち海賊には、今さらって話だが。しかしまぁ……俺たちみたいな半端者でもよ……世界を滅ぼすって話には、おいそれとは乗れないなぁ。そうじゃないかい」


(05.03.22)
Copyright (C) 2004 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送