その338

キルトログ、ムバルポロスの調査をする(3)

 ムバルポロスから再び、バストゥークへ戻ってきた。銀の札の謎は解けぬままだが、モブリンとの交渉品には違いないから、一応ラヴォララに見せに行った。彼女はいったいどんな答えを導くだろう。

「ああ、鉱山労働者が身につける札ですねー」
 疑問はあっさり氷解した。
「バストゥークで発行されたものでしょー」
 そうだ、と私は手を打った。以前パルブロ鉱山から、銀の認識票を拾ってきたのを思い出したのである(その143参照)。
「ずいぶん年代ものの認識票みたいですが、モブリンたちが拾ったか、掘り出したかしたのでしょうねー。高価なものだって言われたのですか?」

 私は苦笑いをした。いやな気分である。モブリン商人の欺瞞を見破ったというのに、調子に乗って舞い戻り、再び詐欺に引っかかってしまったのだ。むろんこの認識票が、奴らにとって宝物である可能性もある。それでも公平に見て、私の行為は軽率であり、最後の注意が足りないと言われても仕方がないと思った。

 私は肩をすぼめて、反省することしきりなのだったが、責任者であるラヴォララは、まったく気に留めている様子がなかった。彼女は夢中で認識票をもてあそんでいる。学者は賢者とは限らない、特にタルタルにおいては。コル・モル博士や、シャントット博士の変人ぶりを見れば明らかであろう。

「わたくしの、青い頭脳にひらめきが浮かびました!」
 ラヴォララは興奮ぎみにそう言った。“灰色の脳細胞”なら聞いたことはあるのだが。
「この認識票には、名前が書かれているのですー。その人に尋ねれば、わたくしの考えが間違っているか、オシイところまで行ったかが、はっきりするでしょうー」

 どうやら彼女の興奮は、名前を発見したことに起因しているのである。ただ、そううまくいくかどうか。札は大昔のものだし、鉱山で掘り当てられたのだとしたら、持ち主が死んでいる可能性の方が高いわけだ。
 それにしては、ラヴォララは自信満々である。私はそれよりも、認識票を持ってきてくれ、と言っていた、例のガルカに話を聞く方がいいと思った。20年前にパルブロ鉱山で事故にあったらしいが、あんな高齢であるから、もっとずっと若い時分から、鉱夫をしていた可能性がある。そうでなくても生き字引きだ。案外貴重な証言が得られぬとも限らない。
 だが、彼の名前は何であったか。鉱山区に住んでいたことは覚えているのだが。

「うーん、パ……パ……」
 認識票に目をくっつけて、ラヴォララは呻いた。文字が磨耗して見にくいのかと思いきや、どうもそうではないらしい。
 彼女は私の視線を感じて、あはははと笑ってみせた。
「よ、読めますよ! 読めますともー。これでも、ウィンダスの学校で学んだんですからねー。学者なんですからねー。共通語を読めないなんてことは! はは、あなた、まさかー。
 えー……パッ……ヴ……ヴケー? パッヴケー??」

 パヴケ?



 老ガルカの家の扉を、私はノックした。「どうぞ」と小さな答えがあった。部屋は薄暗くて、パヴケは前以上に背中が曲がり、血色悪く、元気なく見えた。

「やあ、あんたかね。今日は何の用だ」

 こんなものを見つけたのだが、と私は、認識票をぶら下げてみせた。どんどん、と扉を叩く音が、足元の方でした。扉をばたんと開け、ねずみのように転がり込んできたのは、我らが学者のラヴォララ嬢である。
「あなた!」
 いつもより甲高い声をあげ、彼女は私を激しくののしった。
「認識票をひったくり、あまつさえわたくしを無視して、置き去りにするとは何ごとですかー? パヴヴケさんのお友だちなら、何で最初から言わないんですー?」
 聞かれなかったから、と私は答えた。何せパヴケのことは、今しがた思い出したくらいである。
「いらっしゃい」
 老翁は落ち着いていた。さすが年の功というべきだろう。
「これはまたずいぶんと、可愛らしいというか、かしましいというか、珍しいお客じゃないかね。あんたはタルタルじゃないのかな」
「いかにもー。ウィンダスのラヴォララです」
「パヴケです。私のうちに用かね」
「実はですね、パッヴケさん!」
「パヴケなんだが……」
「そんなことより、これを見て下さいー。あなたの名前が書いてある認識票ですー。確かにあなたのもので間違いないですかー?」

 パヴケは慎重に、金属の札を受け取り、じっくりと目に近づけて検分した。そのあいだ、彼は無言だった。たっぷり数分は経ったろう。彼は札をラヴォララに返し、しんどそうに息をついて、ようやくこう言った。
「確かに、私のものらしい。むかし鉱山で無くしたものだが……いったいどこで見つかったのかな」
「北グスタベルグに現れた、モブリンたちの住処からですー」(注1)
「ムバルポロスか」
 老人は驚きもしなかった。

「奴ら、また現れたのかね。100年も前に消えたんで、北へでも動いただろうと思ってたが、案外近くにいたのだな……それとも何かな、地底を掘りぬきながら、巡回して戻ってきた、グスタベルグにまた出てきたとは、そういうことなのかな? え?」


注1
 オリジナルのゲームイベントでは、このあとラヴォララが、パヴケからモブリン都市の名を聞いて「むばるぽろすー?」と返す一幕があります。しかし彼女は酒場の前で、既に「ムバルポロス」の名を口にしています。エニックス・スクウェア側のミスと思われます。


(05.04.16)
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