その344

キルトログ、変装する

 ここ数日のうちに、ヴァナ・ディールそして、ジュノを襲った騒動。真龍の出現、デルクフの爆破事件。それに巻き込まれたらしい親衛隊と、正体の知れぬ少年。アルマターというらしい大公諮問機関、その長ナグモラーダ。舞台に怪役者が入り乱れて、筋書きらしい筋書きも読めない。
 いったい龍の事件と、デルクフの爆破は関係があるのか? 少年はジラートか? ナグモラーダは? もしかしたらまたしても、大公が裏で糸を引いているのではないか? 
 疑問は尽きないが、表立って調査するのは難しい。何しろ私は大公に、ズヴァール城で死んだと思われている身だし、先日の騒ぎにおいては、ナグモラーダの記憶にも残っただろう。本当なら大手を振って、下層を歩くのすら危うい身だ。そこまで用心はしないにしても、深入りしようとするのなら、正体を隠す工作くらいは必要だと思う。


 倉庫を探っていると、鋼鉄銃士隊の鎧が一式見つかった。親衛隊と同じデザインである。レベルが過ぎたので中に仕舞ったままだったのだ。
 私はそれを出してきて、思いつきを試してみよう、と考える……。
 純白の鎧を着て鏡に立った。こう言っては何だが、ガルカとしては平凡な顔立ちである。バストゥークのバベンや、上層の防具屋デッドリー・ミノーなど、似た顔は多い。大公親衛隊の一人にもいる。ハイ・ウィンドといって、衛兵役だろう、大公の部屋の前を守っていた。以前大公に謁見するときに、顔を見たことがあるのを思い出したのだ(その250参照)。

 仲間の衛兵を騙せるか自信はないが、やってみる価値はある。うまくいけば貴重な話を得られるだろう。なに、一見で気取られるようなら、そっくりさんだとすっとぼけたって構わない。


 宮殿を右手に仰ぐ東西の通りに、髭づらのいかついガルカがいる。少年の捕物に参加していた男だ。左手に包帯を巻いているから、デルクフの爆破に巻き込まれ、モンブローに手当てを受けたのではないか、と見当がつく。
 彼は私に気づき、「よう」と声をかけてきた。
 ああ、と生返事をする。ここからが大事だ。もしばれるとしても、故意に変装していると気取られてはならぬ。灰色の態度が望ましい。見知らぬ人に話しかけられて、万一知り合いだったらいけないなと、適当に相槌を打っている――見ようによってそうもとれるなら、いざという時の言い逃れも出来るだろう。

 私はしばらく考えて、君の左手は痛々しいな、と言った。余計なことを喋ってはならぬ。幸い時刻は夕方で、誰彼(たそがれ)どきであり、外見から見破られる心配はなさそうだった。
「あの先生の薬、確かに効きはいいんだが」
 予想は当たった。彼はデルクフへ出向いたメンバーだった。
「何しろしたたかに打ったからな。身体ごと吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられたんだぜ」
 彼は相当に大柄である。彼が吹っ飛ぶような爆風とは、どれほど強力なものだろう。
 私は言った。
 ――たいしたケガじゃなくて、よかった。
「本当だぜ。わけのわからん研究してるからああなるんだ。奴らの巻き添えくっちゃたまらないな。……おっと」
 彼は口を押えた。黒服の男が脇を通っていく。こうして改めて見ると、宮殿の周囲には、黒衣の人影の何と多いことか。私の気づかぬ間に、ル・ルデの庭には、アルマター機関の人間が溢れ返っていたのだ。
「頼むから黙っててくれよ。隊長には」
 ――いいとも。
「俺が見たものを教えてやる。デルクフの塔の中には、でっかい大広間があった。奴ら、そこで装置を動かしていたらしい。何の装置だかわからないが、広間の中心には、緑色のエネルギーの柱があった……。奴らが仕掛けたんじゃないと思うぜ。ほれあの、つるっつるの素材があるだろ」
 ――サーメットか。
「それだ。あの広間は、デルクフの制御装置だろうと睨んでる。アルマターの連中は、あらかた古代遺跡の謎について掴んでるんだと思うぜ」
 ――やっぱりあれか。
 私は、核心を突く質問をした。
 ――爆弾を仕掛けたのは、あの少年だと思うか?
「ありゃ爆破なんかじゃねえよ」
 ガルカが語気を強めた。
「備え付けの機械が、内側から吹っ飛んだって感じだった。おおかた、奴らが余計な実験でもしたんだろう。
 その現場に、ガキが倒れていた。最初から意識はなかった。重要参考人には違いないが、証言なんか聞けるもんかね。あげくのはて、目の前でスウッと消えやがったんだ。ありゃ妖怪に違いねえ、きっとそうだぜ。
 ……ハイ・ウィンド」
 
 ――何だ。
「ガキのことを、俺は話した覚えがないけどな……」

 しまった、と思った。だが、もう逃れられぬ。彼の呼びかけに返事をしてしまったのである。人違いだったという言い訳は、もはや通らぬと考えていい。
「お前……」
 彼の幅広の手が、がっしと私の鎧を掴んだ。

「俺が喋ったことを、隊長にばらすなよ……。ハイ・ウィンド。根掘り葉掘り聞かれたって答えてやる。お前だって、機関の奴らに睨まれたくないだろ? 絶対に黙ってろよ……いいか……」
 

ハイ・ウィンド

 ガルカのもとを離れた。肝が冷えた。変装がばれたかと思ったが、危険を犯した価値はあった。アルマター機関が、デルクフにある謎の大広間に篭り、何らかの実験をしていたらしい。爆破事故はどうやら、その時のもののようだ。

 爆発原因は不明である。しかしナグモラーダも、少年が犯人だとは思っていないだろう。おそらく何かわからぬことがあり、カギを握るはずの少年を、爆破容疑にかこつけて捕らえるつもりなのだ。真相はそんなところに違いない。
 私はついでにもう一つ、冒険することにした。もっと詳しい情報が欲しい。鎧は着たままである。私は勇気を振り絞り、今度は宮殿内の、親衛隊詰所に足を運ぶ。


「あの事件の衝撃で、テレポイントが壊れたらしいぞ」 
 ひときわ小柄な、ネラフ・ラジルフが言った。
 彼はタルタルであるが、親衛隊の一員である。実は初見ではない。エルヴァーンの淑女に悪霊がとりついたとき、彼のアドバイスを仰いだことがあった(その283参照)。彼のランプが事件解決に役立ったのだ。
 私はほお、と言った。そして先刻、ハイ・ウィンドと間違えられた声色で、出来るだけ簡潔に尋ねた。
 ――テレポイントというと、ホラとデムとメアの?
「他にどこがある?」
 隣のエルヴァーン――タルタル氏の相棒――が口を出した。
「そもそも、昔から思っていたが、あの岩はいったい何なんだろうな?」

「デルクフと何らかの関係があるんだろう」
 ネラフ・ラジルフは腕を組んで、
「岩のかたちとサーメットからして、そいつは間違いないと思う。機関の人は、北から巨大なエネルギーが来たと言っていた。察するに、爆発はそのせいだったんじゃないかな? 人為的なものじゃなく」
「北から? 何だ?」
 ――真龍かな。
 ネラフ・ラジルフが頷いた。
「真龍はシェーメヨ海から飛来した。目撃されたのは、爆破事故とほぼ同時刻らしい。ふたつの事件は繋がってると考えるのが自然だろう。
 アドリエ、デム岩に関する冒険者の報告があったはずだが……」

 エルヴァーン氏が、私の肩をぽんと叩いた。
「そうだ。冒険者によると、例の岩は空洞になってるらしいぞ。機関の研究者が調査に行っている。ギルドからわざわざ錬金術師を招いたらしいが、彼もついていってるのだろうな」
「陛下のお屋敷にいると聞いたよ」
「何と」
「謁見が先のばし、先のばしになっているらしい。そうだろうな。ただでさえ陛下はお忙しいのだもの。耐えかねてバストゥークに帰ってしまわないといいが」
「何ならあんた、会ってきたらどうだ」
「そうだよ、彼、退屈しているかもしれん。あんたもそうだろ」

 タルタル氏とその相棒とは、互いに合点合点している。私は唾を飲み込み、肩を縮めて、そっと扉から出ようとした。
 アドリエが、私の背中に声をかけた。
「それとなあ、その鎧……。便利なのはわかるが、出来たら別のを着てくれないか。あんたにそっくりなのがいるんだ。紛らわしくって仕方ないから」


注1
 真龍の登場から始まる一連のストーリーは、バージョンアップディスク『プロマシアの幻影』のミッションです。大公に敵対するのは『ジラートの幻影』。お互いのミッションは独立しており、交錯する物語ではありませんが、両ミッションが平行したKiltrogの立場からは、大公は当然敵であり、ナグモラーダの黒幕ではないか、という疑惑の対象になります。
 主人公(プレイヤー)が変装して聞き込みをするという下りは、元のゲームにはありませんが、アルマター機関の研究対象は公的に秘密であり、冒険者が簡単に探り出してしまうのは不自然と思われたので、Kiltrogには上記の行動を取ってもらいました。「キルトログ記」独自の演出であることをお断りしておきます。

(05.05.01)
Copyright (C) 2002-2005 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送